第22話
次の日の朝。
俺はレフィとアリシアとともに裏庭へと来ていた。
以前、アリシアが訓練をしていた場所だ。
その中央にて、俺はレフィと向かい合う。
昨日話していた通り、レフィの指導を受けにきていた。
俺もレフィも、どちらも剣を持ち、向かいあっていた。
俺たちから少し離れたところにはアリシアがベンチに腰かけていた。
こちらを興味津々といった様子で見守っていて、少し緊張する。
「それでは、フェイク様。いつでも自由に攻撃してください」
「……わ、分かりました」
そう、今俺はレフィと軽く手合わせをすることになっていた。
迷宮での俺の役割は武器の調整と自衛程度だ。
だから、それほど戦闘能力を求められることはないとはいえ、最近はあまり戦っていなかったからな。
一応、ホーンドラゴンに攻撃をしたことはあったが……とはいえ、あれは例外的なものだ。
迷宮内では何が起こるか分からないため、万が一を考えて体を動かしておこうということになった。
レフィは俺たちの警備をしていることからもかなりの腕前であるのは確かだ。
……ただ、俺はアリシアに見られながら戦うことになるとは思っていなかったが。
「頑張ってね、フェイク」
そう声をかけられると、余計に緊張してしまう。
情けない姿を見せるわけにはいかないのだが……。
「どうしましたか、フェイク様?」
落ち着いた微笑を浮かべるレフィには、一切の隙がない。
さすがに、俺たちの護衛兼使用人を務めていることだけはある。
このまま踏み込んでも、なすすべなくやられてしまうだろう。
……さて、どうしようか。
何か隙を作れればいいのだが。
今回は魔法の使用などはなしということになっているので、魔法はダメだ。
ならば、他に手段が何かあるかといえば……。
そのときだった。
レフィの足元に一匹の虫が動いていた。
俺がじっと視線を向けると、レフィもちらと視線だけを動かした。
そして――。
「きゃああ!? 蜘蛛!?」
レフィは素っ頓狂な声をあげ、その場で跳ねると同時、すぐに逃げるように距離をとった。
蜘蛛はすたすたと歩いていたのだが、結果的に大きな隙となった。
今しかない!
俺は自分自身にエンチャントを施し、一時的に肉体を強化する。
同時に地面を蹴りつけ、レフィへと突っ込んでいく。
「くっ!」
レフィはしまったという顔でありながら、すぐにこちらへと向きあう。
俺は刃の入っていない訓練用の剣を振りぬいた。
一閃はあっさりと受け止められる。
すぐにレフィの体が動き、反撃とばかりに剣を振りぬいてきた。
それを正面から受け止める。
お互い、向かい合う。
「フェイク様……やはりかなり動けますね」
「……そ、それは、どうも……っ」
返事をするのが、やっとだった。
レフィとの鍔迫り合いで、俺は押し切られそうになる。
不意をついたというのに、なんという力だ。
こっちは一応身体強化をしているというのに。
レフィも何かしているのかもしれない。
思い切り弾かれてしまい、お互いに距離をとる。
俺は大きく息を吐いてから、剣を握りなおすとレフィがこちらへと片手を向けてきた。
「フェイク様。もう少し余裕を持つとよいかもしれませんね」
「余裕……?」
「はい。フェイク様は戦闘能力はかなり高いほうだと思いますが、戦闘に不慣れな者や経験の少ない人特有の余裕の無さがあります。相手にがむしゃらに突っ込むだけでは、カウンターを食らいやすくなりますので、もう少し何をしてくるか分からせない余裕さを持つといいかもしれません」
「……っていっても、いきなりでできるものなのか?」
「攻撃する前に深呼吸というか、一つ呼吸を挟んでみると良いかもしれませんね」
「……なるほど」
確かに、戦闘のときに余裕をもって対応したことはあまりないかもしれない。
相手が格下ならもっとゆったりできるんだけど……相手が人間だと緊張もあって、なかなか余裕をもっての対応は難しい。
「それでは、そのあたりを意識して訓練をしていきましょうか」
レフィが剣を持ち直し、再び構える。
さすがに、蜘蛛がいないときのレフィ相手には剣の打ち合いにさえ持っていけないほどに強かった。




