表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宮廷鍛冶師の幸せな日常 ~ブラックな職場を追放されたが、隣国で公爵令嬢に溺愛されながらホワイトな生活送ります~  作者: 木嶋隆太
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

107/202

第46話



「そうじゃな」

「アリシアが持ってきてくれた手記のおかげだ。誰かに教えてもらって、それで鍛冶を成功させられただけだ」


 ベストルの求める鍛冶師と、俺は違う。

 彼は俺にヒントを教えてはくれなかった。だが、俺は別の場所からヒントを得て、それによって鍛冶を完成させた。


「そうかもしれないの。だが、助けてくれる人がいる。それを含めて才能じゃ」


 ベストル。

 彼はふっと儚く笑い、それから天井を見た。


「わしは自力ですべてを片付けてきたんじゃ。周りからはよく孤独の天才といわれたものじゃ。こんな性格なことも誰も知らぬままにの。わし、ただの人見知りだっただけなんじゃよ」


 からからと笑うベストル。……そういうことだったんだな。

 噂に尾ひれがつきやすいものだから、変な風に伝わってしまったんだと思っていた。


「おぬしはわしとは違う。周りを巻き込み、それを力に変えられる」

「……周りにいる人たちが、優しいだけだ」

「そうかもしれぬな。おぬしは伝説の鍛冶師、ベストルにはなれないじゃろう。わしとはまったくタイプが違うからの」


 ベストルはこちらをじっと見てきた。真剣なまなざしにわずかに優しさが混じっていた。


「じゃが、伝説の鍛冶師、フェイクにはなれるかもしれんの」

「……ベストル」

「あの店を、大事にするんじゃよ」

「……ああ、ありがとうベストル」


 答えると、ベストルは微笑み、ふっとその体が消えた。

 わずかな寂しさがあったが、今はこの剣をベルティに届けるのが先だ。


 鍛冶工房を出た俺は、この剣を届けるためにベルティを探しに向かった。

 屋敷へと到着したとき、何やら騒がしいことに気づいた。


 いつもと雰囲気がまるで違う。一体何があったのだろうか?

 疑問に思っていると、こちらへアリシアがやってきた。


「フェイク……どうしたの?」


 不安そうにこちらを見てきたアリシア。必死に何かを隠そうとしているようにも見える。


「……剣が、出来上がったんだ」

「エスレア魔鉄の!?」

「ああ。だから、ベルティに届けたいと思ってな」


 俺が背中に背負っていた剣をアリシアに見せると、彼女はほっとしたように息を吐いた。


「に、西側にホーンドラゴンが迫ってきているの! 今、冒険者や兵士たちが向かって戦ってる。お父さんが総指揮官で!」

「なんだって!? ど、どうしてもっと早く言わなかったんだ!?」

「……みんな、フェイクに余計な負担をかけたくなかったって。お父さんも、ベルティが黙ってくれるのなら……って」

「西に行けばいいんだな?」

「えっ!? そ、そうだけどフェイク一人で行くの!?」

「ああ! 肉体をエンチャントで強化して、全力で走れば……たぶん、すぐに到着できるはずだ!」


 俺は背中の剣を握りしめ、

 次の瞬間、体内へと魔力が逆流する。

 剣の柄から魔力が体へ流れ込んでいる。

 恐らくだが、俺の魔力を吸収し、それを強化して俺の肉体へと返してくれている。

 一瞬、異物を入れられたかのような嫌悪感に襲われたが、次の瞬間、肉体が軽くなる。


「ありがとな……! 今すぐ向かおう!」


 俺は剣の柄を握りしめ、それから軽くなった体で走り出した。




 体に手を当て、エンチャントで肉体を強化した俺は、剣の強化も合わさって街を駆け抜ける。

 予定以上に早く走れた。

 西門へはどんどん近づいていく。

 人がまったくいない夜の街、不気味だ。


 皆、避難をしているようだ。

 西門に到着すると、こちらに気づいた兵士が驚いたような声をあげる。


「ふぇフェイク様!?」

「通してくれ! 剣を届けに来たんだ!」

「わ、分かりました……! ですが、外にはたくさんの魔物がいます!」


 僅かに開かれた門から、外の状況は伺えた。

 外には魔石がばらまかれ、夜だというのに異常に明るい。


 魔物に比べて人間は夜目が効かない。

 視覚的な差をなくすために、明かりとして使われる魔石をばらまいているようだ。

 そのため、戦場の様子は容易に見ることができた。


 酷い状況だ。

 人があちこちで倒れている。死ぬ前に前線から離れている人たちばかりだが、傷はかなり目立つ。

 怪我人以上に、魔物の死体があることだけはせめてもの救いなのかもしれない。


 ……もっと早く剣を作れていれば――。

 いや、後悔するのはあとだ。


「大丈夫だ。俺は剣を届けるだけだ。……行ってくる!」


 多少魔物との戦闘経験だってある。

 ホーンドラゴン以外に、そこまで強い魔物はいなそうだ。

 数が多いだけで、恐れる必要はない。それに、俺がここで手をこまねいている間に、もっと多くの死者が出てしまう。


 門の外へと駆け出し、俺は剣の柄を握る。

 頼む。

 ベルティに届けるまでは、力を貸してくれよ!

 俺は背中に握った剣を両手で持つ。

 ベルティは片手で振れるのかもしれないが、俺には少し重く感じるからだ。


「ガアア!」


 一体のウルフが飛びかかってきた。

 それを俺は……剣に教えてもらった。

 ……こいつは、本当に優秀な子だ。


 接近してきたウルフに合わせ、俺は剣を振りぬいた。

 え?

 ウルフの体はあっさりと両断される。

 それだけじゃない。


 一撃は、空間という概念を排除した。

 その後ろにいたウルフさえも斬り裂いた。

 ……なんつー切れ味だよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 五右衛門の斬鉄剣プレイが出来るな(目反らし
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ