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宮廷鍛冶師の幸せな日常 ~ブラックな職場を追放されたが、隣国で公爵令嬢に溺愛されながらホワイトな生活送ります~  作者: 木嶋隆太
第三章

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第15話





 鍛冶工房を見せてもらうために屋敷を出ると、夕陽が目に飛び込んできた。

 その夕陽もすでにほとんどが隠れていて、かなり暗くなっていた。

 もうそんな時間か。

 朝から街まで休みなく移動してきたし、先ほどまで一応会議にも参加していたんだし当然か。


「フェイク。こっちだよ」


 夕陽を眺めていた俺の手をアリシアがすっと引っ張ってきた。

 彼女の柔らかな手を握り返し、その隣に並ぶように足を伸ばす。

 アリシアの足取りに迷いはない。慣れた様子の彼女へ、問いかける。


「街には詳しいのか?」

「うん。一年に一回くらいだけど来てるから。鍛冶工房の場所も知ってるんだ」

「そうなんだな」


 アリシアとともに、貴族街を歩いていく。

 背後には護衛としてレフィと兵士が数名ついてきているようだったが、それでも二人きりかのような雰囲気があった。


 色々あったが、アリシアと一緒にいられるこの時間はやはり幸せだった。

 アリシアと共に向かっていった先は貴族街の外れだった。


 近づいていくと少し古びた雰囲気なのが分かった。

 一応、手入れ自体はされているようだが、建物自体がそもそも古いのだろう。


「普段は誰も使ってないのか?」

「一応兄さんが趣味程度に鍛冶してるくらい」

「え、リガードさんもできるのか?」

「一応できる。ほとんど趣味の範囲くらい、かな」

「そうなんだな」


 ……先祖は鍛冶師だった、というのだし当然か。

 中へと入っていき、工房内に置かれている道具を確認していく。

 小首を傾げ、アリシアが覗き込んできた。


「道具は大丈夫そう?」

「ああ。問題ないな」


 バーナストの屋敷にある鍛冶工房と同じくらいに設備は充実している。

 素材に関しては、迷宮攻略のために用意されたのだろうビイレア魔鉄が入った箱が特に気になっている。


 すべて同じビイレア魔鉄なのだろうけど、質には多少の差はある。

 しかし、どれもとても美しい。

 軽く手に取ってみてみれば、質の高さが良くわかる。

 それが、箱いっぱいに用意してもらえているのだから、鍛冶師の血が騒ぐというものだ。


 見ていると、今すぐに鍛冶をしたい気持ちがあったが、もう遅い時間だ。

 ぐっとこらえよう。

 ……本当にリガードさんも泣き出してしまうかもしれないしな。


「フェイク、鍛冶したいでしょ」

「え!?」

「顔に書いてある」


 つんつんと頬をつつかれる。

 からかうように微笑んできたアリシアに、俺は少し照れ臭くなる。


「……まあな。でも、それに、リガードさんに嫌われちゃうかもしれないしな」

「兄さんへの接し方はそのくらいがちょうどいいくらい。あんまり甘やかすとすぐ楽なほうに逃げようとするから」

「厳しいな」

「お父さんにも厳しくするように言われてるから」

「やっぱりそうだったのか。いつもよりも迫力あったな」

「えっ、そ、そうかな? こ、怖くなかった?」

「別にそんなことはないと思ったけどな」


 俺の純粋な感想に、アリシアは伺うような視線を向けてくる。


「べ、別にいつもあんな感じじゃないからね?」

「そうだよな。普段と違うアリシアが見れてよかったよ。なんだか、新鮮だったよ」

「そ、そう?」


 心配するように顔色を伺ってきたアリシアに、俺は苦笑しながら首を横に振った。


「ああ、いつもと違う姿を見れたけど、いつもみたいにかわ……」

「かわ?」


 「可愛い」と言いかけて、口を閉ざした。

 しかし、アリシアは何か先を促すように顔を寄せてきた。


「……可愛いと思うぞ」

「そ、そう?」


 今の俺たちはバカップルみたいだったかもしれない。

 前に街中でそういうのを見たことがあったが、今の俺っそれに似たようなことを言っていなかっただろうか?


 まあ、アリシアが嬉しそうにしているからいいか。

 鍛冶工房を確認しながら、俺はリガードさんのことを思い出していた。

 先ほどは無理やりに押し切る形で出発予定日を決めていたが、本当に大丈夫なのだろうか?


 覚悟が決まっていないままに挑んでしまえば、中途半端な結果になってしまうかもしれない。

 不安に思った俺は聞いてみることにした。


「リガードさんにはああ言ってたけどさ。覚悟が決まっていないまま連れていくのは危険じゃないか?」

「別に、兄さんはとっくに覚悟自体はできていると思う。ただ、臆病なだけ」

「……そうなのか?」

「うん。それに、臆病なことは決して悪いことばかりじゃない。今回だって、理由はともかく、念には念を入れるために、フェイクを呼んでるんだしね」


 なるほど。

 臆病だからこそ、より自分が安全に挑める環境作りを徹底しているという見方もできるのか。


 確かに今回だって万全を期してはいる。

 やりすぎな気もするが、それでも不確定な要素が多い迷宮に挑む以上、これくらいは許容範囲なのかもしれない。


 それが結果的に、部下からの信頼にも繋がっているようだったしな。

 俺はビイレア魔鉄が入っている箱へ視線をやる。

 かなり多いよな。

 十人分の剣として見てみると、十分すぎる量だ。


 これなら、もっと多くの人の剣を作れるだろう。

 迷宮攻略が終わってからも、もしかしたら鍛治をさせてもらえるかもしれない。

 ふと、思ったのは俺とアリシアだ。

 一緒に同行する俺たちだが、今は剣などを持っていない。アリシアは別に用意しているのかもしれないが、俺に関しては完全に丸腰である。


「アリシアや俺の剣とかはどうするんだ?」

「え? あっ、そっか。そんなに戦う可能性がないから考えてなかったけど、用意しておいたほうがいいよね」

「ああ。自衛程度の戦闘はする可能性もあると思ってな」


 アリシアの視線がビイレア魔鉄が入った箱へと向けられる。

 それから少しだけ期待するようにこちらを見てきた。


「私も自分の剣とかはないから用意してもらえるならしてもらったほうがいいかもだけど……そんなに無理しなくてもいいかな? それよりも、フェイクのほうが必要だと思う」

「でも、たぶんだけど俺の分を作っても余ると思うんだ。時間的にもたぶん、大丈夫だろうし、アリシアの剣がないなら用意したほうがいいよな?」

「余るなら……うん。作ってほしい。一応、兄さんには確認してみる」

「……ああ、分かった」


 それから、しばらく鍛冶工房内を歩き、道具などを再確認する。

 明日からでも鍛冶が開始できるよう、多少物の配置などを入れ替えてから額の汗を拭った。


「確認ももう大丈夫だ」

「そう? それなら、屋敷に戻ろっか」


 アリシアがぎゅっと片手を握ってきたので、握り返す。

 鍛冶工房を後にしながら、俺は色々と考える。

 俺の剣ってどんなものが良いのだろうか。アリシアの剣だってそうだ。


 これまで自分のための剣を作ったことはなかったので、結構悩んでしまう。

 俺に合う剣って、どんなのだろうか。


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