第42話
次の日。
リガードさんに呼ばれ、俺は書斎へと来ていた。
中に入ると、シーフィさんとアリシアの姿もあった。
奥の席についていたリガードさんが、俺に気づくと微笑を浮かべた。
「よく来てくれた、フェイク。ちょうど、良い作戦を思いついてな。おまえにも協力してもらいたいことがあったんだ」
「俺ですか?」
「ああ。まずは現在の状況について改めてまとめようと思う。皆、聞きやすいようにしてくれ」
そう言われ、俺はアリシアとともにソファに腰掛ける。向かいにはシーフィさんも座っている。
「まず、バーナスト家での対応についてだ。オレから親父に相談はしたが、判断はオレに任せると言われてしまった。……酷い親父だ。こんな面倒事を押し付けてくるなんて」
「……面倒で悪かったわね」
シーフィさんが少しだけ悲しそうな声音で、しかし吊り上がった目でリガードさんを睨む。
リガードさんはびくっと肩を上げてから、首を横に振る。
「……そ、そうでもないぞ。おまえのことは心配していたからな」
「……ほ、ほんと?」
「ああ、本当だとも……一体何人を殺ってしまったのかと……」
「どんな心配しているのよ、馬鹿!」
シーフィさんが声を張り上げ、リガードさんは待て待てと言わんばかりに両手をシーフィさんに向けている。
話が進まない。そう思ったのは俺だけではなく、アリシアが口を開いた。
「二人とも、夫婦漫才は後にして。それで? 兄さんはどんな対応をしようと思ってるの?」
「あ、ああ。オレはシーフィをオルレアン家に引き渡す前に、魔剣についての話を聞かせてもらおうと思っている」
「……そんなことできるの?」
「可能だろうさ。そのために、今は魔剣の噂を流させている。向こうも、シーフィが長男次男を殺した、という噂を流し嘘を真実としようとしているように、こちらも魔剣の噂を流し、嘘を真実にしようというわけだ」
リガードさんが腕を組み、シーフィさんが首を傾げた。
「……そうしたら、何か変わるの?」
「どちらにも疑いの目が向けられる。どちらかの証言を本物とするための行動が求められるようになる。シーフィが二人を殺した証明と、魔剣についての証明だ。そして、時間が経てば経つほど、三男への疑いの目が強くなっていくだろう。実際、状況だけみればその可能性は十分に高くなるからな」
リガードさんの言う通り、そもそも跡継ぎに関しては長男、次男、三男、そしてシーフィさんという順番だったらしい。
長男と次男が死ねば、三男が跡を継げるという状況で、その二人だけが行方不明になったとなれば、疑いの目を向けられるのは当然だ。
一応、三男はシーフィさんに狙われている、とは言っているが、それも噂を流されてしまえば状況は変わりかねないだろう。
「……そこまで追い込んで、その後はどうするのよ?」
「それでようやく、交渉に持ち込めるんだ。シーフィの言い分を条件に、相手の魔剣を確認させてもらうつもりだ」
「そんなの、応じるの?」
「応じないならば、この遺書を渡すだけだ」
そういって、リガードさんは一枚の紙を渡してきた。
それは、たどたどしい文字ではあったが、シーフィさんにオルレアン家を継がせるというものだった。
「これはブイトルに書いてもらったものだ。魔力文字だから、実際の文字とは違うが……オルレアン家の鑑定士に見てもらえば、長男の遺書だと分かるだろう?」
……確かに、その文字は魔力がこもっていて、エンチャントと似たような文字となっている。
これならば、仮に筆跡が違うと言われても、正式な鑑定士ならばはっきりと分かるだろう。
「それを渡して……どうするのよ? あたしが家を継げるかもしれないってなっても、何も解決はしないわよね?」
「三男……グロスの奴はそれを絶対拒絶するはずだ。偽物と言ってくるだろう。だが、何も行動しなければグロスは当主の座を奪われることになる。……なら、どうするか。決闘裁判だ」
「……決闘裁判?」
俺が首を傾げると、リガードさんがこくりと頷いた。
「ああ、そうだ。決闘裁判とは、貴族がそこそこの問題を抱えた時に行うものだ。決闘を行い、勝ったほうが自分の意見を通せるもので……まあ、戦争になるよりかはマシとして認められているものだな。これで勝てば、黒を白として押し通すこともできるというわけだ」
「……な、なるほど」
「そこまで持っていければ、あとは決闘を行うだけでいい。こっち側の意見を押し通すためには、オレかシーフィが代表者として戦わなければいけないが、ま、まあ……オレ怖いし、戦うのはシーフィに任せるよ」
ここまで鮮やかに解決策を話していたリガードさんは、最後の最後をシーフィさんに押し付けようとする。
もちろん、それにアリシアが目尻を吊り上げた。
「……兄さん、そこはやりきらないの?」
「いやだって。オレに何かあったら大変だろ?」
「大丈夫。いざというときは弟が当主になるだけ」
「アリシア! お兄ちゃんに何かあってもいいの!?」
「うん」
「そ、そんな……っ! シーフィ! 自分で未来を勝ち取りたいとは思わないか!?」
爽やかな笑顔とともにリガードさんがシーフィさんを見る。
シーフィさんはとても悲しそうな表情で、
「……リガード。あんた、あたしのために、戦ってくれないの?」
そう言った。
リガードさんは諦めるように息を吐き、それから俺を見てきた。
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