第31話
「……手に凄い馴染むし、まるで腕の延長みたいに扱える……! これ、凄いです……っ。凄いですフェイクさん!」
「それなら良かったよ。切れ味もかなりあるから、怪我しないようにな」
「そんなことしませんよ!」
イヴァスはむくーっと頬を膨らませている。
興奮した様子のイヴァスだが、良いことばかりでもない。
「イヴァス。その短剣はイヴァスの夢に向かって力を発揮できるように、って作ったものだ。……素材に使った子たちもイヴァスが間違った強さを手にすれば、恐らく力を発揮しなくなる」
俺が魔鉄と対話しながら作ったのは、そんな短剣だ。
イヴァスの夢への気持ちが込められれば込められるほど、短剣自身の力も増していくだろう。
俺の言葉に、イヴァスはそれまでの興奮を抑えるように一度深呼吸をしてから、頷いた。
「……つまり、調子にのらないようにってことですね?」
「まあ、そうかな」
「……分かりました。握ってみて、フェイクさんの強い思いが伝わってきましたしね」
短剣の柄を握りしめていたイヴァスはそう言って微笑んでから、鞘へと戻した。
イヴァスの言葉に、驚いたのは俺だ。
「……え? そうなのか? ど、どんな感覚だ?」
さっきまでの真剣な空気を壊してしまうような調子ではあったが、気になるものは仕方ない。
俺が儀礼剣を作るときの参考になるかもしれないからな。
俺の問いかけに、イヴァスは顎に手をやり考える。
「なんていうか……思い……とかですかね? なんだか力を感じる……ってかんじです!」
「……なるほどな」
「どうかしたんですか?」
俺の問いかけが気になったのか、イヴァスが首を傾げる。
別に隠すことでもないので、そのまま答える。
「いや、今度結婚式するだろ?」
「あっ、そうですね! おめでとうございます!」
「おめでとうございます」
イヴァスに続いて、ウェザーも俺たちを見て口を開いた。
イヴァスは前にも言っていたが、今回はアリシアに向けてという感じだ。
「ありがとな。それで、そのときに、バーナスト家で儀礼剣を作る必要があって……それをどんな感じに作ろうかって思ってな」
「儀礼剣ですか……確かに、何かお祝い事のときとかに使っているのを見たことありますど、その剣をフェイクさんが作るって凄いですね!」
イヴァスは再び目を輝かせている。本当に無邪気な子どものような彼に、苦笑する。
「そうだな。ただ、今回の儀礼剣は結婚式に使うもので……歴代の儀礼剣を見たときにも色々な思いが込められてると思ってな。結婚するってことは色々なものを背負う覚悟が必要になるし、それを持ち主に感じてもらうにはどうすればいいかなって思ってな」
……まあ、持ち主は俺とアリシアなんだけどな。
イヴァスが先ほど握ったときに感じたという思い。
それが儀礼剣作りの参考になればいいんだけど。
「そうなんですね。僕も……さっきフェイクさんの頑張って、って感じの気持ち理解できました!」
……うん。
こればかりは聞いてどうにかなる問題じゃなさそうだ!
「そっか。……ちょっと参考にしたくて、いきなりこんなこと聞いて悪かったな」
「いえ! 僕がわかる範囲であればいくらでも聞いてくださいね!」
「ああ、ありがとな」
イヴァスが素直に言ってくれて助かった。
それからイヴァスがウェザーを見た。
「ウェザー、僕の用事済んだしオーダーの話して大丈夫だよ」
オーダーか。
イヴァスの言葉に、少しだけ頬がひきつる。
すでに予約でいっぱいなので、どのように対応するか脳内で考え始めると、ウェザーがすっと頭を下げる。
「……そのオレもオーダーしたいんですけど、予約とかって可能、ですか?」
「あー、いいけど……ちょっと先になっちゃうかもな」
「……えっ、そ、そうですか……」
残念そうに肩を落とすウェザー。
「一応、今受けている予約が一ヵ月くらい先になっちゃうんだ。だから一ヵ月後くらいなら大丈夫だけど」
俺の言葉に、ウェザーはひくっと頬が引きつっていた。
「……な、なるほどぉ。皆、早いんですね……」
ウェザーの呟くような言葉に、イヴァスが肩を竦める。
ちょっとばかり、からかうような雰囲気だ。
「ほらー、だから言ったじゃん。今行ってきたらって。昨日ならここまで先にならなかったんじゃない?」
「……そう、だな」
イヴァスが呆れた様子で言うと、ウェザーは露骨に落ち込んだよに肩を落とす。
……申し訳ないが、友人だからといって優先するわけにもいかない。
「どうする? 予約はまた今度、落ち着いたときとかでも……」
そう俺が提案すると、ウェザーは首を横に振った。
「……いや、今予約します。一ヵ月後で、大丈夫です」
「でも、たぶん結構先になっちゃうけど、大丈夫かい?」
「はい。たぶん、ですけど……フェイクさんの予約が落ち着くことはないんじゃないかって思います。凄い、良い剣ですから」
「あ、ありがとな」
ウェザーにまっすぐにみられると、少し照れ臭い。
そこまで評価してもらえることが嬉しかった。
「でも、一ヵ月後でもいいから、フェイクさんの剣がいいので、予約しておきます」
「……そうか。分かった。まあ、俺次第だけど多少早くはなると思うから……も、もちろん無理しない程度にな」
あんまり頑張りすぎるような発言をするとアリシアが気にすると思い、一応補足説明を加えておいた。




