第25話
俺に対しての言葉だったようだが、アリシアもばっちりと聞こえたようだ。
びくっと跳ね上がると耳まで真っ赤にして、レフィを睨んでいた。
「れ、レフィ! 余計なこと言わないでっ」
店内ということもあり、声のボリュームは控えめだったが、それでもアリシアの頬は膨らんでいた。
ちらと見るとすでにレフィは立ち去り、一般客に混ざるように店内を歩いている。
さすがの早業だ。
そんなことを考えていると、恥ずかしそうに顔を俯かせていたアリシアが、ちらとこちらを見てきた。
「ふぇ、フェイク……その、そういうわけ、だから」
「分かった。でも、俺の好きなものじゃなくてさ、二人に似合うものがあればいいな」
「う、うん……っ!」
俺がそう答えると、アリシアは嬉しそうにぱっと目を輝かせた。
初めは身分証明のために必要なのだと思っていたが、別にそう気張る必要はないだろう。
でも、お揃いのものとなるとアリシアは普段から身に着ける可能性もあるよな。
そうなると、アリシアに似合うやつがいいとも思ってしまう。
そんな考えとともに、改めて商品を眺めていく。
下手に豪華なものとなると、アリシアにはあまり合わないよな。
となると、変に装飾の入ったものよりはシンプルなもののほうがいいかもしれない。
アリシアとともに歩きながら棚を見ていく。
そのとき、一つ気になるネックレスが目に留まった。
ネックレスの先には魔石がついているが、チェーンの部分を含めてシンプルだ。
ネックレスの先についた控えめなサイズの魔石は、アリシアに良く似合うだろう。
そのネックレスへと手を伸ばそうとして、アリシアと手がぶつかった。
「え?」
「あっ、ごめん」
アリシアが慌てて手を引き、俺も同じように手を引いていた。
お互い少し照れ臭くなりながらも、商品を指さす。
「ちょうどこれがいいと思ったんだ。その似合うかもと思って」
「わ、私も……そうなの。フェイクに似合うと思ったから」
「俺に? いや、俺はアリシアに似合うと思ってな」
そういうと、アリシアが意外そうに目を丸くした。
「もう、フェイクは自分に似合うものを選んでもいいんだよ? 欲しいものとか選んで、いいよ?」
「いや、でも……ていうか、それはアリシアだってそうだろ?」
お互いにじっと見つめあう。
時間にして数秒が経ち、それから苦笑した。
「それじゃあ、これにする?」
アリシアの言葉に、俺は頷いた。
二人ともそれでいいと言っているのだから、これ以上悩む必要はないだろう。
「俺もそれでいいと思っていたから……それじゃあ、買ってくるな」
「あっ」
アリシアが何か言いかけたが、俺はその言葉を無視してさっさと商品を手に取った。
それから、帳場へと向かい、会計を済ませてアリシアの元へと戻る。
この店の商品なら、俺の手持ちのお金でも十分に買える金額だったからな。
これまでのお礼も込めて、アリシアにプレゼントを上げたいと思っていたのでちょうど良い。
ネックレスをアリシアに見せるように揺らすと、彼女は頬を膨らませていた。
「私が買おうと思っていたのに」
「いつもお世話になってるし、このくらいはお礼にさせてくれ」
そう言ってから、ネックレスを手渡す。
アリシアはまだ頬を膨らませてはいたのだが、ネックレスを受け取ると首元にかけた。
「どう? 似合う?」
「ああ、滅茶苦茶似合ってる」
アリシアは何をつけても似合うな。
そんなことを考えていると、視線が合った。
「フェイクもつけてみて」
「ああ」
俺も言われたとおりに着けてみた。
こういったものを着けるのは初めてなので少し不安だった。
「ど、どうだ?」
「うん、やっぱり似合ってる」
アリシアがにこりと微笑み、ほっと胸をなでおろす。
そんなことを考えながら俺たちは店を出た。




