第33話
「はい。私たち商人は物の物流を担うのが当然ですが、その商品はさまざまです。小さな田舎で営んでいる薬屋が、例えば物凄いポーションなどを製作していたとしても、それを知るよしはありません。そういった隠れた名店……といいますか、そういったものを発掘し、大都市に私が流通し、宣伝することによりそのお店が有名になります。そうして、多くのお客様がそのお店に訪れるということでそのお店が育っていく感覚といいますか……それが、快感なんですよね。これが好きで、私は商人をしている部分があるんですよね」
「……な、なるほど」
俺が納得していると、アルメがぼそりと口を開く。
「うわ、変な趣味でた」
「……って、同じ商人のアルメは言っていますけど」
「何か言ったかい、アルメ」
リグが厳しい視線を向けると、アルメは誤魔化すように視線を背けた。
……リグのそれは、どうやらリグ特有のものらしい。
ただ、彼なりの矜持を持って商人をしているのは確かなようだ。
リグの視線に晒されたままのアルメが可哀想だったので、俺はアルメに問いかけることにする。
「アルメは、アルメなりの商人の楽しみとかあるのか?」
少し、参考になるかもしれないと思い、問いかける。
アルメは顎に手を当て、それから声を出した。
「そうですね。私たちって商品を横流しにして手数料で儲けるみたいな感じじゃないですか? 楽に稼げていいですよね!」
「……こら、そういうことをお客様の前で口にするんじゃない」
リグがそう言ったが、アルメは誤魔化すように舌を出していた。
まあ、アルメの欲求はごく自然なことだろうとは思うので、俺は別に悪感情を抱くことはない。
むしろ素直に感情の吐露ができる彼女を羨ましいとさえ思う。
……というか、アルメは簡単にいうが、商品を仕入れ、別の都市に持っていって販売するのが商人の基本だと思うが、それってつまりは交通費など商品の販売までにかかるコストが結構あるというわけだ。
交通費などを含めた上で利益を出せるだけの商品を見極める目利きと、判断力が必要になるので、商人はそんなに楽な仕事ではないと思う。
どれか一つでもミスをすれば、その時点で大きな赤字になる。
俺が商人なんてしたら、たぶんすぐに赤字になると思う。
「俺はちょっと参考になったから、気にしないでください」
「参考ですか?」
リグの問いかけに、俺は頷いた。
「はい。今ちょっと皆がどんな気持ちで自分の仕事に望んでいるのか、調べているんですよね」
「ほぉ……それはまたどうしてですか?」
「先程の結婚式の話に戻りますが、バーナスト家では儀礼剣を用いての演出があるんですよ。その儀礼剣を俺が製作することになっていまして。やっぱり、持ち手――今回で言えば俺とアリシアがその儀礼剣を持った時に自分の覚悟を再確認できるような物を作りたいと思っていて……皆はどんな感じなのかなーって感じですね」
「……なるほど。そういえばバーナスト家様ではそういった対応があると伺ったことがありますね。そうなりますと、フェイク様やアリシア様の夢を込めて製作するということですね」
「……そうですね」
……そういえば、一番身近にいたアリシアとはその話をしていなかったな。
改めて、アリシアとそういう話をしてみようか。
「フェイク様。それで、武器の製作に関しては現在の状況的に難しいとは思うのですが……代わりにですが、素材などの購入の際に勧めていただくことは可能でしょうか?」
「えーと、どういうことでしょうか?」
「恐らくですが、今後オーダーが増えてくるとは思いますが、その際に魔物の素材を含めてのオーダーを受けることもあると思います。その場合、例えば冒険者が素材を購入するためにアルメが担当する商店にて素材を探すとか、あるいはこちらの在庫を共有しておき、フェイク様がオーダーを受けた場合に手数料を上乗せしてオーダーの依頼をだす、とかですね」
「……なるほど」
リグの話は、俺にとって悪くはない。
これまでリグにはお世話になっているし、他の街から冒険者が足を運んでくれているのは、間違いなくリグの影響もあるだろう。
冒険者にとって大きな不利益にならない限りは、協力してもいいかな。
「分かりました。それでは、それらについてはアルメとやりとりをすればいいんですね?」
「そうなりますね。時間があるときにこちらにで取り寄せられる素材などの在庫の状況、大まかな値段についてまとめた資料を用意してもってこさせますね」
「分かりました。アルメも、今後ともよろしくお願いします」
「はいっ。任せてください!」
元気よく胸を張るアルメに笑顔を返し、彼女らとはそこで分かれた。
「うまくまとまって良かったねフェイク」
「そうだな。とりあえず、これで落ち着いたし、俺は工房の方に行ってくるな」
「うん。いってらっしゃい」
アリシアに店を任せ、俺は工房へと向かった。




