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メルレールの英雄-クオン編-前編  作者: 朱漓 翼
4部 女神の末裔編
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女神の一時帰宅3

 光がチカチカと点滅を繰り返す。考えているのだろうかと待つイリティス。


 この場には多くの精霊が集まっている。北にいる精霊がすべて集まっているのかもしれない。


(見世物になっている気分だわ)


 普段から精霊達とは交流をとっていたが、この数に囲まれたことはないだけに、なんとも言えない気分になる。どうしたものかと思うほどに。


『虹の女神、我らに名はない。ただ、名がないと困ると女神の子にも言われた』


 声に多少の違いはあるが、姿で判別できないだけに個別の判断が下せない。シオンでもそれが難しいのなら、自分では無理だなと苦笑いを浮かべるイリティス。


 村で過ごしていた頃も、精霊達を個別で判断できたことはない。すべて鈴を転がしたような声にしか聞こえなかったからだ。


『我が名はディーグ。この山を住処にする精霊を束ねる者だ』


 名を付けたのはシオンだと言えば、やり取りをする精霊にだけ呼び名を付けたのかもと思う。


(お前、とかあなた、とか呼んでるのもね。区別のために付けたってことね)


 自分が区別するために付けた名なのだろうが、どことなくシオンらしくないとも思った。もしかしたら、大地の女神が考えたのかもしれない、と。


 次に、このまま見世物は居づらいと伝えれば、ディーグは場所を変えてくれた。


 もしかすると、初めからここに招くつもりだったのかもしれない。


 こう思えたのは、目の前にディーグとは違う光の塊が浮いていたからだ。おそらく外から来たなにかだろう。


『これが知りたかったのだろう』


「えぇ、これはなにかしら」


 わかっているなら教えてほしいと言えば、再び光が点滅する。話してもいいか考えているのだ。


『女神の子がいない今、虹の女神に黙るということはできぬな。これは外からやってきたものだ。おそらく、大地の女神が創っていたものだと思われる』


 つまり、ファラーレの世界を守護する者という意味だと察する。


 なぜここに、という疑問。世界を守護する者なら、ファラーレの世界を守らなければいけないはず。


『おそらくだが、まだ完全ではないのだろう。言い方が悪いが、創り途中なのだ。この光はまるで卵のようだ』


 言われてみれば、確かにそうかもしれないと思う。光の中はなにも見ることができないが、強い力だけは感じ取れる。


 どうなっているのかなんてわからない。けれど、なんとなくだがわかる。


「光が消えたとき、女神ファラーレの世界を護る守護者が目を覚ます、ということかしら」


 この光は守護者を完成させるための力なのだろう。ここまで来て、ファラーレの世界は襲撃を受けてしまったということだ。


『我々はそう思っている。この守護者が、女神の子を助ける鍵になるとも』


 どう考えても、この世界へ送り込んだのはシオンだろう。そうでなければ、この中途半端は理解できないと言うのが精霊達の考え。


 女神ファラーレは動ける状態ではない、ということだ。


『現状としては、この光を守ることがすべてと思っている。我々はだが』


 そのため、精霊の巫女からの頼みも断ってしまった。まさか、イリティスからの頼みだとは知らなかったと言われれば、仕方ないと思う。


 精霊は基本的に精霊の巫女が束ねている。けれど例外もあるのだ。


 セレンの精霊も例外になるが、シオンにのみ従う精霊達がいる。こちらは基本的にシオンを主としていることから、精霊の巫女からの言葉に従わないこともあるのだ。


 状況がわかれば、断られたのは仕方ないと思う。精霊達は精霊達のやり方で守ろうとしているのだ。


「これは、このまま預かっておいてくれるのかしら」


『無論だ。ただ、本気で攻められれば我らでは守れぬ』


「なるほど」


 だから、今回会うことを了承してくれたのだと知る。この存在を明かすことで、なにかあったとき助けてもらおうということだ。


 イリティスの力はもちろん、グレンの手助けを一番に求めている。


(もしかしたら、新しい聖弓と聖槍の使い手かしらね)


 力の意味では、光である二人の方が外と戦えるかもしれない。


「その見返りはなにかあるのかしら。こちらも自分達のことで精一杯よ」


 一方的に助けてくれ、など受け入れられないと言えば、光は点滅を繰り返す。


 どうするかと考えているのがわかるから、一体なにをしてくれるのかと待つ。別段、精霊達から協力を得られなくても困らない。


 これは、リーシュから頼んだのを断った精霊へ、ちょっとした嫌がらせだ。精霊の巫女の頼みを断ったことへの。


 数分も待つことなく、点滅は止まった。


『我らにできることは少ない』


「そうでしょうね」


 精霊達にはできることが限られている。わかっていて言っているのだから、我ながら意地悪だと内心苦笑いを浮かべるイリティス。


『この世界が外からの脅威に晒されている。望むとき、一時的に契約を交わす』


 これでどうだろうか、という精霊に、なるほどと頷く。


 自分達だけでどうにかなるのなら問題はない。けれど、魔物が溢れてしまえばそうはいかなくなる。


 間違いなく、各地の騎士や組織に戦ってもらうことになるだろう。


 そのとき精霊と契約を交わしていれば、戦力は格段とアップする。一時的な契約ということは、代償を支払うこともないだろう。


 もしも支払うことになったとしても、それも一時的になるはず。


(悪くない提案をしてきたわね)


 思ったより悪くない。人選をこちらで選ばせてもらえるのなら、もっといいなと笑う。


「……どうかしら」


『承知した』


 問いかけてみれば、ディーグはそれで構わないと答えた。これで交渉は成立だと言うように。




「イリティスちゃーん!」


 戻ってみれば、物凄い勢いですっ飛んでくるアクア。そのまま頬擦りまでするから、イリティスは笑うしかない。


「悪いのだけど、このまますぐに戻りたいの」


 再会を楽しみたいところだが、まだ南は警戒しなくてはいけない状態。ここにいるつもりはないのだ。


「わかってるよ。シャルを貸せばいいんでしょ」


 頬を膨らませて拗ねる姿は、三千年経っても可愛いと思う。あとで構ってあげないと、と笑った。


「メリシル国の魔騎士団所属、シャル・フィアラントです。よろしくお願いします」


「フィアラント……あら、カルノーのところね。面白くなってきたわ」


 昔の仲間と同じ姓のハーフエルフ。新しい仲間もいれば、懐かしい仲間もいる状況は、長生きしたからこその出来事だ。


「まったく、あなた方は」


 娯楽ではないと苦笑いを浮かべるシャルは、言うだけ無駄なのだろうと思う。


 グレンにも同じような反応をされたからだ。


「ごめんなさいね。長生きしていると、どうしてもこう思ってしまうのよ」


「気にしていません。南へのお供でよろしかったですか」


「えぇ」


 ある程度のことは聞いているようで、アクアが普段着なのに対して、シャルはいつでも動けるように旅装。背には聖槍を背負っているのを見れば、イリティスが戻ればすぐ行けるようにしていたのだろう。


 理解のある騎士でよかったと笑った。


「あたしはここから動かないから、ソフィアのことは心配しなくていいよー」


「……ありがとうございます」


 どことなく棒読みで言うシャルに、アクアの悪気のない笑顔。


 なんとなく事情を察したイリティスが笑うと、行きましょうとシャルは誤魔化した。









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