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宮廷鍛冶師の幸せな日常 ~ブラックな職場を追放されたが、隣国で公爵令嬢に溺愛されながらホワイトな生活送ります~  作者: 木嶋隆太
第三章

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第18話





 夕方。窓から差し込む夕陽を眺めながら、俺はできあがった剣を確認していく。

 合計七本だ。

 思っていたよりもずっと早く作れたし、何よりどれもかなりの質だと自負している。

 できあがった剣たちを眺めていると、それだけで言い知れぬ喜びが浮かびあがってくる。

 確実に、鍛冶師として成長できている実感があった。


 それもこれも、すべてはエスレア魔鉄の加工からのものだ。

 嬉しさをいっぱいに感じながら、俺の意識は残っていた魔鉄に向く。

 とりあえず、アリシア用の剣を作るために用意した魔鉄がいくつかある。それらの魔鉄は、レイピアのような細くなりたい魔鉄たちだ。

 これを使えば、アリシアに合う剣もきっとできるだろう。


 問題は俺自身だ。

 俺ってどんな剣が使いたいのだろうか?


 そんなに意識したことはなかったんだよな。

 まあ、でもアリシアを守るための、剣が欲しいのだから、それだけ立派な剣のほうがいいだろう。


 よく切れて、頑丈な剣。口で言うのは簡単だが、それらを作れるかどうかは分からない。

 どちらにしろ、余った魔鉄で作るので、自分の剣に関してはえり好みはない。

 色々と浮かんでは消えていった。


「フェイク様。そろそろ、屋敷に戻ったほうがよろしいかと」


 鍛冶工房の入り口には、今日一日俺の護衛として残ってくれていたレフィがいた。


「ああ、分かった」


 軽く伸びをしてから、俺は鍛冶工房を後にした。




 夜。

 一日の疲れを癒すように部屋のベッドで寝転んでいた。

 だらだらとはしていたが、一冊の本を眺めていた。

 貴族としての振舞い方について書かれた本だ。本格的な勉強として取り組んでいるというよりも、あくまで流し見程度ではあるが、俺はアリシアの夫として恥ずかしくないよう勉強もしていた。


 今開いていたのは舞踏会でのダンスについて、絵とともに書かれていたのだが、さすがにこれは実際に自分で動いてみないことにはイメージがつきにくい。

 そんな本を読んでるときだった

 部屋の扉がこんこんとノックされた。


 すでに夜なので、こんな時間に訪れるなんて誰だろうか?

 特に約束などもしていなかったはずだが。

 多少の警戒を持ちながら、扉へと近づく。……身内の家だとしても、誰がどこで何をしてくるか分からないから用心するように、というのがレフィとアリシアの教えだ。


 まあ、外では兵士が見張りとして待機してくれているらしいので、よほどのことがなければ問題ないと思うが。


「誰だ?」

「あっ、フェイク様。オルレーラ様が来訪されましたけど、通していいですか?」


 声をかけると、向こうからカプリの声が返ってきた。

 今日の護衛はカプリだったか、と考えながらすぐに扉を開ける。

 相手が相手だ。待たせるわけにはいかない。


「あっ、フェイクちゃん。ごめんね、夜分遅くに」

「いえ、大丈夫です。何かありましたか?」


 申し訳なさそうに両手を合わせるオルレーラ様とレフィがいた。


「うーん、ちょっとお話したいなって思って。今から大丈夫かな? それとも、もうお休みだった?」

「いえ、大丈夫です」


 別にそれほど遅い時間ではない。いつも寝ている時間までまだまだ余裕はある。

 俺の言葉に、ほっとした様子でオルレーラ様が息を吐いた。


「それなら良かった。中に入るね」

「どうぞ」


 オルレーラ様を中へと招き入れ、オルレーラ様の席を用意する。

 すぐに腰かけたオルレーラ様を見てから、俺も向かいに座った。

 それから、オルレーラ様は自身の胸元に手を当てる。


「そういえば、ちゃんとは自己紹介してなかったよね。改めまして、アリシアの義母でオルレーラって言うんだ。よろしくね」

「よ、よろしくお願いします、オルレーラ様」

「もう義母さんでいいのよ?」


 にこにこ、と微笑むオルレーラ様であったが、さすがにその呼び方はできない。


「そ、それはまだ早いといいますか」

「……えっ、それじゃあアリシアとは遊びの関係なの?」

「そ、そんなことはありません! 真剣に結婚を考えています!」

「じゃあ、義母さん、でいいでしょ?」

「……そう、ですかね?」

「そうよ。はい、呼んでっ」


 ……な、なんだこれは。

 完全にオルレーラ様のペースにやられてしまった。

 オルレーラ様は期待するようにこちらを見てきていて、とてもではないが断ることはできそうにない。

 

「……義母さん、でいいですか?」


 僅かな照れを誤魔化すように言うと、オルレーラ様は満足げに頷いた。


「うんうん、よろしい。それで、今ここに来た理由だけど本当に堅苦しい話をするためとかじゃなくて、雑談がしたいと思ってね。二人きりで話す機会ってあんまり取れないと思ったし……あっ、レフィもいるから正確には二人じゃないわね」

「外に出て居ましょうか?」

「ううん、一緒にいてくれて大丈夫だよ。それに一緒にいたほうがフェイクちゃんも話しやすいでしょ?」

「そうですね」


 ……まあ、オルレーラ様と二人きりよりは緊張せずに済むかもしれない。

 ただ、レフィはわりと敵にも味方にもなるからな。


「それで、フェイクちゃん。アリシアのこと、ぶっちゃけどう思ってるの?」

「ぶっちゃけ、と言いましても……とても良い人だと思っています」

「好きなのよね?」

「……はい」


 改めて問われるととても恥ずかしいな。

 俺が頷くと、オルレーラ様もにっこりと微笑んだ。


「うんうん。あっ、でもそもそも別の考えがあっても私が聞いちゃうと答えられないかな?」

「いえ、すべて本心ですから」


 オルレーラ様の言う通り、彼女のような立場の人に問われて否定するのは、普通の感性の人間ならば難しいだろう。


「そっか。……うん、でもアリシアが好きな人を見つけられて本当に良かった」


 そう言ったオルレーラ様は、それこそ心の底からの安堵を吐いている様子だった。

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