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宮廷鍛冶師の幸せな日常 ~ブラックな職場を追放されたが、隣国で公爵令嬢に溺愛されながらホワイトな生活送ります~  作者: 木嶋隆太
第三章

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第35話


「れ、レフィ。ちょっと?」

「……すぴー」

「起きてるだろ?」

「寝てますよ」

「起きてるじゃないか!」


 さっきまで話をしていたというのに、なんという適当な寝たふりなんだろうか。

 レフィはまったく反応せず、アリシアがすっと押しつけるように手を伸ばしてきた。


「レフィは、寝てるから……お願い」


 なんと強引な。

 これは、断るわけにはいかないだろう。


「……わ、分かったよ」


 受け取った俺は、すべてを諦めるように日焼け止めを受け取った。

 別に嫌というわけではない。

 ただ、恥ずかしいだけである。

 

「これってどうやって塗るんだ?」

「クリームを取ったら、手のひらで伸ばして、それから背中に塗ってほしい」

「……なるほど」


 受け取ったケースを開き、中の液体を人差し指で掴んでみる。

 ひんやりとした感触だ。まるでスライムでも触っているかのようだ。

 それを手の平に塗りたくるように伸ばしてみる。


 これで、大丈夫なのだろうか。

 アリシアがすっと髪をどけるように手で動かす。

 美しい髪を今は短くまとめて縛っていたのだが、それによって彼女の白い背中が晒されている。

 俺は僅かに緊張しながら、その背中へと手を伸ばした。


「……っ」

 

 手が触れた瞬間、びくんとアリシアが跳ねた。

 

「だ、大丈夫か?」

「う、うん……そのまま続けて」


 アリシアの言葉に、俺は緊張しながらも手を動かした。


「ん……っ。冷たいけど、気持ちいい」

「……そ、そうか」

「フェイク。塗るの上手」


 ちらと視線を向けてくるアリシアに、俺は照れながらも手を動かしていく。

 柔らかな彼女の肌から伝わる熱を冷やすように、日焼け止めを塗っていく。


 日焼け止めを塗ったアリシアの肌は、塗る前と比べてひんやりとするのだが、それとは正反対に俺の体温は上がった気がした。

 ……アリシアの肌はなんと柔らかいのだろうか。

 彼女の背中にこうして触れたことは一度もなかったので、今まで知らなかった。

 そんなことを考えていると、だいたい背中側は塗ることができた。


「アリシア、もういいだろ?」

「それじゃあ、次は前も塗る……?」

「ま、前も!?」


 思わず返事をした自分の声は、情けないほどに裏返っていた。

 俺の声に反応するようにこちらを見てきたアリシアの顔は、悪戯に成功した子どものような笑みを浮かべていた。


「冗談だから、気にしないで」


 アリシアがにこにことそう言って、俺のほうに手を伸ばしてきた。

 なんと心臓に悪い冗談だ……。


 その手のひらに日焼け止めを乗せると、彼女はゆっくりと日焼け止めを塗っていく。

 俺は自分の体温を抑えるように何度か深呼吸をしていた。

 すると、アリシアも終わったようで、こちらへと向いた。


「ありがとね、フェイク。おかげで日焼け止めをしっかり塗れたと思う」

「……それは良かったよ」


 俺も塗ったほうがいいのだろうか? 日焼けをしたら痛いと聞くしな。

 そんなことを考えていると、


「アリシア様。次はアリシア様の番ですよ」

「……あっ……う、うん」


 レフィがすっと言葉を挟んできた。さっきまで寝ていたくせに、なんてタイミング良く起きるんだろうか。

 アリシアが俺をじっと見てきて、塗らせて、と目で訴えかけてくる。


 有無を言わさぬ迫力に、俺は彼女に背中を向ける。

 こ、これはわりと緊張するな。

 ……もしかしたら、さっきまでのアリシアも俺と同じようなことを考えていたのかもしれない。

 俺の背中にアリシアの手が触れる。どこか、おっかなびっくりという感じだ。


「アリシア、大丈夫か?」

「う、うん……フェイクも、えーと……い、痛くない?」

「別に、そんなことはまったくないよ。ていうか、痛くしようとしてたのか?」

「べ、別にそういうわけじゃないけど……」

「そうだろ? それなら、別に気にしなくても大丈夫だって。それとも、もしかして緊張でもして」

「も、もうからかわないで!」


 ……さっきと形勢逆転したようだ。

 そんなことを考えながら、アリシアに日焼け止めを塗ってもらっていった。

 日焼け止めを無事塗り終えた俺たちは、ようやく海へと向かって歩き出した。

 すでにサンダルは脱ぎ捨てたため、砂浜の砂を足で感じ取ることができていた。


 足の指の間まで砂が入ってくる感触はまだ少し慣れないものがある。

 それに何より、滅茶苦茶熱い。


「こ、これ裸足だと結構熱いな……」

「うん、だから早く海に入ろう」


 アリシアに手を引かれ、小走りに海へと向かう。

 波が来る地点まで来ると、足元も海水で冷やされているおかげで熱に苦しむこともなくなる。


 感触もそれまでと変わっていて、足が沈むような感触は独特の面白さがあった。

 足に波が当たり、まるで海へと引きずり込むかのように足首に触れる。


「これが、海か……」

「うん。どう?」

「気持ちいいな。でも、思っていたよりも冷たくはないんだな」


 足に当たる海水は、少しぬるいくらいだった。

 もっと冷たいものだと思っていたので、少し驚く。

 

「この辺りはね。でも、もうちょっと深くまで行くと結構冷たいけど、フェイクって泳いだことあるの?」

「川だったら多少は。海は……小さいころに行ったと思うけど、ほとんど記憶にないんだよなぁ」

「そうなんだ。なら、海水がしょっぱいのも知ってる?」

「聞いたことはあるな」


 指で海水に触れて、舌で少し舐めてみた。


「わっ、本当にしょっぱいんだな」

「そうでしょ? でも、あんまり飲まないようにね。体にはあんまり良くない」

 

 まるで子どもに注意するかのような様子でアリシアがそう言ってきた。

 今の俺、そんなに子どもっぽかっただろうか。

 少し照れ臭くなりながら、俺たちは海へと歩いていく。

 膝に海水が届くほどまで歩いていくと、アリシアが言っていた通り冷たさを実感できるようになってきた。


 そんなことを考えているときだった。

 アリシアが両手で水をすくうようにして、


「……えい!」


 こちらへと水をかけてきた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] お兄様「俺もあんなふうに楽しく過ごすだけの人生が良い」 いや、色々あった二人なのはわかるけどお兄様からしたらめちゃくちゃ楽しそうかなって [一言] 私「爆発しろ!」
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