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メルレールの英雄-クオン編-前編  作者: 朱漓 翼
2部 二刀流の魔剣士編
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永遠の魔剣士2

 長居すればエシェルの仕事を妨げてしまう。夕方までどこかで時間を潰そうと街へ向かう。


 傭兵組合の本部があるのはメディス地方のラッテストという街。三千年前には小さいながらに国があったのだが、面影はどこにもない。


 唯一残されているのは、力がすべてという考え方だけであろう。傭兵の街へと変わり果ててもそれだけは消えずに残ったのだ。


(よく、ここまで変わったよな)


 昔を知っているからこそ、グレンはしみじみ思う。


 人間とエルフとハーフエルフ。当たり前のように街を歩く姿には、種族差別など存在しない。まるであの村のようだと思うほどに。


 もちろん、完全になくなったわけでもない。それは仕方ないとも思っている。違いがあれば考え方も違うのだから。


 差別による争いが最低限にできているのだから、これ以上は求めるのは無理だろうとグレンは思っている。遥か昔から続くのだから。


「あれ、ヴィルか」


 のんびりと歩いていれば、見慣れたハーフエルフが向かいから歩いてくる。


 少しばかり薄い金髪が特徴的な青年で、以前グレンが組んでいた一人だ。これから傭兵組合へ向かうところなのだろう。


「久しいな、シュレ」


 傭兵組合では珍しいことに、弓の使い手であるシュレ・エーレルカ。元々、接近戦ができないことから、誰かと組むことで傭兵をしている彼はグレンと組むにはちょうどいいと選ばれた。


 判断力もあることからグレンも助かったのは事実なのだが、その反面、偽名だと気付かれていることが少しばかり問題だったりもする。


「戻ってきてたんだな」


「ついさっきな。また組むことになるだろうから、頼む」


 鋭い視線を感じながら言えば、短くわかったと言って去っていく。


 深く突っ込まれなかったことにホッとしつつ、なにかがあったぐらいは思われたと察する。


 なにがあるかわからない。なにもないことが一番望ましいこと。


 わかっているが、なにかあったときに彼は最適な人材だと思えるからこそ、組む相手として狙っていたのは事実。


(まぁ、いざってときはバラしてもいいかと思ってるしな)


 自分がグレン・フォーランだと言うことは別段問題ではない。信じない者は同じ名前のハーフエルフとしか思わないだろうし、信じたとしてどう動くかは相手側の問題だ。自分が不利になるわけではない。


 名前を聞いただけで、不死だと思う者などそういないと思っていた。不死など非現実的なこと、信じたりはしないだろう。


(とはいえ、シュレは例外だな。あれは、俺がそうだと思ってるみたいだったし)


 変わったハーフエルフだと思えば、時間を潰すために歩き出す。ここには数多の傭兵がいるのだから、情報も聞けるだろうと。


 とりあえず、今は考えなくてもいいだろうとグレンは思うことに。


 なにもなければ、傭兵を辞めてしばらく離れればいいことだ。それだけでこの時代での関わりはすべて切ることができるのだから。


(北の情報でも探るか)


 生まれ育った地であるだけに、定期的に情報は得るようにしていた。なにかあっても傾くような国ではないし、そのような脅威もない。


 わかっているが、気になってしまうのは仕方ないことだ。これだけは何年経っても変わらないだろう。


「情報屋が裏道にあったか……」


 酒場などでも情報は手に入るのだが、この時間から開いている店などない。


 それに酒を頼まないと情報も得られないのがほとんどだ。基本的には酒を飲まないグレンとしては、最終手段で使う場所だった。


 時折ごろつきに絡まれる裏道だが、彼なら問題もない。軽く運動するような感覚でグレンは目的地へ向かうのだった。


 慣れたように向かった情報屋。今日はごろつきがいなかったな、などと思いながら行けば、少し前まで世話になっていたハーフエルフが一人。


「ウドル、情報が欲しいんだが」


 ウドル・ノーシス、情報屋としては有名なハーフエルフで、カロルが育てた情報屋でもあった。


「あんたか。どこの情報が欲しいんだい」


 視線だけ向けて確認すれば、ウドルは分厚いノートを取り出す。


「北だ。なにか変わったことはないか」


 かつての仲間が意図的に育て上げた情報屋はどこよりも信頼できる。さすがに自分の正体までは知らないのだが、それもわざとだとグレンは知っていた。


「北か……五十年ぐらい前に女王が即位したな。そこは知ってるか?」


「あぁ、それは知ってる」


 バルスデ王国には、王族が天空城へ行く習わしがある。その関係でいつ新しい王が即位したかぐらいは把握していた。


 それ以降だと言えば、ウドルはノートを捲り始める。


 女王が即位は初めてのこと。色々問題が起きているかもしれないという心配はあったりもした。


「そうだな…女王の側近はシュトラウス家の坊やだな。騎士団も兼任しているみたいだが、あの坊やは情報がない」


 だろうなと苦笑いを浮かべる。シュトラウス家はすべてを知っているのだから、この情報屋も知っているはずなのだ。


 カロルの養子であったクレド・シュトラウスが継いだのだから、情報屋に情報が漏れるような真似は絶対にしないと言い切れた。


「もう一人、面白いのが側近としているな。聖虹騎士団の団長殿だ」


「これは…」


 見せられた資料に、グレンは確かに面白いと思う。まさか、このタイミングでこの名前を見るとは思わない。


「セルティ・シーゼル…かなり強いらしいぞ」


 興味があるだろと言われれば、ニヤリと笑って応える。


 ウドルの言う意味が、強さについてだとわかったからだ。当然ながら、強いと言われれば興味はある。





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