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第19話


 夕方になったところで、俺たちは時計塔の階段を上っていた。

 この街をだいたい案内してもらったのだが、この街一番の自慢である時計塔はまだだった。


 遠くからでも街を示す時計塔ははっきりと見えているし、旅人たちの道しるべにもなるこの時計塔は内部が螺旋階段のようになっていて上ることが出来た。


 ここから見える景色がとても綺麗だそうで、特にアリシアは夕焼けが好きということもあり、この時間に時計塔に来ることにしたのだ。

 俺はアリシアとともにようやく見えた最後の階段へと足をかけ、頂上へと到着した。


 涼しい風が頬を撫でる。階段を上り火照っていた体をさっと冷やしてくれる。さすがに、それなりの高さであることからか地上よりも幾分風が冷たく感じて、少し肌寒いかもしれない。


「アリシア、寒くないか?」

「私は、大丈夫。フェイクは?」

「俺もこのくらいなら大丈夫だ。それにしても……」


 俺はじっと街を、そして夕陽を眺めていた。地平線へと沈んでいく夕陽は、アリシアが教えてくれた通り心のよどみを消し去ってくれる程に綺麗だった。


 これまでの疲労のすべてを洗い流してくれるような美しい夕焼けに、俺はただただ言葉をなくして見入っていた。


「どう、かな? 私の、そのお気に入りなんだけど……」

「滅茶苦茶、綺麗だ」


 もっと知的な言葉もあったのだろうが、俺が言えたのはそれだけだった。

 ただアリシアはそんな言葉でも満足してくれたようで、いつもの笑顔を浮かべてくれた。


「良かった、気にいってくれた?」

「ああ、もう最高だ。夕焼けも綺麗だけど、夜景とか日の出とかも綺麗なんじゃないか?」

「うん、夕陽が落ちるまでここにいる? 夜景も綺麗だよ」

「そうだな」


 ただ、ずっといるとさすがに体が冷えてしまうのではないだろうか?

 どこか、風をしのげる場所はないだろうかと屋上を見回したときだった。


「……」


 俺たちは目撃してしまった。そこで、目を覆いたくなるほどにラブラブなカップルを。

 体を抱き合わせ、激しいキスをしていた。

 俺がすぐに顔を背け、気づかなかったふりをしようとしたのだが、ぎゅっとつないでいた右手に力がこもった。


 見ればアリシアが目を白黒させ、口をパクパクと動かしてそちらのカップルを見ていた。


 これはいけない。アリシアの教育に良くない!


「あ、アリシア……階段のところで少し休憩していくか?」

「……」


 そう声をかけるが、アリシアは完全に頭が真っ白になってしまったようだ。

 俺は多少強引だったが、引きずるようにアリシアを連れ、階段の方へと歩いていく。

 

 屋上に上がる場所は踊り場となっていて、ベンチも置かれている。今は誰もいないため、くつろいでいても問題はなさそうだ、

 俺たちは並んでベンチに座ると、そこでアリシアはぷしゅーっと煙でも出てきそうなほどに顔を真っ赤にしていた。


 まだ先ほどのカップルのことを考えているのだろう。

 ……なんと声をかければ良いのかと困り果てていると、アリシアがちらとこちらを見てきた。


「……も、もしも、なんだけど」

「なんだ?」

「……わ、私たちもああいうこと、しないとってなったら……その、フェイクは…………嫌?」

「え?」


 あ、ああいうことってもしかして――。

 俺は窺うようにこちらを見てきたアリシアの唇につい視線を向けてしまう。柔らかそうな血色の良いその唇を見て、体の芯が熱くなる。


 俺はぎゅっと唇を噛んだ。

 で、でも俺とアリシアは偽装の関係だ。さすがにそこまでしなくとも――。


「そ、それは……その――」


 もちろん、俺個人としては……したくないとはさすがに言えなかった。興味はとてもある。ただ、それを口にしてしまうと今のアリシアとの関係もなくなってしまいそうで。


 俺の言葉の先を待つように顔を覗きこんできたアリシアに、俺がその言葉を言うかどうか迷っていた時だった。


「だ、だから違うんだ!」


 踊り場の方に一人の男性と二人の女性が歩いてきた。

 先ほど愛し合っていた二人である。

 ……な、なんだ? なぜか女性が一人追加されている。……そういえば先程屋上には何名か他の人たちもいた。

 

 そのうちの一人だろうか。


「何が違うよ! この浮気者!」


 泣きすがるように女性に抱き着いていた男性は、バシ! と頬を叩かれ、倒れた。

 女性二人はぷんすか怒って階段を下りていく。


「ま、待ってくれ! オレの話を聞いてくれぇーー! 浮気じゃないんだ! アレはただの間違いで……!」

「何が間違いよ!」

「最低よ、バーカ!」


 二人の女性はそういって階段を下りていく。

 その様を見ていた俺とアリシアは苦笑する。


「浮気、したのがバレたってところか?」

「みたい」


 そういってからアリシアがちらとこちらを見てきた。

 その笑顔は、少し怖かった。


「浮気、ダメだからね」

「あ、ああ……」


 先程の空気は霧散していた。

 アリシアのさっきの言葉は、何だったんだ? 本気で言っていたのか? それとも、冗談なのか?

 もう、わけが分からなかった。

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