第40話
「魔剣の情報を解読するにしたって、エスレア魔鉄の鍛冶ができる腕前を持つ鍛冶師に依頼する必要があるでしょ? それに、魔剣を奪い取ることもできないだろうし……」
「ふっふっふっ。フェイクの実力を知らないのかね、シーフィくん」
「はぁ?」
「フェイクはエスレア魔鉄の加工もしたことがある。そんなこと朝飯前だ。なあ、フェイク?」
「……まあ、何とかしますよ」
シーフィさんの力になりたいという気持ちは確かにある。
やったことはないが、できるようにしたいとは思った。
「え? ……あっ、もしかして、ホーンドラゴン討伐に関して魔剣を作ったのって、やっぱりフェイクだったのね?」
「そういうことだ。だから、後は魔剣を奪い返せばいいというわけだ」
そういって、リガードさんは笑みを浮かべる。
シーフィさんが期待するようにリガードさんを見た。
「……何か、良い策があるの?」
リガードさんはそれに対して首を横に振った。
「いや、特には思いつかない。とりあえず、今日は休め」
「……ここに泊まっていっていいの?」
「他に寝泊りできる場所もないだろう? 気にするな」
リガードさんがそう言うと、シーフィさんはぎゅっと唇をかんだ。
それから、深く頭を下げた。
「……あ、ありがとう。リガード」
「わぁ! 汚いぞ! 床が汚れてしまうじゃないか」
「あ、あんたね……っ。泣いてる、人に、そんな言葉……言わないでよ」
「いや、だってそうだし……タオルを持ってきてくれ。ああ、もう。フェイク、アリシア。とりあえず一度解散でいいからな」
リガードさんはため息交じりにそう言って、護衛の兵士に持ってこさせていた。
そうしながらシーフィさんの背中を撫でていて、俺たちはとりあえず邪魔してはいけないと思い、言われるがままに退室した。
「……リガードさんって、なんか独特な人だよな」
「だからシーフィがたまに怒る。でも、さっき見てシーフィは兄さんのこと嫌ってないって分かった?」
「……まあな。むしろかなり好き寄りだよな?」
「うん。でも、泣いているときにデリカシーのないことを言ったり、臆病な発言をしたりするときに怒るから、兄さんはシーフィに嫌われていると思ってる。我が兄ながら本当に鈍くて恥ずかしい限り」
「……なるほどな」
まあでも、それをわざわざ俺たちが教える必要も別にはなさそうではあったが。
ひとまず、魔剣をどうやって奪うか、だよな。
少し考えてみたが、良い案は出てきそうになかった。
それにしても、魔剣か。
自室にて、一人魔剣について考えていた俺はそう呟くように言った。
以前、自分で製作したエスレア魔鉄製の剣を思い出す。
確かに、あれにも特殊な力があった。
所有者の魔力を吸い上げ、身体能力に変えるなどだ。
確かに、それらを考えるのであれば、人の姿を変えるような魔剣があったとしても何らおかしくはないのかもしれない。
部屋でそんなことを考えていると、部屋の扉がノックされる。
扉のほうに近づき、外を伺ってみるとアリシアの姿が見えた。
アリシアの隣にはフードを被った女性がいたように見えたので、もう一人はきっとシーフィさんだろう。
「どうしたんだ?」
「ちょっと、話がしたくて来たんだけど……いい?」
「ああ、別にいいけど……何かあったのか?」
俺の問いかけに、シーフィさんはじっとこちらを見てきた。
リガードさんに向けてのような強気なものではなかったけど、それでも何やら観察するような視線だった。
「あたしが色々と話したいことがあったのよね」
「シーフィさんが、ですか?」
……鍛冶師や、魔剣の話だろうか?
だとすれば、気を引き締める必要がある。
「ええ、そうよ。例えば、アリシアとの関係とか色々とね」
「……そ、そうですか」
な、なんだそっちか。
シーフィさんが悪戯っぽく微笑む姿に苦笑しながら、二人を部屋へと入れた。
それにしても、何を聞かれるのだろうか?
少し緊張していたが、断るわけにもいかない。
さすがに、この状況でシーフィさんを拒絶するような真似をすれば、それこそリガードさんのような扱いをされるかもしれないしな。
二人が席に着くと、遅れてレフィがやってきた。
俺たちのテーブルに人数分のティーカップを置き、中央にはクッキーの乗ったお皿を用意してくれた。
そのままレフィは部屋の隅にて待機し、俺はシーフィさんと向かい合う形で座った。
何度か面接されている人を見たことがあったのだが、今まさに俺の状況はそれに似ているのではないだろうか。
俺も宮廷鍛冶師になる際に、簡単な質疑応答を受けたことはあるのだが、緊張感はそのときと似ている。
「あんたってもともとは宮廷で鍛冶師をしていたのよね?」
「はい、そうですね」
あまり思い出したい記憶ではなかったが、シーフィさんの質問に答えるのに必要ならば思い出すしかない。
「それで、エスレア魔鉄の加工もできるってわけね……凄いわね」
素直すぎる誉め言葉に、俺は苦笑を返していると、ずいっとシーフィさんが顔を近づけてきた。
「それで? 関係はどこまで進んだのよ? もう子どもくらいは見れるの?」
「な、何を言ってるの!」
叫んだのは、俺ではなく隣で見ていたアリシアだ。
というか、アリシアが叫んでいなければ俺が変わりに叫んでいただろう。
シーフィさんはからかうような調子で口元を緩め、アリシアを見ていた。
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