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宮廷鍛冶師の幸せな日常 ~ブラックな職場を追放されたが、隣国で公爵令嬢に溺愛されながらホワイトな生活送ります~  作者: 木嶋隆太
第三章

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第26話


 とうとう、迷宮へ挑む日となった。

 といっても、特別いつもと何か変わるわけではない。

 朝食を頂き、それから迷宮攻略へと向かう。


 攻略が終われば、軽い祝勝会で終わりだ。

 今はその始まりである朝食時間なのだが、食堂には露骨に顔色の悪いリガードさんがいた。


 アリシアも席についていて、いつもの通り彼女の隣に腰かける。


「おはよう、フェイク」

「おはよう、アリシア。……リガードさん大丈夫なのか?」


 ひそひそとアリシアに問いかける。

 明らかに迷宮攻略に対して負の感情を抱いているのは間違いない。

 そのまま体調不良でぶっ倒れたとしても納得できてしまいそうな顔色だ。


「別に気にしなくても大丈夫。兄さんの演技みたいなものだから」


 演技みたいなものて。

 そんな言葉で片付けても良いものだろうか。

 そんなことを考えていると、アリシアがリガードさんを見た。


「兄さん。やっぱり攻略の日を変える?」

「うん! 変えよう!」


 アリシアがそういうと、リガードさんはぱっと目を輝かせた。

 一瞬の変化に、アリシアがため息をついた。


「兄さん。もう決まったんだから、無理。今日、頑張るの」

「……うぐ……あー、嫌だ……嫌だよぉ」


 リガードさんは俯きがちになり、ぶつぶつと呟いていた。

 本気で嫌なんだな……。

 そのとき、リガードさんの顔がこちらに向いた。


「フェイク。オレに変装することはできないか!?」

「難しいと思いますが……」

「そ、それならオレの代わりはどうだ!? 手柄にもなるんじゃないか!?」

「いえ、リガードさんのお仕事ですし……頑張ってください」


 やんわりとお断りする。

 そういうと、リガードさんは再び元気のない顔になる。


「あー、嫌だなぁ。嫌だなぁ……もういっそ、このまま腹痛で休んでしまおうか……」


 なんてことを話していると、食堂に食事が運び込まれてくる。


「おお! 今日はハンバーグじゃないか!」


 リガードさんは目を輝かせながら、食事を運んできたレフィへと視線を向ける。

 レフィはにこりと微笑を浮かべ、


「先程腹痛を訴えていましたので、サイズを少し小さく致しましょうか?」

「いやいや、この腹痛はもう治った! 食事が終わるまでは元気だから気にするな」

「兄さん?」

 

 リガードさんはアリシアのジトっとした視線は意に介さず、すぐに食事を始める。

 まあ、なんだかんだ元気そうでよかった。




 朝食を終えたあと、俺たちは屋敷の外へと向かう。

 庭ではすでに迷宮攻略を行うためのメンバーが集まっている。

 迷宮攻略のためのメンバーは合計十名だ。


 そこに、俺、アリシア、リガードさん、リガードさんの護衛が二名と俺とアリシアの護衛としてレフィがついていくことになっている。

 

 迷宮攻略を行うメンバーたちは、皆の顔はやる気に満ち溢れていた。

 出発前にリガードさんが一言話す必要があるため、リガードさんは彼らの前へと進んでいく。


 その顔は真剣そのもの。

 必死さで引きつっているようにも見えなくはないけど、きっと気のせいだろう。


「皆の者。まずは参加を決めてくれたこと感謝する」


 リガードさんはそう言って頭を下げる。

 その様子に兵士の数名が驚いた様子を見せる。

 確かに、お礼の言葉を口にしたとしても中々頭を下げる場面というのは見ないものだ。

 そんなことを考えていると、リガードさんは言葉を続けた。


「今回の迷宮は決して難易度は高くない。恐らく、皆が持つ力を発揮すれば確実に達成できるはずだ……だが、油断はするな」


 リガードさんから発せられる空気が一段と鋭くなる。

 その姿を見ていると、ゴーラル様の息子なんだな、と思わされる。

 そんなことを考えていると、リガードさんがより一層声を大きく叫んだ。


「迷宮では何が起こるか分からない。細心の注意を払い、全力で臨むように!」


 そう言い終えると、兵士たちから歓声が上がった。

 リガードさんが背中を向け、近くの馬車へと乗り込む。

 俺たちもその後をついていった。


 見事な話しぶりだ。

 兵士たちの士気をしっかりと上げていて、今朝まで怯え切っていた人と同一人物だとは思えない。


 もしかしたら、リガードさんも腹をくくることができたのかもしれない。


 俺たちはリガードさんと同じ馬車に乗って迷宮まで向かうことになっている。

 同じ馬車へと乗り込むと、膝を抱えてしくしくと泣いているリガードさんの姿があった。


「も、もう嫌だ……迷宮行くしかないんだぁ……」


 さ、さっきまで話していたリガードさんはどこへ行ってしまったのだろうか。


「リガードさん、大丈夫ですか?」

「大丈夫なように見えるか……?」

「見えませんが……」

「フェイク。相手しなくて大丈夫」


 アリシアがすっと横からそう口を挟むと、リガードさんが泣きそうな顔をアリシアへと向ける。


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― 新着の感想 ―
[一言] ここまで来ると、二重人格ですね…
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