表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宮廷鍛冶師の幸せな日常 ~ブラックな職場を追放されたが、隣国で公爵令嬢に溺愛されながらホワイトな生活送ります~  作者: 木嶋隆太
最終章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

179/202

第20話


 明らかに様子が変わり、俺はゴーラル様の様子に身構える。


「初めは、面白くない部分もあったぞフェイク」

「え? な、何がですか?」


 厳しい物言いに困惑しながら問いかけると、ゴーラル様の表情はさらにこわばっていく。


「何がも何も、お前も娘を持てば分かるはずだ。オレの可愛くて美しい娘が、どこぞの馬の骨とも分からない奴に惚れ、挙句の果てにはそいつを連れて帰ってきたのだからな」

「……」


 俺がゴーラル様の視線から逃げるようにアリシアを見ると、アリシアは僅かに照れた様子で顔を俯かせていた。

 そんな俺たちの様子など気にせず、ゴーラル様は構わず続けた。


「勘違いするなよ。……面白くなかったのは、初めだけだ」

「え?」

「認識はすぐに変わったよ。おまえの鍛冶の腕は確かだ。アリシアの相手はもともと鍛冶能力の高い人間と考えていたからな……その中で、アリシアが望む相手となればオレも文句はつけられない」

「ゴーラル様……」

「何より、フェイク。おまえの人柄はアリシアの隣に並んでも何も文句のつけどころはない」

「ゴーラル様……」

「ただ、もう少し自信を持て、と思うことはあるがお前に対して悪い印象はないな」

「……」


 確かに、俺は色々な人に自信がないといわれていた。

 それは確かなので、申し訳ない気持ちとともに頷く。

 言い放ったゴーラル様は大きく息を吐き、それから立ち上がり俺の前まで来た。

 そして、数秒見つめあった後、ゴーラル様は僅かに頭を下げた。

 その様子に俺が驚いていると、ゴーラル様が口を開いた。


「リーンが残し、オルレーラが育ててくれたアリシアを。……命に代えても惜しくはない大切なアリシアを幸せにして――いや、アリシアとともに幸せな姿を見せてくれ」

「……」


 その言葉は、ゴーラル様の貴族としてのものではなく、父親としての言葉のはずだ。

 強い願いの込められたゴーラル様の言葉に、俺は一度唇を噛んだ後、頷いた。


「ありがとう、ございます。必ず、幸せにします」


 ゴーラル様は顔を上げ、それからじっとこちらを見てきた。


「気にするな。それに、もう家族になるんだ。あまり気難しくせず、気になったことがあれば意見してくれ。鍛冶師としての視点はもちろん、平民としての意見だって貴重なものだ。我がバーナスト家と領民たちの幸せのために協力してほしい」

「……はいっ」


 俺の返事を聞いたところで、ゴーラル様は席へと戻り、いつもの厳しい表情になる。


「さて……別に急ぎではなかったから後に回していたが……フェイクもかなりやる気満々なようだし、今日のうちに話してしまおうか」

「な、なんでしょうか?」


 ゴーラル様が悪戯っぽく口元を緩めるものだから、緊張してしまう。


「フェイク。儀礼剣というのは知っているか?」

「儀礼剣……何かイベントの際に使われる剣ですよね?」


 儀礼剣とは、実用性よりも見た目を重視した剣だ。

 鞘や刀身などに装飾を施したもので、例えば武闘大会の優勝賞品として渡されると聞いたことがある。


「そうだな。結婚式の日に、我がバーナスト家では花嫁と花婿の二人が一本の剣を鞘から抜いて掲げる場面があって、そこでその日限定の儀礼剣を使うことになっているんだ」

「……なるほど」


 そういった儀式などに使われるのも用途の一つだ。

 儀礼剣か。

 わざわざその話をするということは……。


「その儀礼剣についてどうしようかと思ってな。元々は製作を依頼しようと思ったが、もしもフェイクが作りたいというのならと思ってな。どうしたい?」


 ゴーラル様の問いかけに、俺は少し考える。

 恐らく、花婿としての立場もあるため、儀礼剣をわざわざ自ら作らせるのもなぁ、という考えからゴーラル様は聞いてきたのだろう。

 ただ、俺はその話に乗り気だった。

 色々と結婚式準備に忙しい可能性はあるが、それでも作りたい。


「儀礼剣、作らせてもらってもいいですか?」

「ああ、問題ない」

「ただ、装飾などは鞘などにのみ行って、剣自体は本気で作ってもいいですか?」

「ほぉ、それはまたどうしてだ?」

「……俺の鍛冶師の腕を見せるのに、ちょうどいいと思います。見る人が見れば、立派な剣だといわれるようなものを作りたいです」


 バーナスト家と友好的な人を多く集めるといっても、それはあくまでバーナスト家に対してだ。

 俺に対してまで同じような態度をとってくれるとは限らない。

 だから、せめてその日に俺の実力を見せられる場面が欲しかった。

 儀礼剣の本来の意味とは少し外れるかもしれないが、これなら無理なく俺の実力を見せられるだろう。

 俺の言葉にゴーラル様は口元を緩めた。


「確かに、そうだな。フェイクの鍛冶の腕を見せるには、それが手っ取り早いしな。分かった、それならフェイクにお願いしよう。オレからの話は以上になるが、二人は何か質問はあるか?」

「とりあえず、俺は大丈夫です。アリシアは?」

「私も、大丈夫」

「そうか。万が一儀礼剣に関して必要な素材があれば自由に言ってくれ。準備はこちらでしよう」

「分かりました」


 そこで、話は終わり俺たちはゴーラル様の書斎を後にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ