第25話
「だって、その……アリシアさんと結婚するって話がありましたし……」
「んな!? そ、そうなのか!?」
いや、それは俺としてはもちろん知っていることなのだが、なぜイヴァスにまで知れ渡っているのかということに驚いていた。
「は、はい。フェイクさんが戻ってきてから結婚することが発表されたので……」
し、知らなかった。
俺としてはもっとひっそりと結婚式を挙げたいくらいだが……そういえば、まだ宮廷にいた時も似たようなことがあったような……。
貴族の誰かが結婚する場合、パレードのようにお披露目をしていた。
たまの休日に街へ出て行ったらたまたま貴族の結婚があったらしく、パレード用の馬車に乗って手を振っていた貴族を見かけたような……。
……もしかして、俺も同じことするのだろうか?
自分が同じようなことをしている光景を想像し、わずかに頬が引きつっていると、イヴァスが両手を握りしめてきた。
視線を向けると今日一番の輝いた目を向けてきた。
「おめでとうございます! 楽しみにしてますね!」
「あ、ああ。ありがとうな。とにかく、武器のオーダーでいいんだな?」
とりあえず……結婚式に関してはもう一度忘れよう。
今は鍛冶師フェイクとして、ここにきているんだから自分の仕事に専念しないとな。
「はい! ……でも今後も引き受けてもらえるんですかね?」
「さっきも聞いてきたけど、結婚とかと何か関係あるのか?」
「だって、正式にバーナスト家の鍛冶師になったら、貴族さんの武器を作ったり忙しくなっちゃうんじゃないですか?」
……なるほど。そういう心配をしていたのか。
確かに、結婚したら今後も今のようにお店へ来れるかは分からない。
「いや、どうだろうな? 今のところそういう話はないけど……続けられるなら、今の仕事を続けるつもりだよ」
まあ、さすがに結婚式間近になると俺の方が一時的に断るかもしれないけど。
特にこれからの行動について話し合っていないが、今はまだ問題ないと思う。
というのも、朝食のとき俺はアリシア、ゴーラル様と共に食事をしていたのだか、そこで鍛治工房に行く話をしても特に何も言われなかったからな。
「そうなんですね。それなら、この短剣の強化版をお願いできますか!?」
そう言って差し出してきたのは、俺がイヴァスに作ってあげた短めの剣だ。
イヴァスは短剣と呼んでいるようだな。
かなり使い込まれていて、イヴァスが相当な回数戦闘を行ってきたのがわかる。
拙いながらもエンチャントの修復もされているな。
どこかのお店にお願いしたんだろうと思う。
「分かった。この短剣をモデルに作ろうと思うが。例えば魔物の素材とかは持ってるか?」
「あっ、ありますよ! この前Cランクの魔物と戦ってきて……これお願いしてもいいですか!?」
そう言ってポケットから差し出してきたのは何かの魔物の牙だ。
魔物の名前までは分からないが、かなり質の良い牙だ。
彼から受け取った短剣と牙を手に取り、苦笑する。
「Cランクくらいの魔物か? もうそんなに戦えるようになってたんだな」
「ふふん! 頑張りましたからね! それで、これ全部で金額はどのくらいになりそうですか?」
「そうだな……ビイレア魔鉄を使うとして、十万ゴールドでいいかな?」
「……え? そのくらいでいいんですか!?」
「ああ。ただ、安くする代わりに俺が店を開けたことを知り合いの冒険者とかに宣伝してくれないか?」
イヴァスの行動力と交友関係の広さなら、恐らくかなりの人たちに知れ渡っていくだろう。
宣伝費用と考えれば、多少安めにしても問題ない。
「分かりました! 伝えて回りますね!」
元気よく敬礼をしたイヴァスに頷きつつ、俺は素材と短剣を見比べる。
……次に作るイヴァスへの武器は、彼にとってもかなり重要なものになるはずだ。
そのためにも、聞いておきたかった。
「なぁ、イヴァスの今の夢ってあるか?」
「夢……ですか?」
「ああ。ちょっと短剣を作るときの参考にしたいと思ってな」
俺がそういうと、イヴァスは少しばかり照れくさそうにしてから、真面目な顔とともに言った。
「うーんと、一応そのSランク冒険者になりたいですかね」
「Sランク冒険者、か」
「は、はい。昔は、そのあまり冒険者が大変だとは知らなかったので、もっと簡単に言えたんですけど……今は、ちょっと無謀かなって考えてます。でもSランク冒険者になるためならなんだってやりますよ!」
「それが、夢への覚悟ってところか」
「そうですね」
なるほどな。
イヴァスは冒険者としてより成り上がるためにこの短剣とともに戦っているんだよな。
そう思うと、この短剣を作るのにより一層力を入れないといけないと思わされる。
彼の夢を叶えられるような立派な剣を作らないとな。




