第45話
リガードさんと向かい合うようにして立っていたのは、護衛の兵士だ。
リガードさんほどの護衛を務める人だ。恐らく、かなりの凄腕なのだろう。
俺に直接向けられているわけではないが、その闘志のようなものはびりびりと伝わってくる。
普段、あまり表情を変える人ではなく、近寄りがたい雰囲気だったのだが、今はリガードさんと戦えることを楽しみにしているようだ。
俺は巻き込まれない離れながらも、二人の様子を眺める。
「そういえば、リガードさんってどのくらい戦えるんだ?」
迷宮ではほとんど戦うことはなかったので、リガードさんの真の実力については分からない。
ただ、迷宮内での様子からして只者ではないこととは思っていた。
俺の問いに答えたのは、シーフィだ。
「リガードは……滅茶苦茶強いわよ。やる気があるときはね。でも、リガードがあたしのためにそこまで本気で戦ってくれるかどうか分からないのよね……も、もしかしたらあたしのこと嫌いでわざと負けるかもしれないし……っ」
シーフィは段々と泣き出しそうな顔へと変わっていく。
その背中を撫でながらアリシアがリガードさんを心配そうに見ていたが、俺はシーフィを元気づけるように声をかける。
「それなら、大丈夫だと思いますよ。……あの魔鉄はリガードさんを主として認めたようですからね」
魔鉄から感じた強い力。
何かのために戦いたいというその魔鉄が認めたのだから、今のリガードさんがやる気がないということはないだろう。
リガードさんは魔法剣へと魔力をこめる。
その瞬間、彼の体を強大な魔力が覆いつくした。
目に見えるほどの魔力の歪み。
それを全身に流したリガードさんは僅かに眉間を寄せる。
「ちょっと、出力上げすぎだ」
注意するように魔法剣を一瞥すると、魔力は見えなくなった。
それから、リガードさんは剣を構え、護衛へと視線をやる。
「どこからでもかかってきてくれ」
「……それでは、いざ行きます!」
護衛が声を上げ、リガードさんへと飛びかかる。
リガードさんはそれをギリギリまで引き付け、かわした。
……速い。何より、まったく無駄のない動きだ。
まるで消えるかのような速度とともに、リガードさんは護衛の背後をとっていた。
護衛は剣を降ろしながら、驚いたような声を上げる。
「……リガード様。以前より、さらに速くなられましたか?」
「いや……そんなことはない。この魔法剣のおかげだ」
リガードさんは剣を鞘へとしまってから、こちらへとやってきた。
「フェイク、今ので大丈夫か?」
戦いは一瞬だったため、俺が調整するための参考になったかどうかを心配してくれたのだろう。
「はい。大丈夫です。リガードさんはどうでした? 違和感はありましたか?」
「……いや、まったくない。これまで使っていた剣とまったく同じ重量、長さだった。あそこまで同じとは思わなかったよ。見事な腕前だな」
「ありがとうございます。明日までに最後の調整を行っておきますね」
「ああ。ただ、それほど焦る必要はないからな。これなら、決闘もなんとかなりそうだし、夕食でも食おうじゃないか!」
リガードさんはまったく悩みのなさそうな笑顔とともに、そう叫んだ。
その期待に応えられるよう、最後の調整を頑張らないとな。
オストルア家が管理しているオストルアの街にある兵士たちの訓練場。
見学者の一人としてその場所に俺はいた。
訓練場の中心では、オストルア家の三男グロスと、リガードさんが向かい合っていた。
……グロス。
シーフィの話が本当ならば、今回の事件を起こした首謀者である男だ。
そういった気持ちがあるからか、爽やかな容姿の裏にある顔が見えるような気がした。
リガードさんは護衛から剣を受け取り、グロスもまた同じように剣を受け取っていた。
遠目ではあったが、グロスの剣から放たれる力は……普通の剣ではないというのがはっきりと分かる。
魔剣と断定まではできないが、何か特殊な力があるのは間違いない。
グロスはすっと丁寧にお辞儀をしてから、リガードさんを睨んだ。
「リガード様。あなたがまさかこれほど愚かなことをするとは思っていませんでした」
グロスの目には、怒りがこもっているように感じた。
リガードさんがぴくりと眉尻を上げると、グロスは激昂するように声を張りあげた。
「あなたが庇っているシーフィは、僕の兄たちを殺した殺人者だ!! いくら婚約者だからといって、それを庇うなんてあなたがそれほど周りが見えない愚かな人間だとは思いませんでしたよ!!」
多少、失礼な物言いではあるが、グロスの真に迫る叫びは、胸を打つほどのものだった。
演技なのか、それとも本気で言っているのか。
近くにいたシーフィさんはグロスを憎々しげに睨んでいる。
……俺はまだシーフィさんの人となりまでは分かっていないため、彼女の言葉のすべてが正しいかどうか、断定できるほどではない。
しかし、これまでに親しくなったアリシアやリガードさんがシーフィさんを信じている。
だからきっと、シーフィさんは嘘をついていないのだと思う。
……リガードさんには、何とかしてそれを証明してほしい。
リガードさんは苦笑を浮かべ、剣を鞘から抜いた。
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