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メルレールの英雄-クオン編-前編  作者: 朱漓 翼
2部 二刀流の魔剣士編
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継がれた聖弓

 月明かりに照らされた草原。他の明かりはないその場に、優しい輝きを放つ金色の炎が溢れ出す。


 誰もが目を奪われる炎は、グレンの聖剣から溢れ出す力だ。解き放ったわけではないが、久しぶりに封じの包みから出して溢れてしまったのだろう。


 そして、目の前には見たこともない魔物が姿を現している。


「植物型か……」


 大木のような魔物だが、見た目通りの能力とは限らない。大木のようだから動きが鈍いとも限らない。


(さて、どうするかな)


 まずは様子見だろうかと考えれば、解き放つのはそれからでも遅くないと構える。


 これで終わりではなく、これが始まりなのだ。シオンがいつ戻るかもわからない状態で、力を使いすぎるわけにはいかない。


 少なくとも、戻るまでは眠るわけにいかないのだから。


「サポートは任せる」


 シュレなら自分で判断して動けると思えば、他のメンバーも問題ないだろうと思えた。


 一歩を踏み込んだ。これ以上はあとで考えようと思いながら。


「さすが、グレン殿だ」


 踏み込んでから間合いを詰めるまでの速さを見て、カルヴィブは好戦的な笑みを浮かべる。すっかり戦闘モードのようだ。


 その隣にいたエシェルは細身のレイピアを抜くと、一直線に突っ込む。すでに役割はサポートと決めているようだ。


 弱点を探ることに専念しようとしている。


「剣を折るなよ」


 強度を確認すると、レイピアでは分が悪いかもしれないとグレンは警告した。


「言われるまでもなくわかっています!」


 瞬時に返された言葉は、組んでいたときのエシェルだと苦笑い。戦闘になるとさすがに戻るのだな、と思わずにはいられない。


(この方がやり易いが……)


 それに、と思う。自分の動きを誰よりも理解している。彼女が先に動いてくれたことは、他の二人にとっては助かること。


 おそらく自分の動きを把握してもらうよりも、エシェルを見て動いてもらった方がやり易いだろうと思ったのだ。


 数撃打ち込めば、魔物の堅さが異常だとわかる。これは普通の剣ではどうすることもできないだろう。


 だからといって、自分達がまったく役に立たないわけではない。それはアイカでも理解できた。


「塵も積もれば、という言葉を思いだすね」


 カルヴィブが何度目かの攻撃で傷を与えると、これでようやくかというようにぼやく。


 大剣をもってして、一筋の傷を与えるために十回も攻撃した。聞いていた以上に厄介な魔物なのだとわかれば、あとはグレンに託すしかないと動く。


 手数をかけるぐらいなら、確実にダメージを与えられるグレンをサポートした方がいいとの判断だ。


 それはアイカやエシェルも思っていたことで、視線は自然とグレンへ向けられる。どうすればいいのかと考えているのだ。


 彼のサポートといっても、それすら難題でしかない。巻き込まれを覚悟でやるしかないと思うほどに。


 当然ながら自分達が巻き込むのではなく、巻き込まれるという意味だ。


 手を出さない方がいいのだろうか。一瞬考えたアイカは、おそらくどちらであっても、グレンはなにも言わないだろうと結論付けた。


 彼はすべて一人でやるつもりでいる。だから手を出さなくても問題はない。手を出したからといって、彼の行動を妨げることもないのだろう。


 なんとなくだが思えたのだ。


(なら、あたいがすることは……)


 後悔しない戦いだとアイカは剣を握る。手を出さないなんて、そんなことできるわけがない。したら後悔するとわかっていたから。


「アイカ、右を頼む。真ん中はエシェルがいいだろうからな」


 彼女の考えを察したカルヴィブが指示を出せば、了承の意味で頷く。確かにエシェルが適任だとわかるだけに、任せるのが一番だと思う。


 的確な指示を飛ばしてくれるだろうとわかれば、あとは深く考えることをしなくてもいい。


「ふふっ。しっかりと働いてもらいますよ!」


 ただ、好戦的なエシェルはちょっとだけ苦手だな、とも思ってしまうのだった。


 冷静に状況を判断するグレン。わかったのは、どうやらまだ完全にこちらへ来ていないということ。


 この魔物は、今こちらで形を作り上げている状態なのだ。黒い霧から大木の形をした魔物へと。


(まさか、こんな風に来てたとはな)


 魔物は魔物の姿で来ているわけではない。外から送り込まれてくるなにかが原因なのだと知ることができた。こちらの世界に来た際、なにかを基準に形を作ると。


 これはこれでひとつの収穫だな、とグレンは思う。


「聖剣でもたいしたダメージにならないとは……こちらに完全に来てるわけじゃないからか」


 違う意味で厄介だと思ったが、それならそれで待つのも手かと思ってしまう自分に苦笑いを浮かべる。


「待たなくてよくなったか」


 ミシミシと音を立てて動き出した大木に、ニヤリと笑って仕切り直す。今までのは準備運動だったのだと思えば、たいした問題ではない。


 力を解き放ったわけでもないのだから。





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