第47話
オストルア家の問題は、ひとまず解決し、俺たちはリールナムの屋敷へと戻ってきた。
リガードさんに呼ばれた俺が書斎へと向かうと、そこには不服そうな様子のリガードさんがいた。
部屋には、アリシアとシーフィさんがいて、二人はソファに腰かけて何やらお菓子を食べていた。
「あっ、フェイクじゃない。ほら、こっち座りなさい。お菓子も食べていいわよ」
シーフィさんがアリシアの隣を指差したあと、お菓子ののった皿をこちらへと向けてきた。
言われたままに座ると、リガードさんがぼそりと口を開いた。
「……シーフィ。当然とばかりになぜここにいるんだ。オストルアのほうも忙しいだろうし、そちらの手伝いとかはいいのか?」
……確かに、グロスの一件含め、色々と領内は混乱していることだろう。
オストルア家の人間として、それらの解決のために尽力するべきなのかもしれないが、シーフィさんは首を横に振った。
「兄さんたちが今はゆっくりしていていいっていったのよ」
「それなら、ゆっくり休める場所に行くといいさ。ほら、この街にもオストルア家の屋敷があるだろう? 一人のほうが気楽に休めるだろ?」
ここぞとばかりにリガードさんが言葉をぶつける。
その露骨な態度が、シーフィさんには気にくわなかったようで眉間を寄せる。
「何よっ。まるで、あたしにいられたら困るみたいじゃない……っ。あんた、嫌なの!?」
叫んではいたが、どこか不安そうに瞳は揺れている。
俺やアリシアはシーフィさんの変化に気づいてはいたが、怯えた様子のリガードさんは首をぶんぶんと横に振った。
「そ、そんなことはないぞ。ただ、シーフィを心配してだな……ほら、色々とあって疲れてるだろ? 一人のほうが休めるだろうと思ってな……っ」
「……そ、そうなの?」
「あ、ああ。もちろんだ! 決して、うるさいからどっか行っててほしいとかは思ってないからな!」
「別に、そんなに心配しなくてもいいわよ。……だ、第一……あたしはここにいられたほうが休めるし、ね」
シーフィさんは照れた様子でそう言っていた。
俺は苦笑を浮かべているアリシアにこそこそと話してみる。
「……リガードさんって、シーフィさんのこと気遣って言ったわけじゃない……よな?」
「うん、まあ、ね……。それに、シーフィの気持ちもたぶん、一割も伝わってないと思う。……まったく、シーフィは肝心の気持ちをずばっと言えないんだから」
情けない、とばかりにアリシアはため息を吐いている。
確かに、こんなやり取りを見せつけられていると、なんとも言えない気持ちになるのは確かだ。
シーフィさんは一人満足げにしていて、リガードさんも難を凌いだといった様子で安堵の息をしていた。
それを見ていると、当然の疑問が浮かんだ。
「リガードさんって、シーフィさんのこと婚約者以上には見てないって感じなのかな?」
「……うん。でも、シーフィのことは嫌いではないし、気に入ってはいると思う、けど」
「それはまあ……モヤモヤするなぁ」
「……うん、そうなんだよね」
二人で苦笑しているとシーフィさんがちらとこちらを見てきた。
「あんたたち、何こそこそしてんのよ?」
「何って……聞きたい?」
「ええ、聞かせてみなさいよ。二人のイチャイチャっぷりをいくらでも聞いてやるわよ」
「私たちが話していたのはシーフィがまったく素直な気持ちを伝えなくてモヤモヤしていたってことなんだけど……」
「ちょ、ちょっと! な、なな何変なこと言ってるのよ! 駄目! それ以上の話は禁止!」
シーフィさんは身を乗り出すようにしながら、指でバツを作っている。
必死な彼女の様子に、アリシアの悪戯したいモードが入ったのか、からかうように笑っていた。
「でも、聞きたいって言ったのはシーフィだし……ね、フェイク」
これは、話に乗っておいたほうが良さそうだ。
頬を紅潮させはじめたシーフィさんに視線をやりながら、頷いた。
「そうだな。シーフィさんももっと素直に話してみたらどうですか?」
「ちょっと! フェイクまでからかうんじゃないわよ! 二人とも、これ以上この話は禁止だって言ってるでしょ!」
シーフィさんが声を張りあげると、一切会話に混ざれていない様子のリガードさんがきょとんと首を傾げた。
「さっきからいったい何の話をしているんだ?」
「うっさいわよ、馬鹿!」
リガードさんはひぃっと身を竦め、俺たちは苦笑するしかない。
しばらく、俺的には和やかに話をしていたところで、リガードさんが口を開いた。
「そういえば、アリシアとフェイクに親父から手紙が届いていたんだ。確認してみてくれ」
リガードさんがこちらに差し出してきた手紙は、俺とアリシア宛てのものだった。
アリシアがそれを受け取って、手紙を開き中を確認する。
内容としては、リガードさんの問題を解決したことを感謝、オストルア家に関する問題の解決に手を貸したことへの感謝、またすぐにこちらに戻ってこなくても大丈夫だという旨の話だった。
「どうだ? 親父から変な話はされていないか?」
「大丈夫ですね。急いで戻る必要がないってことくらい、ですかね?」
「そうか。それならゆっくりしていくといいさ。ていうか、もうシーフィが帰るまでの間ずっといてほしいんだ」
リガードさんはぽつりと俺にだけ聞こえるようにいてくる。
ポリポリとお菓子を食べて微笑んでいるシーフィさんには、やはり聞こえていないようだ。
「……でも、あんまり二人の時間を邪魔したくありませんし」
俺が同じような声の大きさで返すと、リガードさんががしっと腕をつかんでくる。
「二人きりにされたくないんだよぉ! いつぶち切れるか分かったもんじゃないんだぞ! 二人がいれば、多少沸点も上がるだろうしな!」
リガードさんが情けなく叫び、俺は苦笑する。
隣にいたアリシアがため息をついてから、俺の手を掴んできた。
「とりあえず、私たちは私たちで遊びに行ってくるから。それじゃあ、またね」
「ちょぉ! アリシア! ここでゆっくりしていていいんだぞ! なんならイチャイチャしたってお兄ちゃん気にしないからな!」
それはこっちが気にするから絶対できない。
別に、イチャイチャするためにここを離れるわけではないが。
「あれ、二人とももうお菓子いいの?」
きょとんと小首を傾げるシーフィさんにアリシアがこくんと頷いた。
「うん。二人のせっかくの時間を邪魔したくないからね。それじゃあね」
「あっ、ちょっ……!」
シーフィさんが頬を赤くしながら何かを叫んだが、俺たちは逃げるように書斎の外へと出た。
俺たちはレフィを背後に連れながら廊下を歩いていく。
「まだ、ゆっくりできるね」
「そうだなぁ。っていっても、あんまり長居しちゃうと鍛冶工房が忘れられちゃうかもしれないし、適度なタイミングで戻らないとな」
「そうだね。でも、それまでは二人でいっぱい遊びたい……な」
それは、俺だってそうだ。
アリシアが照れながらしてきた提案に、俺は笑顔とともに頷いた。
「そうだな。また、街とかに行くか?」
「……うん、行きたい」
ぎゅっと手を握りしめてきたアリシアに、同じように握り返した。
その温もりをいつまでも大事にしていこうと胸に刻みながら、俺は彼女とともに歩いていった。
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