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宮廷鍛冶師の幸せな日常 ~ブラックな職場を追放されたが、隣国で公爵令嬢に溺愛されながらホワイトな生活送ります~  作者: 木嶋隆太
第二章

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第39話


 エイレア魔鉄とエスレア魔鉄が反発してしまい、まったくといっていいほどエスレア魔鉄の利点を引き出せていない。

 剣を冷やし、固めたことでエスレア魔鉄も本来の魔鉄としての力は戻っている。

 しかし、それは剣としてではなく魔鉄としてだ。剣への加工に、完全に失敗してしまっている。


 実質、エスレア魔鉄が混じっただけで、エイレア魔鉄で作った剣のようなものだ。

 そして、不自然にエスレア魔鉄が混ざり、その魔力がエイレア魔鉄に干渉してしまっている。

 こんな剣を戦闘で使っていれば、そのうち砕けちるだろう。

 

 これならば、エスレア魔鉄を排除したほうがマシだ。

 ただ、エイレア魔鉄のみで作った剣では、足りないだろう。


 それでは、ダメだ。

 今の剣ではホーンドラゴンの装甲を破ることができないから、俺にエスレア魔鉄の加工依頼が来ているんだ。


「これはまた造りなおす必要があるな」


 もう一度最初から溶かしなおさなければならない。

 しかし、前回と同じようにやっても意味はない。

 何か別の視点からアプローチする必要がある。

 その方法が……思いつかないんだよな。


「苦戦しているようじゃのぉ」

「……びっくりした。ベストル、ここにも来れるのか?」

「わしは鍛冶工房の精霊みたいなものじゃ。この街の鍛冶工房ならすべて移動できるんじゃよ」


 なんて迷惑な悪霊なんだ……。

 でも、ちょうどよかった。


「ベストルはエスレア魔鉄の加工をしたことはあるのか?」

「もちろんじゃよ」

「そ、それなら……何かコツとかはないか?」


 ベストルに問いかけると、彼は腕を組んだ。

 ……もしも、これで何かきっかけでもつかめれば。

 期待するように彼の口元を眺めていたが、ベストルは首を横に振った。


「わしは、基本的に鍛冶については教えない。弟子には見て覚えさせるんじゃよ」

「……俺の義父と同じだな」

「ははは、そういうものじゃ。しいてあげるなら、前も言った通りじゃ。もっと魔鉄を観察するんじゃな」


 魔鉄を観察、か。

 ……正直、今だってかなり見ているんだ。

 これ以上何をどう見ればいいんだ?


 分からない。でも……とりあえず、色々とやってみるしかない。

 ただ、今日はもう時間的にも遅い。

 また明日だな。





「フェイク。どうだった?」


 夕食の時間になり、アリシアが問いかけてきた。

 俺の魔鉄の加工についてだろう。

 それにしても、アリシアの顔を見るのはずいぶんと久しぶりだ。

 そんな彼女に、良い返事ができないのは少し残念だ。


「……いや、まだしばらく時間がかかりそうだ。店の方はどうだ?」


 代わりに、俺も問いかけた。

 今日はアリシアに店のお願いをしていたからだ。

 店での販売に関してはアリシアだけでも問題はない。レフィや兵士たちも手伝ってくれているし、大変なら店は一時休業にしても良いとも話している。

 ただ、アリシアはあくまで商品の販売しか行えない。

 商品の追加は、俺の仕事なのだが……今はできない。

 まだ予備はある。

 だが、エスレア魔鉄の加工がいつ終わるか分からないため、長期的に店の経営は難しい。


「特に問題はなかったよ」


 アリシアの笑顔に、俺はほっと胸を撫でおろす。

 兵士たちが護衛にいてくれるのは分かっているけど、やっぱり心配はある。


「そうか。売れ行きは……どうだ?」

「そこそこ。在庫を確認してみたら、今のペースなら来週いっぱいまでは営業できそう」

 

 それなら、何とかなる……か?

 休日は店を開けないため、おおよそ10日ほどの猶予がある。

 この期間になんとしても、エスレア魔鉄の加工を終える。

 ホーンドラゴンだって、いつ街に下りてくるか分からない。

 なるべく、急いで作業をしないとな。


「……そうか。とりあえず、よく来てくれるお客さんには事情を説明しておいてくれ。特にイヴァスとかな」

「うん。今日早速来て話しておいたよ」

「そうか」

「『凄いです! 楽しみに待っていますね!』、だって」


 イヴァスの真似をするようにアリシアが言ってみせる。

 わりと似ていて、それにくすりと笑ってしまう。


「期待に応えられるように頑張らないとな。そうだ。もしもエンチャントの依頼があった場合は預かっておいてくれ。そのくらいの対応はできるからな」


 エンチャントならそう時間はかからない。

 さすがに、破損した武器を使わせるわけにはいかないので、そのくらいの仕事ならいつでも引き受けるつもりだ。


「了解。こっちはうまくやっておくから、フェイクはエスレア魔鉄に集中してね」

「……ああ」


 ここまでアリシアに協力してもらえているんだ。頑張らないとな。

 ただ、いかんせん加工の糸口も見つかっていない。

 明日はどうやって対応していこうか……。

 そんなことを考えているとアリシアは顎に手を当て、考えるような仕草を見せる。


「どうしたんだ?」

「少し、気になることがあって……確か、初代当主は昔エスレア魔鉄の武器を作ったことがあったと思う」

「……まあ、そうだよな」


 驚きはない。当時の国王に認められる腕だ。

 エスレア魔鉄くらい加工したことはあるだろう。


「……探せば、その時の手記とかが書庫にあるかも」

「……あ、あの場所にか?」


 以前アリシアと一緒に勉強した時のことを思い出す。

 あそこにはたくさんの本が保管されていて、どれがどこにあるかもわかっていないと話していた。

 あそこから見つけ出すのは至難の業だろう。

 手記に、もしかしたらエスレア魔鉄についてのことも書かれているかもしれない。

 それは非常に参考になるのだが……探す時間の方がかかる可能性もある。


「うん。私も時間があるときに探してみる」

「……アリシア。でも、大丈夫か?」

「任せて。フェイクの力になりたい、から」


 恥ずかしそうにしながらも、はっきりとした言葉に、俺はぎゅっと胸が締め付けられるような嬉しさを感じた。

 こみあげてくる感情を抑えるように、俺は奥歯を噛んでから頷いた。


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