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メルレールの英雄-クオン編-前編  作者: 朱漓 翼
4部 女神の末裔編
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助っ人現る

 外で戦闘が始まった。魔物が現れたのだと、精霊に言われるまでもなく感じ取っていたヴェルト。


 それだけ神経を研ぎ澄ませていたのだ。中に魔物が来る可能性があるのだから、当然と言えば当然のことなのだが、それでもこの距離で察するのだから凄いとシザは見る。


 これだけの能力を持つ者が南にいようとは、思っていなかった。


(正直、シュスト国の護衛騎士程度なら、傭兵組合で抑えられると思っていた。だからこそ、今回向かったのだけど)


 彼を抑えることはできない。正確には、彼と護衛騎士となるトレセス二人はだ。


 敵にならなくてよかったと思ったほど、想定外の実力を持つ。負けることはなかっただろうが、それでも抑え込むのに何人必要か、というレベルだ。


「なに考えてるんだよ」


 背中を見ながら考えていたシザに、ヴェルトが不愉快だというように声をかける。


 気付いたことにまた機嫌がよくなった。


「いい拾い物をしたな、と思っていたところです」


 笑いながら言えば、ヴェルトはさらに機嫌が悪くなる。自分だと気付いたからだ。


「すべて終わったら、うちで働きませんか?」


「働かねぇよ」


 リーシュから離れることはしない。わかりきっていることなのに、なぜ聞くのかと言う。


 意識を逸らすことなくシザを見れば、彼女は笑みを浮かべるだけ。なにを考えているのか読めない。


(不気味だよな)


 頼りになる存在なのは間違いないが、どことなく不気味だと思う。考えていることが読めないからだとはわかっているが、これが敵になっていたらと思えばゾッとする。


「この戦いが終われば、精霊の巫女は不要なのではないか、と思っただけですよ。なら、彼女は自由になるし、うちに来てもらおうかと。即戦力ですからね」


 これだけの戦力、他に取られる前に欲しいと言われてしまえば、トレセスも吹き出す。


「あら、笑っている場合ではないですよ。あなたも欲しいですから」


 どちらも欲しいと言われてしまえば、トレセスは笑って誤魔化した。彼としては、ヴェルトについていくだけなのだ。


 たとえヴェルトが王子でなくなっても、どこまでもついていこうと思っていた。


「うっとおしい奴だ…」


 察したヴェルトがぼやけば、トレセスとシザは笑う。嫌ではないとわかっているからだ。


 素直ではない青年は、意識を逸らすことなく二人を睨みつけた。まるで抗議するかのように。


 のんびりと話をしていられたのは、外から小さな光が飛んでくるまでのこと。なにが起きているのかわからないが、なにかを撒き散らかしているように見える。


「外に現れた魔物は植物型のようです。この光はおそらく、花粉か種のようなもの。どちらであっても浴びていいものではありません」


 植物型の問題は、種を植え付けてくること。基本的には傷口からだが、外からの魔物となればなにが起きるかわからない。


 花粉に関しても痺れならまだいいが、毒なこともある。外の世界独自のものでも撒き散らかされてしまえば、対応できない可能性が高い。


「精霊達には、傭兵達への伝達をお願いしてあります」


「感謝します、精霊の巫女殿」


 今回、精霊達には文字を使うことで伝達をお願いしていた。


 リーシュも精霊達が文字を使えることは知らなかったのだが、トレセスが頼んだところ文字で返してくれた、という話を聞いてお願いしたのだ。


 これで村の中にいる傭兵達へ伝達ができる。情報が遅れることもなければ、伝令を出す必要もないのは助かること。


 精霊からの伝達はすべてリーシュが受ける。精霊契約を交わした二人がいるが、他の精霊達から情報がもらえるわけではない。


 契約した精霊からのみの情報より、全体的に入ってくるリーシュがいいだろうと判断してのこと。外を含め、村の中もすべて把握できる。


 伝令などの指示を出すことができるのも、彼女に任された理由だ。戦闘になれば、後方から冷静に見ていられる彼女が、一番適しているだろうと。


「花粉の正体は魔物です! 村の中に入ってきてます!」


 すぐさま精霊からの情報を伝えれば、シザが傭兵達への伝達を頼むとリーシュへ言う。


 すぐさま同意すると、頼まれたままに伝達をする。散らばっている傭兵は十人。一応二人一組にしているのは、なにが起こるかわからないから。


 個人で仕事ができるほどの傭兵を連れてきているが、外からの魔物となれば未知なる戦い。アシルが組むように指示を出したのだ。


「入り口を担当していた傭兵二人、戦闘を開始します」


 シザへ状況を伝えるように言えば、この場に残っている傭兵三人も戦闘体制をとる。


 入り口を突破されることはない。通常であれば問題などないのだ。


 けれど、今回は通常とは異なる魔物が相手となる。突然村の中へ現れる可能性は、非常に高いと聞かされている傭兵達。


 一ヶ所で戦闘が行われれば、他も起きるだろうことは明らかだった。


「広場付近、魔物が現れたそうです。入り口は突破されていません」


 リーシュの報告に、やはり、と誰もが思う。必ずしも入り口から入ってくるわけではない。


 どのような形で入ってくるかはわからないが、外の魔物がきっかけなら、大元を絶てばすべて落ち着くだろう。そうでなければ、また対策を考えなくてはいけない。


「強さはわかりますか?」


 今は各自耐えられるかが大事。そうでなかった場合、また別のことを考えなくてはいけないのだから。


「対応可能範囲です。長引くとわかりませんが」


 体力的な部分で問題が起きた場合は、どうなっていくか予測できない。どれだけ実力があってもだ。


 傭兵であることから、ある程度までは問題ないだろう。それでも限界はやってくる。


「下から来るぞ!」


 外から強い力を感じたかと思えば、ヴェルトは足元から異変を感じ取った。なにかが地面の中を這っているような感覚だ。


 しばらくすれば、シザや他の傭兵達も異変を感じるようになる。足元でなにかが脈打つ感覚だ。


「来た!」


 誰が叫んだのかわからず、そのまま一斉に跳び上がる。ヴェルトは瞬時にリーシュを抱えるか悩んだが、足元の気配に問題はないと判断した。


 間違っていなかったことを確認し、すぐさま剣を抜く。


「植物型の魔物です。種を傷口に植え付けることができ、花粉などで毒を撒き散らす可能性があります。攻撃には気を付けてください」


 南ではこういった情報も回っていないだろうと、シザが二人へ告げれば了承の意味で頷く。つまり知らなかったということだ。


「魔物の情報はありがたいです。我々は詳しくないので」


「あぁ。なにかあれば、その都度で教えてくれ」


 なにも知らなかったら、考えずに突っ込んでいたかもしれない。この状態でそのような真似をすれば、命取りとなるだろう。







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