第12話 モルガン視点
オレはモルガンだ。この鍛冶課の課長を務める。
オレたちは、久しぶりに朝から鍛冶課の事務室に集まり、緊急での会議を開いていた。
正面にいたセイターは慌てた様子でこちらをちらちらと見てくる。その怯えた子どものような情けない態度に、オレは小さく息を吐いた。
彼は昔からそういった部分がある。もっとどっしりと構えて居なければ下の人間に示しがつかないとは何度も言っているのだがな。
「ど、どうします? 新たに雑用係を募集しますか?」
雑用係。それが、オレたちがフェイクにつけた役職だ。
表向きは宮廷鍛冶師であるが、我々は雑用係と呼んでいる。
そのため、給料も我々とは雲泥の差だ。元々、役職の差はあれど、基本的な給料でさえ、我々の足元にも及ばない。
その僅かに浮いた金を使って、オレたちは月に一度盛大な飲み会を開いている。もちろん、あの無能は省いてな。
「雑用係の募集? それは必要ありませんね」
セイターの言葉に、ライトが続けた。
レトフも同じ様子だ。
……オレも彼らの意見に同意だった。その理由は簡単だ。
「セイター、アリシア様……いや、彼女の家であるバーナスト家がどのような家か、知っているか?」
「い、いえ……公爵様として有名でして、今現在婚約者を探していること以外は」
「ふん、きちんと知識を持っておけ。バーナスト家は元をたどれば鍛冶の家だ。それこそ、フェイクの腕を見れば誰でも彼を雇おうなどとは思わないだろう」
フェイクには大した鍛冶能力はないからな。彼に何度か作らせたことがあったが、小槌を握ることも出来ず気絶したことさえあったからな。
「な、なるほど……つまり、フェイクはいずれバーナスト家をクビになる、と?」
「ああ、そうだ。そうなれば、再びアリシア様の婿探しも再開となる。そうなれば、この国一番の鍛冶師の元に来るだろう?」
オレはひそかにアリシア様の婿を狙っていた。オレは今年27歳。アリシア様は17歳だったはずだ。
貴族の結婚ならばこのくらいの年齢差は問題ない。もっとおっさんが、もっと若い子を狙っていることさえもあったのだからな。
「あとは、どのくらいでフェイクが追放されるかですな」
「持って一週間、ということだろうな。行く当てを失ったやつは必ずここに戻ってくるはずだ」
「そうしたら、一週間分。そして来週の分の鍛強も奴にやらせましょうか」
「それは名案だな」
レトフの言葉に、オレは笑みを返した。
こうして仕事に穴を開け、さぼっているのだから当然の報いだな!
オレはセイターを見る。
「セイター、騎士には事前に説明をしておけ。重要な仕事が入ったため、すぐには出来ないと。ひとまずは控えの剣を使わせるんだ」
「かしこまりました!」
確か二週間分程の予備はあったはずなので、問題はないだろう。
二週間もあれば、フェイクが無能を晒す期間としては十分だ。
オレたちは顔を合わせ、それから誰からともなく笑いだす。
「奴が自分の才能に気付くのは時間の問題だろうな!」
「そうすれば、また雑用係として可愛がってやろう!」
「ああ、そうだな。これまで以上に仕事を頑張ってもらおうじゃないか!」
オレたちはくつくつと笑いあった。
溜まっていく仕事たちを、オレたちはあえてやらない。
すべては、あの無能に押しつけるための罰を用意してやるんだ。
次回から主人公視点に戻ります! 鍛冶開始です!
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