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宮廷鍛冶師の幸せな日常 ~ブラックな職場を追放されたが、隣国で公爵令嬢に溺愛されながらホワイトな生活送ります~  作者: 木嶋隆太
最終章

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第11話



「……え? い、一緒ですか?」

「うん。口頭で伝えるの大変だしね。一緒の方がラクでしょ?」

「地図とかでも別に大丈夫、ですよ?」

「地図を用意するのも面倒でしょ? 迷子になっちゃったら大変だしね」

「そ、それはそうですが……」

「もしかして……私と一緒は嫌、だったりするのかしら?」


 オルレーラさんは悲しそうに目を伏せる。

 あげく、しくしくという声が漏れ聞こえ、おまけに涙までもぽたぽたと手の間から見えた。

 ま、まずい! ゴーラル様の妻であるオルレーラさんを泣かせたとなれば、何かしらの罪に問われる可能性があるかもしれない!

 そうなれば結婚の話だってなくなるだろうし、急いで俺は訂正する。


「だ、大丈夫です! 一緒に行きましょう!」

「あっ、ほんと? それじゃあ早速準備しないとね」


 一瞬で笑顔とともに顔を上げるオルレーラさん。すっかりお出かけ気分なのか鼻歌を歌いながら席を立ち、衣装棚のほうへと向かったオルレーラさんに頬が引きつる。


「……あ、あの、もしかしてさっきのは嘘泣きですか?」

「上手でしょ? こう、手の間からすこーしだけ水魔法で水をポタポタ出すのよ。フェイクちゃんも訓練してみるといいわ」

「……はい」


 申し訳なさそうに両手を合わせながらも、どこか誇らしげだ。

 ……女性は演技が得意なんて聞いたことがあるけどそれを実感したところだった。


「まあでも、案内がいたほうがラクだし、一緒に行きたいって思ったのは嘘じゃないわよ?」

「はい……分かっています」

「それに何より、普段あんまり外に出歩けないしね。最近は体の調子もいいから大丈夫なんだけど、理由がないと外に出られないのよねぇ」

「つまり、お出かけする口実が欲しかった、とかですか?」

「そんなことないわよ? ほら、フェイクちゃんも準備しておいで。待ち合わせは一時間後に屋敷の正門ね?」


 冗談めかして笑うオルレーラさんはすでに楽しそうに衣服を選び始めていた。

 オルレーラさんに押し切られる形になってしまったが、まあいいか。




 オルレーラさんとの待ち合わせ場所は屋敷の入り口だ。

 準備ができた俺がそこで待つこと数分。

 オルレーラさんがこちらへと歩いてきた。

 彼女の隣には使用人と兵士がそれぞれ二名いた。


 護衛、といったところだろうか。

 陽が強くなったこともあってか、オルレーラさんの傍らにいた使用人が日傘をオルレーラさんのほうに傾けている。

 オルレーラさんが俺の隣に並ぶと、申し訳なさそうに両手を合わせてきた。


「ごめんねフェイクちゃん。こっそり屋敷を抜け出そうとしたら捕まっちゃって……」

「……いえ、別に構いませんが」


 というか、さすがにオルレーラさんを連れて二人きりで屋敷の外には出たくなかった。

 何かあったら大変だからだ。

 オルレーラさんに合わせ、メイドがこちらへとやってきてすっと頭を下げる。


「フェイク様。失礼なのを承知で言わせてもらいますが、フェイク様にも何かありましたら問題なのです。お一人でお出かけというのは今後はお控えください。これから、色々とありますし」

「……すまない。つい、いつもの感覚で」


 まだ籍を入れた訳ではないが、俺も貴族に近い立場だもんな。

 今後は今までと違い、自由に外は出られない、か。

 よく貴族の人たちが抜け出すなんて聞いたことがあったが、ちょっとだけ気持ちが分かってしまった。

 少しだけ残念ではあるが、仕方ない。


「まあまあそこまでにしてあげてね。フェイクちゃん、それじゃあ行きましょうか」

「分かりました」


 オルレーラさんが俺の隣に並び、使用人の方々が俺たちの少し後ろについて日傘を傾けてきた。

 ……俺は別に日焼けとかは気にしないのだが、それを指摘してもたぶんやめないだろう。

 このような対応は慣れないが、仕方ない。

 俺はオルレーラさんとともに歩き始めた。

 歩き始めてすぐに、オルレーラさんが上機嫌な声をあげる。


「まさかフェイクちゃんとこうしてデートをすることになるとは思っていなかったわ」

「で、デートじゃないです」

「ふふふ、冗談よ。アリシアちゃんと出かけるときはいつもどんな感じなの? どっちから手を繋いだりするの? アリシアちゃんってそういうときどんな対応をするの?」


 きらきらと目を輝かせながらオルレーラさんが質問を重ねてくる。

 ……相手の親に娘とのデート風景を語るって恥ずかしいことこの上ない。

 何の拷問だこれは。


「……その時々によりますよ」

「えー、秘密ってことね? アリシアちゃんのことは自分の胸に隠しておきたいってことね? その気持ち、大事にしてね?」

「そういうわけでもないんですけど……そ、そういえばリーンさんのお墓ってどこにあるんですか?」


 返答に困った俺が誤魔化すように話題を逸らす。

 オルレーラさんはこちらの目を覗きこんできたが、答えてくれた。


「お墓はこの街の墓所にあるのだけど、それは教会の裏にあるわ。ここからそんなに遠くはないけど、今日も暑いから水分補給を忘れちゃダメよ?」

「……分かりました。オルレーラさんも気を付けてくださいね」

「ええ、もちろん分かってるわ。行きましょうか」


 オルレーラさんがそう言って歩き出し、俺もその後をついていった。


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