第35話
「そりゃあ色々な人に何度も言われているしな」
「なんだっ、つまらないなぁ。からかいにきたというのに」
「……そのためだけにわざわざ来たのか?」
「ああ、そうだとも!」
レベルト……暇人なのだろうか。
俺があきれていると、レベルトは笑顔とともに口を開いた。
「おめでとう、フェイク。それに、アリシア様も。僕は友人として二人の結婚を応援しているよ」
「レベルト……。……ありがとな」
俺がそう言うと、近くにいたアリシアも遅れて頷いた。
「……うん、ありがとう」
「それにしても、フェイク。キミはリールナムから戻ってからなんというか堂々としているね」
「それは……そうあろうとは思っているよ」
俺が言うとレベルトが探るようにこちらを見てきた。
「そうあろうとは?」
「今までは、自信がなさそうに見えることもあったと思う、からな。まあ、高慢ちき……というか偉ぶったようにならないようには気をつけないと、とは思ってる」
偉ぶるのと自信を持つのは違うだろう。
俺の言葉に、レベルトは真面目だなぁ、と呟きながら微笑んでいる。
「多少はもっと貴族っぽく振舞っても罰は当たらないと思うけどね」
「そうはいっても、俺は今くらいでいたいんだ」
「それは、キミらしい。まあ、その心配は不要だとは思うさ。ただ、確かにフェイクは自分の腕にいまいち自信を持ち切れていないようだったからね。その考えはいいと思うよ」
ぐっと親指を立ててくるレベルト。その言葉に、少しだけ安堵した。
「ありがとな、レベルト」
「いやいや、僕は思ったことを伝えただけさ。それじゃあ、まだ仕事の最中だろうし、そろそろお暇させてもらおうか。また結婚式の日にね」
「ああ。それじゃあ」
俺がそう言うと、レベルトは挨拶のときと同じように片手をあげ、店を出ていった。
レベルトの背中を見送ってから、一度背中を伸ばす。
相変わらず、元気な人だ。
でも、レベルトは友人として接してくれる大切な友達だ。
少しだけ元気をもらいながら時計を見ると、そろそろお昼の時間となる。
ちょうどお客さんもいなくなっているし、昼休憩のために店を閉めてもいいな。
「アリシア、ちょっと昼休憩にしようか?」
「えっ?」
「なんで驚いているんだ」
「フェイクが自分から休みを申しでるなんてって、思って」
「……俺だってもう自分のことは自分でちゃんと管理できるって」
「そっか。それじゃあ、お昼にしよっか。たまにはどこかに食べに行く?」
「そうだな。街に行くか?」
「うん」
アリシアは冗談なのか本気なのか。
それだけ、これまでの俺が鍛冶ばかりだったように映っているのかもしれないが。
とりあえず、お店の方は落ち着いてきたな。
後は、結婚式に向けて、俺にできることをしていくだけだ。
「第五話 完成」
「フェイク、アリシア。式場が決まった」
俺たちがゴーラル様に呼ばれて書斎へと向かうと、そう告げられた。
ゴーラル様が持っていた紙をこちらに差し出してきて、俺はそれを受け取る。
アリシアが一歩近づき、覗き込むようにして紙へと視線を落としている。
俺も同じように手元の紙を見る。
一枚目は地図で場所が示され、二枚目に外観が描かれた紙があった。
場所は、街にある教会のようだ。
教会に隣接された場所に結婚式用の会場があり、ここで行われるようだ。
じっと見ていたアリシアが口を開いた。
「ここっていつも使ってる場所?」
いつも、というのはバーナスト家の結婚式についてのことだろう。
アリシアの問いかけに、ゴーラル様はこくりと頷く。
「ああ、今回も借りることができたからここで行う予定だ。差し当たっては、今度の休みに貸切ることができたから下見とともにリハーサルでもしておくといい。次いつ借りられるか分からないからな」
ゴーラル様の言葉に頷きながら、俺は教会について考える。
教会での結婚式。
平民だと家族程度を集めて、近くのお店で宴会に近い形での結婚式が主だったと思う。
しかし、やはり貴族は規模が違うようだ。
リハーサルに関しては、別のときの結婚式を参考にしてあるようで、多少名前などが前の人物のものであるようだが、それでも大まかな流れは変わらないだろう。
「分かりました」
「これはレフィにも伝えてある。リハーサルとはいえ、ある程度人数が必要だろうということでレフィにそれらの手配もお願いしてあるからな」
……確かに。
結婚式の流れが書かれた紙を見てみると、新郎、新婦は俺とアリシアだとしても、それでも足りない。
最低でも、神父役の人とか細かい部分で人が必要になるようだ。
ある程度の人数を動かしてわざわざリハーサルをやらせてくれるというのは、ゴーラル様の配慮もあるだろう。
俺が初めての経験だからな……。
リハーサルを事前にやらせてもらえるのならこれほど嬉しいことはない。
「ありがとうございます」
「気にするな。ただ、オレは参加できないから二人で頑張ってくれ」
ゴーラル様は領主としての仕事があるはずだ。
そんなところまで煩わせるわけにはいかないよな。
「分かりました。ここまで手配してくれて、ありがとうございます」
「話は以上だが、何か質問はあるか?」
俺たちに視線を向けてきたが、俺もアリシアも首を横に振る。
ゴーラル様との話はそれで終わり、俺たちは書斎を後にした。
この後は夕食なので、俺たちは食堂へと向かって歩き出したのだが、そこで俺はアリシアに一つお願いをする。
「アリシア。少し話したいことがあるんだけど、夕食の後とかで時間とれるか?」
「それじゃあ、お風呂の後でも大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」
別に急ぎの用事ではないので、アリシアの提案に頷く。
「それじゃあ、お風呂の後にフェイクの部屋に行くね」
「分かった」
アリシアに聞きたかったのは、儀礼剣を作るために必要なことなので、時間を確保できて良かったな。




