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メルレールの英雄-クオン編-前編  作者: 朱漓 翼
2部 二刀流の魔剣士編
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継がれた聖弓3

 間に割って入ったカルヴィブがシュレを守りながら戦う。アイカとエシェルも協力しながら枝を切り落とそうとしている。


 戦えないのは自分だけ。本当に戦えないのか。そんなことを考えていたそのとき、突然目の前の風景が途切れた。


『聞こえますか?』


 真っ白な空間に放り込まれたシュレ。ここはどこかと見渡せば、一人の女性が浮いていた。


「セイレーン……」


 いや、それよりも気になることがある。グレンの魔力装置によって色々なことを見ていた彼だから、目の前にいる女性が気になってしまう。


「エリル……」


 どちらだろうかと、そこで言葉に詰まる。


『わたくしは、シリン。シリン・アルヴァースですわ』


 微笑む女性は見知らぬ名を名乗った。名前は知らないが、その性は英雄のもの。それだけはわかる。


『この弓に宿った思念のようなものですわ』


「弓…」


 差し出されたそれは、シュレから見てもとてつもない力を秘めているとわかった。秘めているどころではない。


「まさか……」


 これは、というようにシュレはシリンを見る。


 どことなくグレンの持つ聖剣と似たものを感じ取った。つまり同じような武器ということではないのか。


『察しがいいですわね。さすが、陛下とご一緒にいる方ですわ』


 陛下と呼ぶ姿に、彼女がこれから話すはずだった過去の出来事、それに関わるのだということは理解できた。


 こうなるなら聞いておけばよかったと思ったほどだ。時間がなかったのだから仕方ないことなのだが。


『これは、わたくしが使っていた聖弓。大切な者のために戦いたいと願って手にした力ですわ』


 だからあなたに渡そうと思った、とシリンに言われてしまえば、シュレも笑うしかない。


 大切な者、それがフィフィリスを示すのかグレンを示すのか、どちらなのだろうかと思ってしまったからだ。


『どちらも大切なのでしょ。でしたら、どちらでもいいじゃないですか』


「そうだな」


 その通りだと思った。どちらでも変わることはない。


「その力、もらいたい」


 それがどういう意味になるのか、そんなことはあとで考えればいいことだ。今は目の前の戦いをどうするかの方が問題だった。


 弓であれば使いこなすことができる。たとえ聖弓であっても、弓であれば扱ってみせるとシュレは思っていた。


「俺は、まだ退場できないんでな」


 ここから始まるなにか。その戦場から離れるつもりなど、彼には欠片もない。


 目の前に力があるなら、最後まで戦うため手に入れる。


『もちろんですわ。ただし、身体に負担がかかるということを忘れないでくださいな』


「わかってる」


 グレンとの会話によって聖剣を使うのは楽なことではない、ということだけは理解しているつもりだ。ならば聖弓も同じだろう。


 ぶっつけ本番で使うべきものではないこともわかっている。それでも今はこれが必要なのだ。


『陛下にお伝えください。わたくし達も戦いますと。必要なときに、他の力も動くことでしょう』


(他の力……)


 それは、話の続きを聞けばわかることなのだろうか。ならば今は聞く必要もないだろう。すぐにグレンが教えてくれる。


 この力を含めて、すべてのことを。


 急激に視界が戻る。周囲を確認し、それほど時間は経っていなかったと知れば、よかったと安堵した。さすがに長時間も負担をかけさせるわけにはいかない。


(これが聖弓か……)


 ずしりとした弓。力の塊だということだけは聞いていたので、この重みはすべて力のせいだということ。


(一発が限界だな…)


 ならば一発で決めてやろう。できるはずだと弓を構える。


「シュレ……」


 力を察してか驚いたように誰もが見る中、グレンだけが笑みを浮かべた。


 疑問も色々あるだろうが、まずはここを任せるという意味のようだ。それがわかるからこそ、失敗はできないなと思う。


 この一撃でグレンが仕掛けるつもりだということがわかったから。


「聖弓よ……」


 小さく呟けば、弓が眩い輝きを放ちだす。力が解放されたのだ。


「ソレ…女神ノ力……」


「いいや、違うな。これは希望の光だ!」


 反応した魔物を見て、グレンが牽制するように斬りかかる。シュレへ攻撃させないようにしたのだ。


 高められていく聖弓の力。初めて使うことから、どれほどの力が必要なのかもわからず、限界まで高めたのだ。


 身体がここまでだと訴えてくるのを感じ、今度は狙いを定める。これ以上は支えきれなくなると。


(これをキープするのも大変だな)


 だがやるしかない。この力ならあの魔物に届くのは間違いがないのだから。


(大丈夫だ。必ずくる)


 その瞬間はやってくるとわかっているからこそ、信じて待つのだ。少なくとも、カルヴィブとエシェルはそうしてくれると言いきれた。


「今だ!」


 目の前を二人が交差するように動いた瞬間、一直線に魔物と枝が収まった。


 そこを聖弓から放たれた矢が、物凄い勢いで突き進む。空気を裂く音と枝を吹き飛ばす音。すぐさま矢は大木に突き刺さり、動きが止まった。


「クッ」


 放った瞬間、身体から急激に力が抜けていく。


 崩れ落ちそうになった身体を支えてくれたのは、急ぎ戻ってきたカルヴィブだった。それがなければ倒れていただろう。


「とんでもないことをしてくれるな、お前は」


 跡形もなく消え去った魔物に、グレンは危険がないことを確認してから近づいてくる。


「どうなってるのか知りたいが、とりあえず休ませた方がいいのか……」


 きついだろと言われれば、シュレは返事をする余裕もないようだ。


 当然だなとグレンが苦笑いを浮かべる。初めてであれだけの力を使えば、身体にかかる負担は相当なもの。


 今現在、起きているだけでもすごいと思う。本来なら間違いなく眠りに入るはずだ。


「アイカに支度はさせています」


 終わったあとは移動のつもりだっただけに、しっかりとした寝床は用意していなかったのだ。


 けれど、シュレがこの状態になったのを見て移動はなくなるだろうと、エシェルが頼んでいた。


「さすがだ。それじゃ、ここで休んでから移動だな」


 想定外なことだが、聖剣の力を使った後なだけにいいかとも思う。休息できるならしておいた方がいいと。


 確認したいこともあるため、それが終わった頃には朝になるだろう。




 支度が整うと、シュレだけではなくアイカとエシェルも休ませた。


 カルヴィブの判断で休ませたのだ。二人はまだ先があるからと。グレンについていかない自分とは違うから休めと言って。


「さて、シュレが使った力はなんだったのかな」


「それが聞きたかったわけか」


 わざと遠ざけたことはわかっていたが、理由がこれとわかれば物好きな奴と思う。


「私はついていけないからね」


 行動を共にしている間、聞き出せる情報はすべて聞き出しておこうということのようだ。


 確かに、この先もなにかと頼む可能性があるわけで、話しておいて損はない。


「わかった。その前に、ちょっと確認ごとをさせてくれ。星が出てるうちに済ませたい」


 時計を取り出すと、グレンは妻への連絡を優先した。空が明るくなってしまえば、妻の星視ができなくなってしまう。


「お待ちしてますとも」


 穏やかに笑う姿を見ると、グレンも笑いながら魔力装置を発動させた。妻が起きているか、少しばかり心配になりつつ。


 しばらくは反応がなく、さすがに無理かと思ったときアクアは応答した。


「悪い。寝てたな」


 さすがに遅すぎたことに反省する。朝が早いのを考えれば、変な時間に起こしてしまった。


「んー、星視が必要なんでしょ」


 しかしそこは妻だ。星視が必要だから連絡してきたと察してくれていた。あとでお礼をしなくては、といまさらのように思う。


「あぁ。闇がもうないのかと、光はどうなってるのか。この二点だ」


「ん? 光?」


 闇はわかるが、なぜ光を視るのかとアクアは首を傾げる。


「シリンの使っていた聖弓が引き継がれた。だから、視られるなら頼みたい」


 聖弓と聞いた瞬間、寝起きの眠さが吹き飛んだようにアクアは空を見上げた。これは普通ではない出来事だ。早急に確認する必要がある。


「輝いてる……。光が……」


 すぐに星視をするというと、グレンは結果を待つことにした。妻なら確実に読み解いてくれる。星に現れている部分のすべてを。


 あとは待つだけで、なにかしらの手掛かりは手に入るだろう。






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