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宮廷鍛冶師の幸せな日常 ~ブラックな職場を追放されたが、隣国で公爵令嬢に溺愛されながらホワイトな生活送ります~  作者: 木嶋隆太
第三章

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第21話

 それからしばらく、俺はリガードさんに泣きつかれていたが、ようやく解放されて書斎を後にした。

 ぷんすか怒っていたリガードさんだったが、やがて落ち着いた彼は当日誰かを替え玉にできないかとまた別の作戦を考え始めてしまった。

 とりあえず、アリシアにレイピアを渡す必要があったため、屋敷内を歩いていると、オルレーラ様を見つけた。

 それまで鼻歌まじりに歩いていた彼女はこちらに気づくと、嬉しそうな顔で近づいてきた。


「あら、フェイクちゃん。今日は鍛冶をしていたんだっけ?」

「はい」

「その手に持っているのは……アリシアへのプレゼント?」

「プレゼント、といいますか……迷宮攻略に向けて作ったものです。アリシアも、自分のものは持っていないと話していたので」

「うん、そうだね。へえ、立派なレイピアね」

「……そ、そうですかね?」

「うん。アリシアへの愛情が感じられるね。ぐーだね」


 ぐっとオルレーラ様は親指を立ててきた。


「それで今アリシアを探しているんですけど、見かけてはいませんか?」

「あっ、アリシアならたぶん部屋にいると思うかな? さっき遊びに行ったからね」

「そうだったんですね」

「うん。フェイクちゃんとどんなイチャイチャをしてるのか聞きに行ったんだよね」


 何をしに行っているんだこの人は!?

 あまり長くオルレーラ様と話していると、また変な約束を取り付けられてしまうかもしれない。

 俺は苦笑を返しながら、逃げるように歩き出す。


「そ、それじゃあこの辺で」

「えー、もうちょっと話したいのになぁ……。でも、フェイクちゃんとアリシアのせっかくの二人の愛の時間を邪魔するのも、ダメだよね」

「愛の時間じゃ、ないです。レイピア届けに行くだけですから」

「え、愛はないの?」

「あ、ありますが……今回はそういうのではなくて」

「じゃあ、愛を楽しむ時間もあるってことだよね? お義母さん安心しました。それじゃあね」


 オルレーラ様はひらひらと手を振って、去っていった。

 ……あ、嵐のような人だったな。

 俺はオルレーラ様の後ろ姿を見送ってから、アリシアの部屋へと向かって歩き出す。

 

 アリシアの部屋に到着すると、入口にレフィが立っていた。

 こちらに気づいたレフィは一礼のあと、首を傾げる。


「フェイク様お疲れ様です。もしかして、アリシア様の剣を届けに来たのでしょうか?」


 一瞬でそれを見破る当たり、さすがだ。

 

「そうだけど、アリシアは今大丈夫か?」


 先ほどまで、オルレーラ様と話していたんだよな?

 俺に接するのとは違うと思うが、もしも先ほどのようなテンションで話していたとなると、相当な負担がかかっているのではないだろうか?


 アリシアを気遣っての問いに、レフィは頷いて答えた。


「ええ、特に問題はありませんよ。アリシア様、フェイク様が来ましたが通してもよろしいですか?」


 扉越しにレフィが言うと、中でバタバタと音が響く。

 それから、扉が開いた。


「ごめんね、待たせちゃって」


 扉の奥から現れたアリシアは、急いで衣服を整えたような様子が伺えた。

 急かすような真似をさせてしまって悪いことをしてしまったかもしれない。


「ごめん、忙しかったか?」

「別に、大丈夫。どうしたの?」

「剣を作るって話があっただろ? もうアリシアの分もできあがったから渡しに来たんだ」


 俺が手に持っていた剣をアリシアへと向けると、彼女はぱっと目を輝かせた。

 鞘から剣を抜いたアリシアは、その剣先から柄の部分までを確認するように眺めていた。


 それから、軽く剣を振る。

 さすがに室内なので、動きは控えめであったが、それで十分確認できたようだ。

 アリシアが嬉しそうに微笑んだ。


「フェイク、これ凄い。手に馴染む」

「それなら、良かった。アリシアに合う剣が作れないかって結構頑張った甲斐があったよ」

「ありがとね、フェイク。私の剣ができたってことは、他の人たちの剣もできたの?」

「ああ。全部、リガードさんに納品したからいつでも迷宮攻略には行けるよ」

「そっか。兄さんが逃げないように見張ってないと」


 逃げる可能性もあるのか。

 アリシアの言葉に苦笑しながら、俺は部屋の外へと視線をやる。


「それじゃあ、また後でな」

「うん、あっ、そうだ。明日はフェイクもレフィも時間あるよね?」


 唐突の質問に、足を止めて振り返る。


「あるけど、何かあるのか?」

「レフィが一度フェイクと手合わせをしておこうって話になったんだ。迷宮に入る前の準備体操みたいな感じ、かな」

「レフィと……戦うってことか」


 ごくりと唾を飲み込む。

 視線を向けると、レフィがすっと頭を下げてきた。


「私では、物足りないかもしれませんが、どうぞよろしくお願いいたします」

「……レフィって、アリシアに指導していたんだよな? ってことは、かなり強い?」

「いえいえ、そんなことございませんよ」


 レフィがふふ、と微笑を浮かべる。

 ……絶対、油断できない相手だ。

 

「そ、それと、午後は一緒に遊びに行きたいと思って……大丈夫?」


 アリシアが控えめに問いかけてくる。

 一緒に、遊びに。

 その二つの言葉を聞いた瞬間に、俺は頷いていた。


「あ、ああ! 大丈夫だっ」

「良かった。それじゃあ、明日はよろしくね」

「分かった」


 アリシアと遊びに行くなんて久しぶりだ。

 明日に思いをはせてはいたが、気を抜いてばかりではいられない。 

 ……まずはレフィの指導を乗り切らないとだからな。


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