第32話
ウェザーには以前長剣を作ったため、そのグレードアップ版ということで話は落ち着いた。
実際に作り始めるまでまだ時間はあるな。
俺は最後に追加で確認を行う。
「一応、追加してほしい素材があるならもちこんでくれれば対応するからな」
「……分かりました」
俺の言葉に、ウェザーはこくりと頷いた。
予約を終えると、店内を見て回っていたイヴァスがこちらへとやってきた。
「ウェザー、一ヵ月後までまだ時間あるんだし、せっかくだし超良い素材持ってこようよ!」
「……そうだな」
「そうと決まれば、こうしちゃいられない! 早く依頼を受けに行こう!」
「早く武器を使いたいだけだろう? ……まあ、行こうか」
元気なイヴァスにウェザーの表情も穏やかなものとなる。
二人は、元気よく手を振って去っていった。
「さて、次は、と」
外を見ると、再びお客さんたちが足を運んできていた。
……ちらとみたかんじ、予約しておいた商品の受け取りの人もいるが、新規のお客様もいた。
店を見に来たのか、あるいはオーダーなのか。
まだしばらく店内で様子を見ようか。
しばらくオーダーの受け取りにきたお客さんの対応をしていると、見慣れた顔がやってきた。
リグとアルメだ。
こちらに気づいた二人に、俺は声をかけた。
「二人とも、お久しぶりです」
「お久しぶりです」
「久しぶりでーす」
気楽な様子で挨拶をしてきた二人が店内へと入ってくる。
ちょうどオーダーのお客さんの対応も終わり、一息つけるタイミングでの登場は狙ってなのだろうか。
リグの気の使い方を見るに、タイミングを狙っての可能性もあるんだよな。
そんなことを考えていると、リグがすっと頭を下げてきた。
「結婚式のお話、お聞きしました。お二人とも、おめでとうございます。本当はもっと早く挨拶に伺いたかったのですが、時間がとれず申し訳ございません」
「あっ、いえ。こちらこそ戻ってきてから連絡していませんでしたし、申し訳ありませんでした」
バタバタとしていたし、鍛治工房の対応をしなければという部分が先行してしまっていた。
リグは大切な取引先なので、本当は戻ってきて店を開ける前に対応するべきだったよな。
今さらに反省をしていると、リグの後ろからひょこりを顔を見せたアルメが笑顔とともに口をひらいた。
「ご結婚おめでとでーす!」
リグの丁寧さとは対照的に、アルメは気軽な調子でそういって、リグがジトリとアルメを睨みつけていた。
そんな視線を意に介していないところが、アルメの凄いところかもしれない。
「ありがとうございます」
「もう、まさかフェイク様とアリシア様がこんなに早く結婚するなんて……私も狙っていたんですよぉ?」
「狙っていた?」
「そうですよ! 私、フェイク様のことは前から気になっていて……たくさん良い武器を作ってもらったら、私のお店がウハウハになると思って」
「商人として、狙っていたってことですね」
「それだけじゃありませんよ! それはもう異性として……」
顔を赤らめながら近づいてきたアルメに、俺は苦笑とともに体を遠ざける。
しかし、それでもアルメが一歩近づいてきたところで、俺の隣にいたアリシアから放たれる気迫が一段階強化された気がした。
それをアルメも感じとったようで、頬を引き攣らせてからぶるぶると両手と顔を横に振っていた。
「じょ、冗談ですよアリシア様? 私、お金持ちの人とか大好きですし! フェイク様なんてこれっぽっちも興味ありませんから安心してください!」
アリシアの怒りから逃れるためとはいえ、そこまで否定されると俺が悲しくなってきてしまう。
「フェイクに、男性としての魅力がカケラもないって……こと?」
「そ、それは違います! これほど魅力的な男性この世におりませんよ! あー、もう私が結婚したいくらいです! って、違いますよ! 今のは冗談って……これ、どうすればいいんですか!」
アルメが泣き叫ぶと、アリシアが苦笑した。
その様子を眺めていたリグが大きくため息をついた。
「あなたが適当なことを言わなければ良かったんですよ、まったく。お二人とも申し訳ございません。うちの馬鹿には後で厳しく言っておきますから」
「気にしないで。私も半分くらいはからかっただけだから」
アリシアがリグにそういうと、アルメは「ってことは半分は……」とわずかに頬をひくつかせていた。
……まあ、今のもアリシアからすれば冗談みたいな部分はあるだろう。
苦笑していると、リグがこほんと咳払いをする。
「……それで、本日なのですがまた武器の入荷の件でお話しようかと思っていたのですが……どうやら、それどころではないようですよね」
「えーと……まあ、嬉しいことにちょっと今オーダー以外の対応は難しいかもしれないんですよね。申し訳ありません」
俺の言葉にリグとアルメはうーんと考えるように腕を組む。
「いえ、気にしないでください。我々商人の一つの楽しみでもありますからね」
「楽しみ、ですか?」
俺の問いかけに、リグは鼻息荒く口を開く。




