第30話
何人かに確認をしていった。
確認というのは今抱いている夢と次に作る予定の武器などだ。
午前中に確認する予定だった人数は達成済みだ。もちろん、順番とはいかなかったがそこは宿の店主にお願いし、「戻ってきたらフェイクの鍛冶工房に来てください」と伝えてある。
鍛冶工房へと戻ってくると、アリシアがこちらへとやってきた。その表情は驚愕、といった様子だ。
「アリシア、何かあったのか?」
「フェイク。かなりの予約があったんだけど……大丈夫?」
「かなりの予約ってどのくらいだ?」
「……こんな感じ」
きっとアリシアは大げさに言っているに違いない。そう思っていたのだが、アリシアから渡された紙が明らかに増えていることに驚く。
アリシアには一日当たり十件ほど引き受けてもらうように伝えてある。
十件引き受けたら次の日に……という形で対応してくれとアリシアには伝えていたのだが、最後の紙を見てみると、予約は一ヵ月先になってしまっていた。
もちろん、完全な休日も作ってあるとはいえ、まさかここまでとは……。
……これは、休みの日を潰してでも対応してあげたい気持ちになるな。
俺が名簿を眺めていると、アリシアがじーっとこちらを見て来た。
「あ、アリシア? どうしたんだ?」
「なんだか、張り切った顔をしているみたいだけど……まさか、休みの日をなくして対応しようとか考えてない?」
「い、いやそんなことはないぞ?」
「怪しい」
まさか、そんな露骨に顔に出ていただろうか。
誤魔化すように笑っていたが、この話題を続けるのは得策ではないと思い、俺はすかさず話題を変えた。
「あっ、一応午後は工房内で対応する予定だから。オーダーの受け取りに来た人たちがいたら教えてくれ」
「わかった。もう予約の対応は大丈夫なの?」
「一応な。それと、最初に来るのはたぶんイヴァスになると思うから」
「わかった」
明日、明後日の分については宿にも話をしているので大丈夫だろうとは思う。
俺たちはレフィが用意してくれた昼飯をいただき、午後に備えた。
午後になったところで、俺とアリシアは一度店へと下りた。
というのも、恐らくだがイヴァスは時間ぴったりか少し早めに来るのではないかと予想していたからだ。
俺の見立ては当たっていた。
入り口は現在閉めているのだが、入口にはイヴァスとウェザーの二人が装備を整えて待っていた。
二人は仲良さそうに話をしていて、俺とアリシアはそんな二人を見ながら入口を開けた。
「いらっしゃい二人とも」
俺が声をかけると、二人はこちらに気づいた。
イヴァスはいつものような調子で、ウェザーはどこか緊張した様子ですぐに頭を下げて来た。
そうかしこまらなくてもいいのになぁ、とは思うけど俺がウェザーと同じ立場ならきっと似たような対応をしていたはずだ。
事実、俺が宮廷にいたときにアリシアが訪れたときはそんな感じだったし。
当時のアリシアは、「気楽に接していい」と言ってくれていたが、俺はそんなことおこがましくてできるはずがないと思って丁寧に接していた。
しかし、いざ自分がその立場になると、あの時のアリシアの言っていた意味が分かる。
もっと、気楽に接してくれてほしいものだ。
「フェイクさん、昨日ぶりです! アリシアさんも、お久しぶりです!」
「久しぶりです」
イヴァスとウェザーが丁寧な挨拶とともに会釈する。
「ああ、久しぶり」
「久しぶり。元気だね」
アリシアが笑顔とともにそういうと、イヴァスは大きく頷いた。
「そうですよ! だって、フェイクさんにオーダーをお願いしていたんですもん! フェイクさん、もうできたんですか!?」
イヴァスの問いかけに俺は手招きを返す。
「ああ、できたよ。とりあえず二人とも中に入ってくれ」
案内すると、二人はお店へと入ってきた。
いつもならば店内を眺めて目を輝かせるイヴァスだったが、今日は自分の武器をオーダーしていたということもあり興味はそれ以外にないようだ。
俺はカウンターにおいた箱を開き、中から短剣を取り出した。
鞘は簡素なものだ。
それをイヴァスへと手渡すと、彼は目を輝かせた。
「こ、これが……僕の短剣」
鞘から抜いたイヴァスの表情は、過去一番の輝きとなっていた。
刀身は黒く染まっている。
……イヴァスから受け取った素材が関係しているようなのだが、別に見た目が悪いということはない。
むしろ、かっこいいとさえ思える。
ビイレア魔鉄との相性も抜群だったし、魔鉄の持つ性質も俺ができる範囲で完全に引き出した。
個人的には最高の短剣だが、それはイヴァスにとっても同じようで目の輝きは止まらない。




