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宮廷鍛冶師の幸せな日常 ~ブラックな職場を追放されたが、隣国で公爵令嬢に溺愛されながらホワイトな生活送ります~  作者: 木嶋隆太
第二章

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第40話


「……無理、するなよ」

「それはこっちのセリフ。フェイクも、頑張りすぎないでね」

「……ああ」


 もう、前の時のようにアリシアを心配させるわけにはいかない。

 こくりと頷いたところで、俺は席を立った。

 夕食を終えても、いつもの就寝時間にはまだ早い。


「それじゃあ、俺はもう少し工房で研究してみるよ」

「分かった。私も早速書庫に行ってみる」

「ああ。でもちゃんと休んでくれよ?」

「フェイクが休むときに、私も休むから。だから、フェイクもちゃんと休んでね」

「……あ、ああ」


 ……そういわれてしまうと、無茶はできないな。

 もう無茶をするつもりはない。

 俺に何かあれば、きっとアリシアは悲しんでしまうから。

 無茶をしない程度に、全力で頑張る。

 俺はやる気を胸に、鍛冶工房へと向かった。




 それから数日が経過した。

 俺は何度もエスレア魔鉄の加工に取り組んでいた。

 ……しかし、一向に満足行く剣は出来なかった。

 根本的にアプローチの仕方が間違っているんだろうと思い、あれこれと試してみた。


 これまでに加工した経験を思い出し、色々と探り探り対応してみたのだが……どうにも上手くいかない。

 一度の加工で、頭が焼ききれそうなほどの疲労に襲われるため、あまり何度も作り直すこともできない。


 休日になったところで、店のことを心配する必要なく取り組めるようになったのはいいのだが……一向に前に進めていない。

 これでは、アリシアや店の手伝いをしてくれているレフィ、カプリたちに申し訳が立たない。


 夕食の時間になり、食事を食べながらも考えることはエスレア魔鉄のことばかりだ。


「フェイク……大丈夫?」

「え? あ、ああ大丈夫だ」


 そうは答えるが、アリシアは心配そうにこちらを見てくる。

 しまった。苦悶の表情が顔に出てしまっていたようだ。

 誤魔化すように笑みを浮かべ、夕食をいただいていく。

 今日はゴーラル様とベルティも一緒にいるのだ。こんな顔をしていては駄目だ。

 特に、ゴーラル様に情けない顔を見せるなんて……みっともないとか思われて婚約者の話も考え直されてしまうかもしれない。


 じっとこちらを見てくるゴーラル様は、それからゆっくりと口を開いた。


「難航しているのか?」


 その質問に一瞬考える。

 正直な気持ちを伝えるか、見栄を張るか。

 ……いや、嘘をついたところでゴーラル様にはきっと看破される。


「……そうですね。思ったよりも加工が難しくて」

「……そう、か」


 ゴーラル様は口を閉ざし、何かを考えるように腕を組んでいた。


「フェイク、あんまり気張らなくていいわよ。リラックス、りらーっくすよ」


 ベルティがふざけた調子で言ってくれるのは、よほど俺が深刻そうな空気を出してしまっていたからだろう。

 いかんな。みんなを心配させてしまっている。

 別に思い詰めて悩んでいるわけではない。


「分かってる。まだ、ホーンドラゴンは大丈夫……なんだよな?」


 それだけが心配だったが、ベルティはぐっと親指を立てた。


「ええ、問題ないわ。だから、フェイクは鍛冶に集中してくれていいわよ」

「……ああ、ありがとう」


 とはいえ、魔物は気分屋だ。のんびり作業するわけにもいかない。

 とりあえず、夕食の後にも工房にこもって作業だな。

 手探りではあるが、手を動かさないことには始まらないんだ。


 夕食を終え、席を立つとアリシアがこちらへとやってきた。

 不安そうな顔で彼女は俺の手を握ってきた。


「無理しすぎないでね。また、倒れたら……嫌だから」

「……それは心配しないでくれ。無理はしてない。あの時は嫌だった。けど、今は心地よい疲労感なんだ」


 これは嘘偽りない。

 それに、今はきちんと休んでいるしな。


「フェイク……」

「これを完成できれば、俺の腕は一段上のレベルに上がると思うんだ。色々試行錯誤しながら鍛冶に取り組めている今の時間は……純粋に楽しくってさ。だから、心配はしないでくれ」


 自分の気持ちを素直に伝えると、アリシアは静かに頷いた。


「うん、分かった。信じてるから。私にもできることがあったら言ってね」

「ああ。その時は頼むよ」


 もう十分だ。

 アリシアからはたくさんの元気をもらっている。

 彼女がいるからこそ、彼女のためにも最高の剣を作りたいと思っている。

 とにかく、今はエスレア魔鉄の加工だ。

 

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