グレンの昔話3
「二人が騎士やってた頃だな。俺は孤児院にいた頃知り合ったハーフエルフを訪ねた。傭兵をやるためだ」
ハーフエルフの里にいたなら、おそらく名前ぐらいは知っているはずだと言う。
ヘルヴェスの死神と呼ばれた傭兵だったと言えば、シュレも知っていると頷く。
「そうか、そんなのに学んだわけか」
どうりで強いはずだと納得。傭兵の歴史として、ヘルヴェスの死神と二刀流の魔剣士ぐらいは聞かされていたのだ。
『ちなみにな、こいつが二刀流の魔剣士だ』
「……そうきたか」
同一人物だったのかと唸る。さすがにそこまでは伝わっていない。
「一人立ちしてからは、ウォルドで生活しながら依頼を受けてた。あの頃は個人で依頼をとってたし、俺の目的は生きていることを伝えるための傭兵だったからな」
仕事量にこだわりはなかった。とにかく名前が売れればそれでよかったのだ。
そうすることで、母親のもとへ自分の存在を知らせたかっただけだから。
父親にはいい感情はなかったし、王位にも興味はない。母親が気になっていたから、北から離れられなかっただけのこと。
そんな日々でシオン達と関わることになってしまったのだ。
「お前も聴けばわかるが、アクアの歌声は本当に不思議でな。気付いたときにはなんでも話していいと思ってた」
じゃなきゃ話したりはしなかったかもしれないと。
あの当時はとにかくなにも喋らない。そう動いていたこともあって、人と話すのも苦手な状態だったのだ。
「あれ、その結果か」
呆れたようにシュレが言うから、たぶんと苦笑いを浮かべる。
「まぁ、こうなった影響は他にもあると思う。俺もよくわからないが」
なにせ、喋り方がこうではなかったのだから。もっと間を開けるような喋り方だったと言われれば、想像もつかない。
挙げ句、周りを気にしているような余裕もないから、無関心で無表情になってしまった。変化はアクアとの関係があったからだ。
「あの歌声に救われたな」
ぼそりと呟くグレンを見れば、聴いてみたいと心の底から思う。
目の前にいる英雄王は強い意思があると思っていた。決めたことは絶対に曲げないだろう意思が。
話さないと決めたなら、絶対に話すことはしない。それは今も昔も変わらない部分だとわかる。
(そんなこいつを簡単に変えてしまう歌姫か…)
どれだけ素晴らしい歌声なのか興味が沸く。
「アクアの過去は、さすがに言わないが」
ここで知ったのだと言う。それが決め手だったと言われれば、彼女に惚れたことだと理解する。
「このあとアクアが姉と再会して、姉を神殿へ送り届けるときだったな。三つ目の封印が破壊されたのは」
そして、思ってもみない事実を知った。七英雄の真実と最後の封印について。
あの衝撃は今でも忘れない。お陰で、それ以降はなにがあっても動じなくはなったと笑うから、彼でも動じるのかと思った。
昔の姿を見ていても、動じるようなタイプには見えないのだ。無表情だからかもしれないが。
シュレが見ても衝撃的な風景が映し出される。そう、初めて見るがそれが誰なのかはすぐさまわかったのだ。
「まさか、魔王の封印を壊していたのは……」
『俺達だ…』
真剣な表情で言うヴェガに、こちらもなにか裏があるのだと見る。おそらく、このときはグレンも知らなかったなにかだと。
「すべてが終わった二十年後、俺はこのときのことを知った。リオンはシオンのために動いていたんだ。心を凍らせてな」
どれだけ辛かっただろうか、とグレンは一度だけ視線を伏せた。
彼の中にはフォーラン・シリウスの記憶もある。だからわかることがあったのだ。
二人の絆がどれだけ強いかということが。
「どんな理由があったとしても、これは公開できないだろ。だから伏せられてる」
そうだろうなとシュレも納得。七英雄が魔王を復活させようとしたなど、言えるわけがない。
伏せられるなら伏せておいた方がいいに決まっている。
この部分はどうなっているのかと問いかければ、バルスデ王国は襲撃してきたヘルシス国との戦として歴史に残すだけだと説明する。
これを狙ったわけではないだろうが、リオン・アルヴァースが利用したヘルシス国は都合がよかったのだ。
「この対面のあと、俺達はシオンが七英雄のシオン・アルヴァースだと知った。魔王のこともな」
絵があると言えば、シュレも興味があるようで見てみたいと言う。
「七英雄と関わりがあったセイレーンによって描かれたもので、今は天空城に飾られている」
たぶんすぐに見れるさと笑った。なにせシュレはすべてを知ってしまうのだから。
このまま確実に巻き込む。自分の助っ人としていてもらう気だとグレンは考えていた。
「ついでに歌姫の歌も頼んでおくか」
巻き込まれるお代でいいと笑いながら言うから、ヴェガも声をあげて笑う。
お代としては最高かもしれないと言いながら。
外を見れば星は輝いている。怪しい動きなどどこにもない。
少しばかりホッとしつつ、これは徹夜だなと苦笑いを浮かべる。
「酒が足りないなら、買ってくるか?」
飲むペースが早いと言われれば、無自覚だったのか手にしていたのを置く。昔話でつい飲んでしまっていたのだ。
「気にするな。無意識だ」
これ以上はいらないと言えば、シュレはとりあえず引いた。彼が飲む理由は昔話だとわかっているのだ。
「一回やめるか」
「それも気にするな。別に嫌な記憶ではないしな」
懐かしい記憶だから問題ない。ただ、懐かしいと思う反面で失ったときの悲しみも蘇っただけのこと。
それだけのことなのだ。
「このあとは国奪還だよな」
流れとしてはそれしかないとシュレはグレンを見る。
北の情報に詳しくなくても、それぐらいはわかるというもの。グレンがいて騎士二人がいて、建国した七英雄の仲間がいるのだ。
当然、国を取り戻しにいくだろうと。
「そうだな。取り戻しに行った。ある意味、初めて祖国のために動いた瞬間だったかもな」
傭兵をしていたグレンが、初めて傭兵ではなく王族として動いたことだった。
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