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メルレールの英雄-クオン編-前編  作者: 朱漓 翼
4部 女神の末裔編
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メイスへ帰還3

「助かった。俺一人ではどれだけかかったかわからない」


 すべての魔物を蹴散らしたヴェルト達は、入り口を守っていたハーフエルフと握手を交わす。


 一緒に戦っただけに、彼らの間には不思議と仲間意識が沸いたようだ。


「名前を聞いてもいいか?」


「シャルだ。シャル・フィアラント」


 フィアラントと聞いた瞬間、シザの表情が一瞬動く。彼女には知識として、その姓が伝わっていたのだ。


「俺を知っているのか?」


 気付いたシャルが問いかければ、誰もがシザを見る。そうなのかと言うように。


「知っているというか、フィアラントという姓を知識として知っている程度です」


 有名なのか、とヴェルトがアシルを見るのだが、さすがにアシルも知らない。だから知らないと首を振る。


「私は傭兵組合専属の情報屋、シザ・シュトラウスです」


「シュトラウス家の者か。なら、俺に反応するのは納得がいく。俺の祖は、元がバルスデの騎士だからな」


 バルスデの騎士だったと言われれば、ここで全員が納得した。それならシザの家系にも知られているはずだと、理解できたのだ。


 二人の関係性に納得した後は三人が名乗りを上げる。他にも傭兵達はいたのだが、村に宿はない。


「野宿でいいぞ。今回は退けたが、魔物がまだ来るかもしれない。傭兵組合で見張りを受け持とう」


 精霊達も守ってくれているが、先程までのことを考えれば絶対ではないとわかる。数で攻められたら、精霊達でも抑えきれないのだ。


 この一回で終わりという保証もないだけに、引き返すという選択肢はなかった。


「村の責任者にはお会いしたいところですが」


「長老だな」


 確かに、村の外であろうと滞在するなら会わせた方がいいかもしれない。


 どれだけの滞在になるのかわからないが、長引くなら協力も必要だろう。ヴェルトも放置という選択肢はないだけに、向かおうと言った。


「その必要はないわ。今現在は、長老ではなく私がすべてを受け持っているから」


 待機の傭兵達へ声をかけ、中へ行こうとしていた彼らの元へ凛とした女性の声が呼びかける。


 見た先にはエルフの女性。隣にはリーシュがいるのを見て、ヴェルトは驚いた。


 辺りを見渡すと、エルフの女性は苦笑いを浮かべる。


「随分来たわね。お陰で助かったわけだけど」


 この人数は想定外だったが、来てもらえなければ大変なことになっていたのは間違いない。シャル一人で対応できなかったかもしれないと思う。


「傭兵組合が動いているとは思わなかったわ。けれど、どうして情報が来なかったのかしら。誰か精霊契約をしているのかしらね」


 そうでもなければ、情報が回ってこないなどということはあり得ない。


「あんた、何者だ?」


 ヴェルトが警戒心丸出しで見れば、にっこりと笑顔を浮かべる女性。


「イリティスお姉様、遊んでいますよね」


「あら、わかった?」


「わかると思うが」


 呆れたようにシャルが言えば、リーシュも同意するように頷く。


 これ以上やると、ヴェルトがキレると思ったのかもしれない。


 そして、それは間違いではないだろう。ここでリーシュがイリティスお姉様と呼ばなければ、キレていたかもしれない。


「虹の女神に会えるとは思いもしませんでした」


 シザの言葉がとどめとなり、ヴェルトは黙ることにした。


 その場が一瞬にして凍りつく。とてつもない爆弾を落としたものだと思う者もいたかもしれない。


「さすが、カロルが育てた情報屋ね。イリティス・アルヴァースよ。精霊の巫女は私の家系となるわね」


 遊んでごめんなさいね、と言われてしまえば、ヴェルトにはなにも言えなかった。


 さすがにリーシュの血族となれば、言えるわけがない。苛立ちすら吹き飛んだほどだ。


「随分と魔物が来たのね。知らせなさいって、シャルには言っておいたと思うのだけど」


「困れば知らせます、とも言いましたが」


「……あなた、本当に厄介な騎士ね」


 ため息交じりに言えば、中で話そうと招く。


「しばらく滞在するようなら、他の傭兵達にも泊まる場所を提供できるようにするわ」


 さすがに野宿はさせられないと言えば、待機を命じられた傭兵達が喜びの声を上げる。


 野宿に慣れてはいるのだが、家で寝起きできるならその方がいいに決まっていた。


 しかも、泊まれるのが精霊の守る村となれば、これほど貴重なことはない。普段は立ち入ることができない村なのだから。




 リーシュの自宅で話そうということになり向かった。あまり広い家ではないが、それでも話をするぐらいはできる。


 その日の晩、話し合いもすべて終えて、傭兵組合の傭兵達がしばらく滞在することも決めて、各々が休息を取る中リーシュは彼の元へ。


「よくわかったな」


 村の外れで空を見上げるヴェルト。もちろん、居場所は精霊達に聞いたのだ。


「わかってるくせに」


 わかってて言っているのだ。白々しいと言えば、ヴェルトは笑った。


「精霊契約したの、なんで?」


「決まってんだろ。お前を守るため。精霊から提案されたが、俺は俺の意思で決めた」


 真っ直ぐに見つめられれば、リーシュは顔が熱くなるのを感じる。明るかったら、真っ赤になっているのがバレバレだろう。


「国を捨てたのも?」


「あぁ。お前といるため。つうか、ずっと言ってただろ。継ぐ気はねぇって」


 信じていないのはわかってたが、と呆れながら言えば視線を逸らされた。


 信じていなかったわけではない。国を継がなくても、いつかいなくなるかもしれないと思っていただけだ。なら国を継ぐと思っていた方が楽だった。


「大体のことは精霊達から聞いたし、調べてきたつもりだ。それでも、リーシュが知っていることより、俺の知っていることの方が少ないだろうな」


 まだ足りないのだとわかっている。わかっているからこそ、知りたいと思っていた。すべてのことが知りたいと。


「まさか、女神様に会えるとは思わなかったし、女神様がここを守ってるとも思わなかった」


 自分がいなくても、彼女は安全なのだろう。わかっているが、それでも譲れないことがある。


「リーシュを守るのは俺だ。これは、誰にも譲らねぇ。女神様にもだ」


 ハッキリと言われた言葉に、リーシュはなぜか涙が溢れた。自分でもどうしてなのかわからない。


 けれど、悲しいからではないとだけわかる。悲しくなどない。むしろ嬉しいぐらいなのだ。


「お前を誰かに譲る気なんてねぇし、手放す気もねぇからな。まぁ、リーシュが嫌だって言うなら、そのときは引くけどよ」


「そんなこと、言わない。私も……ヴェルトとずっといたい。そう気付いたの」


 彼がいない日々を過ごして、リーシュが気付いた気持ち。なにがあっても彼と共にいたい。


 これが素直な気持ちなのだ。


 互いの気持ちを伝えあう夜、普段は邪魔する精霊達は静かに見守った。








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