第27話
データ管理していたUSBをなくしてしまい、更新がしばらくできなかったのですが昔のパソコンにデータがあったので、更新再開します。ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。
「アリシアよ。それはお兄ちゃんに対して冷たすぎやしないか?」
「兄さんが真面目に挑むのなら、もうちょっと優しくする」
「ほぉ、具体的にはどんな感じに優しくしてくれるんだ? 昔みたいに、お兄ちゃんと呼んでくれるのかな?」
アリシアは昔、お兄ちゃんと呼んでいたのか。
小さかった頃のアリシアを想像したが、実際に見てみたかったものだ。
リガードさんが目を輝かせていたが、アリシアは眉間を寄せ渋い顔。
「それは絶対無理」
「うー、フェイク。妹が冷たいんだ。婚約者からも何か言ってくれないか?」
何かと言われても困る。
俺は苦笑しながら、先程の演説について思い出す。
「でも、さっきは頑張って演説していたじゃないですか。かっこよかったですし、あのときの気持ちのままに挑みましょうよ」
「あのときのオレが一体どんな心境で演説をしていたのか、フェイクくん、教えてあげようか?」
「……もしかして聞くと、抱いた気持ちとか踏みにじられる結果になりますか?」
「それはどうだろうな? まあ、あのときのオレは、皆に頑張ってもらえば、オレの仕事が減る! という気持ちのもとでそれっぽいことを言ったに過ぎないさ」
リガードさんは堂々と叫び、ぐっと親指を立てた。
……聞かなければ良かった。
かっこよかった先導者のリガードさんは完全に消え去ってしまった。
リガードさんの宣言に合わせるように、馬車が動き出した。
リガードさんはため息をついてから、窓側へと体を動かし、席に座る。
それから、すっといつもの凛とした表情に戻る。
どうしたのだろうか? 今はリガードさんの本性を知る人しかいないが。
そんなことを考えていると、アリシアが俺の袖を引いてきた。
「あんまり兄さんのほうにいるとフェイクも標的になっちゃうよ」
「標的?」
「窓の外、ちょっと見てみて」
アリシアがちらとリガードさんを指さす。
リガードさんは仕方なくといった様子で窓の外へと視線を向けている。
一体何が始まるのだろうか?
しばらく馬車が動いていき、やがて街中へと進んでいったときだ。
外が騒がしい。
微かに声が聞こえてくる。
俺は反対側の窓にかけられたカーテンを少し開けて、外を見てみる。
そこにはたくさんの市民たちがいた。
馬車に近づきすぎないように規制こそされていたが、今にも馬車へと突っ込んできそうな人たちばかりだった。
皆の表情は明るく、そして声が届いてくる。
「リガードさん! 頑張ってください!」
女性陣の黄色い声が多い。
窓から姿を見せたリガードさんは、ひらひらと外へ向け手を振っている。
その顔には、笑顔を張り付けたという表現が正しいほどの表情がそこにはあった。
「あぁ……憂鬱だ……」
爽やかな笑顔とともに手を振るリガードさんだったが、表情と発言がまるで噛み合っていない。
それでも、リガードさんの声までは外には届かないため、外からは領民たちの喜びに近い声が聞こえていた。
なるほど。
だから、リガードさんと一緒に座らないほうがいいということか。
確かに、リガードさんの側に座れば、外から見えてしまうかもしれない。
今は護衛たち以外は着席はしていなかった。
「大変なんだな領主って……」
隣のアリシアに声をかけると、彼女からは苦笑が返ってきた。
「領民からすると領主の仕事は見えにくいから。アピールできるときにしっかりしないといけない」
「なるほどなぁ」
こちら側のカーテンはそのままだったので目立つことはない。
とはいえ、それでも色々とありそうではあるが。
しばらくリガードさんは手を振っていたが、やがて街を出たことでその対応も終了する。
リガードさんはぐでーっと椅子に体を伸ばし、ため息をついていた。
「まったく、アリシアかフェイクが外に手を振ってくれればよかったのに」
リガードさんはむすーっと俺のほうを見てくる。
「そんなことしたら、俺がまるで迷宮攻略するみたいになるじゃないですか」
「そのほうがいいんだ。最終的に、フェイクが領主にふさわしいとなれば、オレは領主の仕事をしなくて済むんだからな! まったく、野心がある家族がいればいいのになぁ、オレの弟たちは皆やる気がない! こんな貴族の家系普通はありえないのだぞ!」
リガードさんはここにはいない他の家族たちを思い浮かべているのか、ぷんすか愚痴をこぼしていた。
アリシアとリガードさん以外のバーナスト家の子どもは知らないので、アリシアに聞いてみる。
「……リガードさんの弟さんとかってどんな感じなんだ?」
「……兄さんたちは。簡単に言うと遊び人の自由人……。そのうち、別の問題が出てくるかも」
アリシアは兄たちの存在を思い出したのか、ため息をついている。
……い、色々大変そうではある。
俺もいつかは関わることになるんだよな? 大丈夫だろうか。
「二番目に生まれてよかったと喜ぶ貴族の子がどこにいるというんだ、まったく!」
リガードさんはそう声を上げながら、ちらと外を見る。
すでに街からかなり離れたこともあり、ほっとした様子だ。
「領民とのやり取りもしばらくはないからいいな……」
「お疲れさまでした」
「本当に疲れたよ。フェイクが代わってくれれば良かったのに」
むすーっと頬を膨らませるように怒るリガードさん。
「さすがにそれはできませんよ。領主様の立派なお仕事なんですから」
「オレは別にそれになりたいわけではないのだがな……」
「……そうなんですか?」
「だって、大変じゃないか。領民だけではなく他領とも色々あるんだぞ? 付き合いとかだって大変で……あー、もう考えただけでお腹痛い」
腹をさするリガードさん。




