第49話
「フェイクさんのおかげですよ!」
「俺の?」
「ええ! ここにある剣たち、皆フェイクさんの剣ですからね! 周りの冒険者たちからは羨望の目ですよ! 特に僕とウェザーは! なんたって、フェイク様のオーダーメイド、一号二号ですから!」
……なるほど。それで自慢げにしていたのか。
「そうか。気をつけてな」
「はい、もちろんです! それに、僕たちもホーンドラゴンの戦いに参加していました! 凄かったですね、フェイクさん!」
「……いや、俺は武器を届けに行っただけだし」
「ホーンドラゴンに攻撃していたじゃないですか! もう、僕がみんなに伝えておきましたから!」
「原因おまえか」
若干過剰ともとれる羨望を受けていたのはイヴァスが原因だったようだ。
じっと睨むが、イヴァスはまったく気にしていない。
「それじゃあ、忙しいと思いますのでこれで! 僕たち、そろそろランクも上がりそうですからまた新しくオーダーメイドするかもしれません! その時はよろしくお願いします!」
「……ああ、了解。ただ、しばらく予約がいっぱいだから対応は遅れちゃうかもしれないけど、ごめんな?」
「そ、そうですかっ。でも、まだすぐじゃないから大丈夫です! それじゃあ!」
元気よく手を振ってイヴァスたちは去っていった。
「みんな、相変わらず」
「そうだな」
でも、貴族と分かっても。
英雄だなんだともてはやされたとしても。
イヴァスは普通に接してくれる。
俺からすれば、それは嬉しかった。何より、彼の無邪気な笑顔には元気づけられるな。
イヴァスたちと入れ替わるように、女性が歩いてきた。
両手には肉のささった串を持っている彼女は、ベルティだ。
「やほー、フェイク様、アリシア様」
「ベルティ、どうしたの?」
アリシアが首を傾げると、彼女は串を一つ口に運んだ。
「お別れの挨拶って感じね」
「……そっか。もう仕事終わっちゃったもんね」
「そうなのよ。もうだいたいのお店は周り終わっちゃったし、寂しいものだわ」
「そっちが仕事じゃない。ホーンドラゴン討伐のこと」
「そうだったわね。私、その依頼で来ていたんだったわね」
ぺろっと舌を出して笑ったベルティは、串を一つ口にくわえてから、右手に剣を持った。
俺の打った、エリアルーラーだ。
「フェイク。本当に凄い剣を作ってくれてありがとう。まるで長年使っているかのように手に馴染むわ」
「……それならよかった。その剣はかなりのものだからエンチャントも長期的に持つはずだ」
「ええ、そうみたいね。ていうか、ある程度なら自己修復してくれるみたいだし、本当凄いわねこの子」
……そうなんだよな。エスレア魔鉄製の剣だからか、あるいはエリアルーラーだからなのかは分からないが、ちょっとした損傷なら自己修復できるみたいなんだよな。
「ベルティは次どこに行くの?」
「私は……そうね。一度王都に戻って、この剣を他のSランクの子に自慢して……優越感に浸ってみるわ」
「あんまり堂々と言えることじゃない」
「まあ、また何か依頼来るでしょ。たぶん、そのうちまた会うときもあるはずだし、忘れないでね?」
「……うん」
「それと、結婚式もね。ちゃんと呼んでね?」
「……分かってる」
アリシアが少し照れながら頷いた。
……まあ、俺も同じような心境だ。
ベルティは小さく手を振ってから、店を出ていく。
少し寂しいけど、彼女には彼女の人生がある。
……俺も頑張らないとな。
「さて、そろそろ仕事を始めるかな」
「フェイク」
アリシアが俺の名前を呼ぶ。
俺の手を、彼女の手がつつむ。柔らかさと温もり。そして安心感。
「頑張ってね」
「……ああ」
アリシアの笑顔に、一番の元気をもらい、俺は工房へと向かって仕事を始めた。
ホーンドラゴン討伐から数日が過ぎ。
領内も元の日常に戻ったところで、俺はゴーラル様に呼ばれた。
僅かな緊張とともに彼の部屋へと入室すると、そこにはいつもの真剣な表情を浮かべたままのゴーラル様がいた。
ホーンドラゴンという障害を取り除いたとはいえ、浮かれた様子はどこにもない。
それが、領主としての相応しい態度なのかもしれない。
彼の前まで歩き、足を止めたところで、ゆっくりと口を開いた。
「ここ数日、色々とオレの都合で動いてもらっていたが……問題はないか?」
「はい。大丈夫です」
多少の変化はあったが、店も元通りの営業を行えている。
ゴーラル様の心配を取り除けたようで、彼は満足げに頷いた。
「それなら良かった。……それで、少し相談したいんだが」
ゴーラル様は大きく表情を変える人ではないけど、それでも僅かに申し訳なさそうな色を含んでいるのが分かった。
「なんでしょうか? 俺で良ければ、何でもしますよ」
にこやかに微笑み、ゴーラル様が口にしやすいような雰囲気づくりに努める。




