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宮廷鍛冶師の幸せな日常 ~ブラックな職場を追放されたが、隣国で公爵令嬢に溺愛されながらホワイトな生活送ります~  作者: 木嶋隆太
第三章

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第10話



 アリシアとともに廊下を歩いていく俺はついつい周囲に視線を奪われる。

 本当に立派な屋敷だよな。


 本邸に行ったときも思ったが、俺には場違いなのではないかと思わされてしまう。

 そんな呑気なことを考えていると、くいくいと服の裾を掴まれた。

 足を止め、そちらへ視線をやると、アリシアが申し訳なさそうな表情をしていた。


「……その、さっきの兄さんのことなんだけど」

「ああ、リガードさんのことか? どうしたんだ?」


 問いかけると、ぺこりと頭を下げられた。


「ごめんね、うちの兄さん情けなくて」

「い、いや……その」


 そう言われてもなんと返せばいいのか分からない。

 確かに少し驚かされこそしたが、領主の重圧というのは俺の想像の及ばない領域だ。

 

 アリシアが発言したような気持ちを多少は抱いてはいたが、きっととても大変なことなんだろう。


「……まあ、でも、リガードさんなりに苦労もあるんだろうし、そんなには気にしてないっていうか」

「それならいいんだけど……兄さんは昔からあんな感じだから。ちょっと、臆病な性格をしているというか、ネガティブというか……。それでいて、私のことは妹としてというか子どもとして見ることもあるから、少し面倒」


 少し面倒と言ったアリシアの頬は膨れていた。

 怒っているようだけど、その怒りが俺に対して向けられているものではないためか、可愛く見える。


「そうなんだな。リガードさん、かなり追い込まれたような顔してたけど大丈夫なのか? 迷宮だと、魔物との戦いとかもあるだろ?」


 どちらかといえば、そちらのほうが心配だった。

 アリシアとともに挑むかもしれない迷宮に、果たしてリガードさんはついてきてくれるのかどうか。

 しかし、アリシアはあっけらかんとした様子で答えた。


「なんだかんだ追い込まれたらやるしかないから何とかなる。ああ見えても戦闘能力はかなり高いほうだし」


 結構強引なやり方ではないだろうか。

 しかし、ゴーラル様も特に何も言っていなかったのだから、そのやり方は正しいのかもしれない。


「……まあ、それならいい、のか?」

「うん。家ではいつもの光景だからね」


 アリシアがきっぱりと言い切って、通路の角を曲がろうとしたときだった。

 向こうから女性が姿を見せる。俺たちが反射的に足を止めると、女性はこちらに気づき目をぱっと嬉しそうに開いた。


「まあ、アリシアちゃん! 久しぶり!」


 心の底から喜んでいるのが伝わるような笑みとともに、女性はアリシアの名前を呼んだ。

 アリシアは一瞬驚いたような顔をしていたけど、すぐに微笑を浮かべる。


「母さん。久しぶり」


 ……義母さん。

 アリシアの言葉で、すぐに目の前の女性が何者なのかを理解する。


 アリシアの実の母はすでに亡くなっているそうだ。

 確かに、目の前にいる人は綺麗な人ではあったがアリシアとはずいぶんと雰囲気が違った。


 義母さんはアリシアへと近づくと、ぎゅっと軽く抱きしめその背中を撫でていた。

 アリシアもまた、義母さんの背中に手を回し穏やかな表情で抱きしめ返している。


 二人の関係は悪くなさそうに見えるな。

 アリシアが義母さんから離れると、義母さんの視線はこちらへと向いた。


 その両目はそれはもう子どものような無邪気さだ。

 きらきらと輝く双眸を揺らすようにして、義母さんが一歩踏み込んできた。


「あなたがもしかしてアリシアちゃんの愛しのフェイクちゃん?」

「い、一応たぶん、愛しかどうかは分かりませんがそのフェイク……です」


 こんな言い方をされたら、こう答えるしかない。

 

「ええ、愛しのフェイクちゃんで合ってるわよー。ね、アリシア?」

「か、母さん! 変な言い方しないで!」


 アリシアが顔を赤くしながら声を荒らげて返事をする。

 しかし、義母さんはそんなこと意にも介さず、口元に手を当ててからかうように微笑んでいる。


「え、でも手紙で婚約者ができたとか。婚約者を紹介するとか、いつもフェイクちゃんの話題ばっかりだったじゃない。これまで、そんなことなかったからよっぽど好きなのかと思ったんだけど……違った? もしかして、本当は嫌いだけど仕方なくなの?」

「そ、それは……べ、別に嫌いとかじゃないけど……」

「つまり、大好きってことよね?」


 そうはならないのでは、と思っていたがアリシアは真っ赤な顔で声を上げた。


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