第34話
「……兄さんが暗殺されるとか?」
「オレはできれば弟たちの脛をかじって生きたいんだ! 却下だ!」
すっかり元気になったリガードさんは、それからもテンション高く話しかけてきた。
……よほど、今回の事件解決が嬉しかったんだろうな。
釣られて口元を緩めながら、俺もリガードさんの話に合わせていった。
次の日。
俺はアリシアとレフィと数名の兵士とともに海へと来ていた。
以前見た砂浜ではあるが、ここに他の人たちはいない。
この区域はバーナスト家が管理している場所だからだ。
おかげでのんびりはできそうではあったが、少し静かすぎる気もした。
今日は非常に天気も良く、絶好の海水浴日和だ。
強い光に眩しさを感じながら、砂浜を歩いていく。
砂浜は歩きにくい。
今日はサンダルで来たため、足に砂が絡みついてくるように入ってくる。
一歩踏み出すたびに足が沈むような感覚は、普段経験したことのないもので、少し面白い。
海なんて、小さい頃に一度行ったくらいだった。ほとんど記憶として残っていなかったため、すべてが新鮮に見えた。
そんな中で俺は少し考えることがある。
それは水着だ。
アリシアの水着姿はもちろんなのだが、俺は――。
少し考えてから自分の服を少し引っ張ってみる。
べ、別に太っているわけではない。
鍛冶のおかげもあって程よく筋肉はついているほうだし……失望されるようなことはないよな?
「とりあえず、休めるように準備しておきますね」
ともについてきたレフィが、大きな日傘を砂浜に建てる。
それから砂浜の上にさっと、レジャー用のシートを置いた。
日傘のおかげもあり、そこでならゆっくりと休めそうだ。
俺たちはシートを汚さないように腰かける。
「アリシアも水着は中に着てきたのか?」
着替える場所を確保できない可能性があるため、俺たちは事前に中に水着を身に着けてきている。
これが、海水浴を行う上での基本知識だそうだ。
「うん、フェイクもだよね?」
アリシアの問いかけに頷いて返す。
ここで着替えることもできるし、実際やっている人たちもいるそうだが誰に見られるか分かったものじゃないしな。
俺たちは服を羽織り、中に水着を着こんでいる状態だ。
あとは服を脱げばいいので、早速服を脱いでいくのだが、アリシアがちらちらと見てくる。
「……アリシアは脱がないのか?」
「ぬ、脱ぐけど……」
アリシアは視線を送りながらも、自分も服を脱いでいく。
水着とはいえ、肌の露出具合でいえば下着とほとんど変わらないんだよな。
なのに、どうして水着ならば皆そこまで気にしないのだろうか。
そんなことを考えていても仕方ないので、俺はさっと脱いだ。
アリシアは脱ぎかけたところで手を止め、じっとこちらを見てきた。
「……な、なんだ? 何か変か?」
「う、ううん……なんでもない。……フェイクって結構がっしりしてるんだね」
「そ、そうかな」
その評価にほっとする。
だらしない体だと言われなくて良かった……。
アリシアも上着を脱いでいった。
白の水着が見えてきて、自分の鼓動が早くなるのを感じる。
いくら水着だとはいえ、普段よりも露出が多くなるのだから見る側としては緊張するものだ。
そんなことを考えていると、アリシアがすべての服を脱ぎ払った。
控えめながらしっかりとした体に、思わず目を奪われる。
「ど、どうかな?」
少し照れた様子で問いかけてくるアリシア。
……し、しまった。
黙ってずっと見続けるのはさすがに不信感を与えかねない。
俺は慌てて視線を外し、頬をかきながら答える。
「かなり、似合ってると思う」
「そ、そうかな? 良かったぁ……」
「良かったですね、アリシア様。昨晩の夕食はいつもより少なめにして」
「よ、余計なこと言わないでレフィ!」
むすっとアリシアが頬を膨らませて叫んでいた。
昨日の夕食のときを思い出してみる。
確かに、いつもよりは食べる量が少なかったかもしれないな。
アリシアの可愛らしい努力の痕跡に、苦笑しながら立ち上がる。
「それじゃあ、泳ぎに行こうか」
今日も暑いので、絶好の海水浴日和だ。
しかし、アリシアは俺の手を引っ張り、止めてくる。
「あっ、ちょっとまってフェイク。日焼け止め塗らないと危険」
「日焼け止め?」
「うん。日に焼けると……凄い痛い」
アリシアは真剣な表情でそういった。
……恐らく、経験したことがあるのだろう。
夏に外を歩いていると日焼けするものだが、それで痛いと苦しむほどまでなったのは一度もなかった。
だから、アリシアの険しい表情に俺は気圧される。
「そんなになのか?」
「……そんなに」
こくんと首を縦に振ったアリシアに、唾を飲み込み、俺は座りなおした。
俺が座るとアリシアが何かのケースを取り出した。
おそらく、それが日焼け止めなんだろう。
蓋を開けると、中にクリームのようなものが入っている。
まずはアリシアが塗るのだろうか? と思っていると、アリシアはこちらにケースを渡してきた。
少し照れ臭そうな顔をしているアリシアに、俺は首を傾げた。
「先にアリシアが塗らないのか?」
「……ぬ、塗ってほしい」
「へ?」
「背中とか、手が届かないから、塗ってほしい」
こちらに背中を向けていたアリシアは、少しだけこちらに向いた顔は赤かった。
塗る、という言葉に一瞬体が強張った。
その言葉の意味を脳が理解するまでに時間がかかってしまったからだ。
僅かに遅れてから、俺は口を開いた。
「そ、それを俺が塗るのか? レフィじゃ駄目なのか!?」
「フェイクに、塗って欲しい」
訴えるような目つきのアリシアから、逃げるようにレフィを見ると彼女は目を閉じている。
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