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宮廷鍛冶師の幸せな日常 ~ブラックな職場を追放されたが、隣国で公爵令嬢に溺愛されながらホワイトな生活送ります~  作者: 木嶋隆太
第三章

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第14話


 ますます尊敬が強まったような気がした。

 これで、変な武器を作ってしまったら期待を大きく裏切ることになるし、ある意味プレッシャーではあるけど。


「……わ、分かった。フェイク、無理をして体を壊しても問題だ。あ、あまり急ぎすぎるなよ」


 リガードさんは、俺のことを心配してそう言ってくれたようだった。

 少し、仮面が剥がれかけているようにも感じたが……気のせいだろうか?


「いえ。リールナムの一大事になりかねないので、できる限り早く対応するつもりです」


 迷宮を放っておけば、確実に大問題に繋がるだろう。

 そう思っての言葉だったのだが、リガードさんはまくしたてるように口を開いた。


「心配はありがたいが、こちらも大事なアリシアの婚約者なのだからな。体に何かあっては今後に支障が出るかもしれないからな。うん、あまり無理をするなよ。ゆっくり、ゆっくりでいいんだからな」


 リガードさんの様子が徐々におかしくなっているのははっきりと分かった。

 すると、これまで黙っていたアリシアが冷たい視線を向けた。


「兄さん。フェイクは大丈夫だから。兄さんも、武器ができ次第、迷宮攻略を開始できるように準備しておいて」


 じろっというアリシアの視線に、リガードさんは小さく頷いた。

 ……ああ、もしかしてリガードさん、できる限り迷宮攻略を先延ばしにしたかったのか?


 だから、俺を気遣うような振りをしつつ、先延ばしにできるように策を練っていたのだろうか?

 それで、アリシアが少し怒ったように言ったのかもしれない。


 それを見ていた兵士たちは、リガードさんへも尊敬の眼差しを向けている。


「……さすがリガード様だ。優しい方だよな」

「……ああ。オレたちのことも気遣って、できる限り余裕を持って迷宮攻略に行けるように、鍛冶師を呼んで武器も用意してくれるなんて」


 兵士たちからすれば、気遣ってくれる良い上司、というように映っているようだ。

 事情を知っている護衛や使用人たちは少し呆れた様子でいるのが、何とも対照的だ。

 リガードさんは小さくため息を吐いてから、またすっと迫力ある表情を浮かべる。


「分かっている。ただ、万全を期する必要があるからな。武器は三日後にできあがる。フェイクには明日から作業を開始してもらうから、迷宮攻略は六日後に開始しようと思う」

「五日後でもいいんじゃない?」


 アリシアがすかさず口を挟んだ。

 一日でも伸ばしたかった様子のリガードさんは考えるような素振りを見せてから、


「……そ、そうかもしれないな。五日後に出発できるように調整しておいてくれ。ただ、万が一のことがあれば出発を後らせる可能性があることも伝えておいてくれ。それまでに、しっかりと準備をしておいてくれ」


 リガードさんは、逃げ道をアリシアに潰されながらも、それでもどうにか少しでも先延ばしにしようと頑張っていた。


「かしこまりました!」

「参加予定の者たちに共有しておきます!」


 兵士たちは元気よく敬礼をし、リガードさんは頷いた。


「よし。それならば、これで会議は終わりだ」


 リガードさんがそう宣言すると、兵士たちは一礼のあとに会議室を出ていった。

 兵士たちに続き、リガードさんの護衛たちが外へと出る。

 二人が扉を閉めたところで、リガードさんの表情がくしゃりと歪んだ。

 ……今にも泣き出しそうである。


「ア、アリシアァァァ! なんてことを言うんだ! あ、あれでは来週にはもうお兄ちゃん迷宮内にいるじゃないか!」


 情けなく叫んだリガードさんに、アリシアはもうすっかり慣れた様子のため息を吐いた。


「兄さん。もう覚悟を決めておかないと駄目な段階だと思うけど」

「だ、だからその覚悟の準備をするためにも時間が必要なんだ。アリシアだって分かるだろう? ほら、例えば、フェイクくんに告白しようと思ったときとかだって時間をかけていたんじゃないかな? ううん?」

「そ、そんなこと、別にないから」


 突然の言葉に、アリシアが真っ赤になって声を荒げる。

 ここぞとばかりに、リガードさんが詰め寄る。

 

「ほんとかねぇ? レフィ、どうなんだ?」


 リガードさんは問いをアリシアにではなくレフィへと振る。

 レフィはすっと頭を下げてから、口を開いた。


「かなり時間がかかったのは事実ですね」

「レフィ! 余計なこと言わないで!」

「でも実際見ていた側としてはモヤモヤしてしまったので」

「もぉ……!」


 アリシアが不満げに頬を膨らませると、リガードさんがここぞとばかりに声を上げた。


「ほら見ろ! だからお兄ちゃんももっと時間が欲しいんだ! いいだろ、アリシア!」

「それとこれとは話が別。私とフェイクの関係には、時間的な問題はない。けど、迷宮の問題に時間制限はある」


 アリシアの言うことはもっともだ。

 俺とアリシアは別にゆっくり関係を作っていけばいいだろうけど、迷宮に関してはどんな問題が発生するか分からない。

 しかし、リガードさんはむっと声を上げる。


「いやいや! アリシアとフェイクにも問題はあるだろう。例えば、アリシアが決意できなければフェイクの心が離れていたかもしれない! だろう、フェイクくん!」

「えっ」


 傍観者として徹していた俺だったが、今度こそ話に巻き込まれてしまう。

 アリシアが顔を赤くしながらこちらを見てきた。


「ふぇ、フェイク! そんなこと、ない……よね?」

「いやいや! フェイクほどの腕前ならばオレの指摘したような可能性は十分にあり得るはずだ。それに、アリシアよりも胸とかボインボインのナイスバディーな人だって……い、痛い! 腹を抓るな、アリシア!」

「う、うるさい……っ」


 アリシアがきっと目を吊り上げ、リガードさんの横っ腹を引っ張っている。

 二人が訴えかけるようにこちらを見てきたが、俺はここで迷うつもりはなかった。


「……俺もそのときからアリシアのことが好きだったので、たぶん今より時間がかかっても結果は変わってないと思います」

「ああもう! お兄ちゃんの味方はいないのか! むう!」


 めちゃくちゃ恥ずかしかったが言い切って見せると、リガードさんが髪をかきあげ、アリシアから逃げた。

 アリシアは顔を赤くしながらも、そんなリガードさんに詰め寄る。


「とにかく。色々あっても私はフェイクと婚約者になった。でも、兄さんは放っておいたら一生かかっても覚悟の準備できない、よね?」


 アリシアが話を戻すようにそういうと、リガードさんが頬を引きつらせる。 


「そ、そんなことはないぞ……っ!」


 アリシアがジトリと睨むと、リガードさんは顔をぷいと逸らした。

 もしかしたら、アリシアがここに来た理由って、ヒーラーとしてというよりもリガードさんの尻を叩かせるためなのかもしれない。

 そんなことを思いつくほどには、リガードさんは及び腰であった。


「とにかく、日付は変わらないから。以上。フェイク。もう行こう」


 アリシアが俺の手を掴み、歩きだす。

 リガードさんが落ち込んでいたのでこのまま放っておいていいのだろうかとは思ったが、アリシアにくいくいと誘うように引っ張られれば、ついていくしかない。

 部屋を出る間近に、俺はアリシアに問いかける。


「そうだアリシア。さっき話にあった鍛冶工房に今から行くことって大丈夫か?」

「大丈夫だと思う。ねえ、兄さん。いつもの場所なら貸し切りにしてあるんでしょ?」


 ぴたりと足を止めたアリシアが、リガードさんへと振り返る。

 問いかけに、リガードさんはゆっくりと頷いていたのだが、それから何かに気づいたように目を見開いた。


「ああ……って、はっ! まさか今から鍛冶を!? 駄目だぞフェイクくん! 今日は長旅をしてきたのだしゆっくり休んでおかないと!」


 立ち上がり、俺の前まで来てがしっ! と両肩を掴んできた。

 必死にこちらを見てくるリガードさんに、俺は頬が引きつった。

 なんて必死な顔なんだ。

 これで俺が「急いで鍛冶をしますね!」なんて言ったらいよいよ泣き出しそうである。


「い、いや……一応見ていこうと思っただけですので」

「そ、そうなのだな? ……鍛冶しない?」

「しませんから。それでは、また後で」

「ああ! それならいいんだ!」


 ぱっと目を輝かせたリガードさんは、快くといった様子で手を振ってくれた。

 会議のときとは真逆だし、何よりゴーラル様ともまるで違う……。

 とにかく、色々と驚かされる人であるというのは確かだった。

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