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宮廷鍛冶師の幸せな日常 ~ブラックな職場を追放されたが、隣国で公爵令嬢に溺愛されながらホワイトな生活送ります~  作者: 木嶋隆太
最終章

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第15話



「……その、色々と悩んでいてさ」

「悩んでいた?」

「ああ。アリシアとの結婚についてだ」


 素直に気持ちを伝えると、アリシアは一度驚いたように目を見開いたあと、少し落ち込んだような表情を浮かべた後、笑顔を浮かべる。

 笑顔、ではあるがやはり悲しげなものに見えた。


「そ……っか。その、やっぱり延期してもらえるようにお父さんに頼もうか?」


 アリシアの提案に、俺はすぐに首を横に振った。

 少し前の俺は悩んでいたけど、もう今は違う。

 俺はアリシアへと向き合い、それから決意とともに口を開いた。


「鍛冶や貴族としての責任とか……まだ、そういうのに悩んでいたんだけど、今は違うんだ」

「違う……?」


 アリシアの視線がこちらへと向いた。

 不安そうな表情にさせてしまったのは、間違いなく俺の責任だ。

 それを反省しながら、俺はアリシアの目をまっすぐ見つめた。


「まだ、全部完璧にこなせるなんて言わないけど……それ以上に、アリシアへの気持ちが大事だって色々な人たちに教えてもらったんだ」


 オルレーラさんやリガードさんの言葉を思い出しながら、俺はアリシアの手を取った。


「……俺はアリシアのことが好きだ。だから、アリシア。俺と結婚してほしい」


 婚約者、そして結婚式。

 これらはすべて周りが決めたことだ。

 俺はまだ、彼女にはっきりと俺の気持ちを言葉として伝えていなかった。

 だからこそ、ここで改めてになるが、俺の口から伝えたかった。


 細かなこと、難しいことは一度すべて忘れ、自分の気持ちを素直に向き合う。

 ……もちろん、貴族としての作法などもこれから身につけていくつもりだが、今大事なのはアリシアを想う気持ちだ。


 俺の言葉に、アリシアはわずかに目尻に涙を浮かべながらも頬を緩める。

 それからもう片方の空いていた手で、俺の手を包みこむ。

 優しい温かさが俺の手を包むと、アリシアはゆっくりと口を開いた。


「……うん。私もフェイクのことが好き」

「アリシア……」

「だから、結婚して……これからも一緒に居続けたい」


 アリシアの言葉に、俺の全身がぶるりと震えた。

 その震えは、恐らく感動によるものだろう。

 嬉しさが込み上げ、その気持ちが涙となって溢れそうになる。

 けど、俺はそれを必死に抑える。わざわざプロポーズをして、俺が嬉しくて泣くなんてちょっとしまらないだろう。

 だから、俺はアリシアの手をぎゅっと握り返し、それから笑う。


「……今日のお墓参りは、リーンさんに今の俺の気持ちを伝えようと思ってさ。さすがに、アリシアにそのことを伝えるのは恥ずかしくて」

「でも……今もっと恥ずかしいこと言ってると思う」


 それは、アリシアもじゃないか。嬉しい気持ちだったので、俺はそこは指摘しない。

 指摘して、二度と口にされないなんてことになったら、悲しいからな。


「……この気持ちは本物だからな。アリシアにも伝えないとといけないと思ってさ」

「そう、なんだ。……私だってフェイクに負けないくらいにフェイクのことが好きだから」

「……俺だってそうだからな」

「フェイク、顔赤い」

「……アリシアも、だぞ?」


 お互いにそう言い合ってから、笑みをかわす。

 そして、屋敷に歩いていくために手を繋いだ。


「……これからも、一緒に生きていこうね」

「ああ」


 俺はアリシアに頷いて、それから笑った。

 この手のぬくもりを離さないように、俺はこれからも精進し続けようと思った。






「第三話 結婚式と鍛冶師」


「フェイク、もう戻ってしまうんだな」

 

 寂しそうな声とともに問いかけてきたのはリガードさんだ。

 彼の言葉の通り、俺とアリシアは帰るために屋敷の庭へと出てきていた。

 俺たちを見送るために、リガードさんはもちろん、シーフィさんやオルレーラさんまで外に出ている。

 屋敷の兵士や使用人たちも離れたところからではあるが、こちらの様子をうかがっていた。


 リガードさんが心なしか寂しそうな顔をしながらも、露骨に卑屈な態度を見せないのは遠くにいる兵士たちの前であるからだろう。

 俺は苦笑とともに、リガードさんに言葉を返す。


「そうですね。あまり長くいすぎてしまうと、ゴーラル様も今後の予定を立てづらいと思いますので」


 ゴーラル様も急ぐ必要はないとは言ってくれているが、それでも現状リームナルに残る理由もないので、できるかぎり早めに戻った方がいいだろう。

 リガードさんは残念そうな表情とともに口を開いた。


「もう少し、ここにいてくれてもいいんだぞ?」

「いえ、リガードさんとシーフィさんがせっかく二人でいられる時間を邪魔するのも悪いですし」

「いや、だからこそいてほしいんだ」

「何かしら?」

「いたっ、つ、抓るな」


 シーフィさんがそういいながら、リガードさんの二の腕をぎゅっとつかんだ。

 ……相変わらず、仲が良いな。

 そんな二人を眺めながら、俺は街で過ごした時間を思い出す。

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