表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メルレールの英雄-クオン編-前編  作者: 朱漓 翼
4部 女神の末裔編
162/276

傭兵との再会2

 中身はどうなっているのかと、ワクワクしながら入ってみると、案外普通で拍子抜けした。外観と違い、中は誤魔化していないなと思ったぐらいだ。


 それでも決してきれいというものではないので、これがこの街の現状だと思うことにした。


「いらっしゃいませ。お客様、お泊りですか?」


「あぁ。二名なんだが、大丈夫か」


 至って普通の店員。どこにも怪しいところはない。


 考え違いだったのかと思ったが、それを判断するのはまだ早いと思い直す。表向きは宿屋なのだから、これが当たり前だ。


「問題ありません。見ての通り、旅人が減っているので」


 確かに宿の中は人が少ない。おそらく見せかけだろうとわかりつつ、ヴェルトは大変だなと宿帳に記帳する。


 さすがに自分の名をそのまま書くことはできないため、城下で遊んでいた際の偽名にして。


 トレセスも偽名にしたのは、護衛騎士となる家系は知られている場合が多いから。特に、トレセスのような護衛を束ねる立場になれる者なら、どこから漏れているかわからない。


 念には念を入れて、大切な主を守るための行動だ。


 記帳した名を見ながら、店員はハッとしたように二人を見る。


 反応を見た二人は、なにを慌てているのかと思う。そう、店員はどう見ても慌てているのだ。


(さすがに、砂漠越えした先で手配などされてねぇと思うんだけどな)


 そこまで行動が早いとは思えない。トレセスは父王が亡くなってすぐ、国を出てきたと言っていた。


 なによりも、トレセスの偽名だけはこの場で考えたものだ。兄が知っているわけない。


「すみません。ここでお待ち頂けますか?」


「それは…」


「構わねぇよ」


 なにかあれば力でねじ伏せるだけ、と語り掛ける視線に呆れた。


 わかっていたが、ここで一悶着起きそうだ。この先、何回このようなことが起きるのだろうかと思うと、なんとも言えない気持ちになる。


(とんでもない人を主にしてしまった)


 いまさらのように思うと聞こえてきた足音に前を見た。


「そんなピリピリするな。普段通りにしてないと、そっちの方が怪しいだろ」


「すみません。そんなつもりはなかったのですが」


 小声で言われた言葉に、自分がピリピリしていたと気付き苦笑いを浮かべるトレセス。少し警戒しすぎたようだ。


「よぉ、久しぶり!」


 店員と共にやってきたハーフエルフは、ヴェルトを見るなりそう声をかけてきた。


 見せないようにしていただけで、警戒していたヴェルトは表示抜けしたように見る。その人物は、接触したいと思っていた傭兵組合のハーフエルフだったのだ。


「おい、まさかと思うけどよ」


「ここは傭兵組合の持ち家だ。それを宿屋として使ってるだけだな」


 あっさりと言われた言葉。二人ともが思ったことだろう。いいのか、話してと。


 ここまであっさりと言われるとは、さすがに思わない。いいのかと突っ込みたいところをなんとか堪える二人。


「まさかあんたのいるところだと思わなかったが、とりあえず名前は? この前は名乗らなかっただろ」


 色々と突っ込みたいが、目的の人物に出会えたことはいいことだ。捜す手間が省けたのだから。


「場所を移そう。さすがに、ここは普通の旅人も来るからな」


 そうだな、と同意するヴェルト。誰が聞いているかわからないところで、このまま話し続けることはできない。




 場所を移した三人。おそらく、宿の中にある隠し部屋のようなところだろう。


 いくつかある隠し部屋の、一番いい部屋だということはわかる。つまり、目の前にいる彼がここの責任者ということだろう。


「改めて、傭兵組合所属のアシル・エンジェリスだ。南の大陸を調べるために派遣された、組合専属の情報屋に付き添って来た」


「情報屋?」


 南には馴染みのない言葉。二人ともが、なんだそれ、というように見ている。


 気付いたアシルは苦笑いを浮かべながら、南の遅れを痛感した。まさか情報屋が通じないとは、さすがに思っていなかったのだ。


「傭兵組合は東の大陸で主導権を握る組織だ。それぐらいはわかるか?」


「悪いな。砂漠には傭兵の噂までこねぇんだよ。ただ、なんとなくはわかってる」


 シュスト国が閉鎖的なせいで、傭兵組合に関する情報は砂漠まで届かない。二人は砂漠から出たからこそ、東にあるという傭兵組合を知っているのだ。


 それも噂程度のレベル。立ち寄ったところで聞きかじった程度なのだ。


 困ったような、どことなく呆れているような表情で、アシルはどこから話すかと思う。


「いや、いい。傭兵組合の詳細はさほど大事でもないか。情報屋は東では当たり前だ。傭兵組合が各地の情報を集めるための組織。それでわかるか」


 すべてを話していてはきりがないし、噂程度であっても知っているなら問題はない。必要となれば話せばいいだけのことだと切り替える。


 こうなるなら、前回会ったときに話しておけばよかったとも思ったが、その時点では再び会うとは思ってなかったのだから仕方ない。


「問題ない。最低限で考えることができるなら」


「ということです」


「お前な……」


 ジロリと睨むヴェルトと受け流すトレセス。アシルは思わず笑った。


 いいコンビだと思ったのだろう。


「情報屋がいるということは、私達の素性はわかった上で声をかけてきたということですかね」


 無視をすると決めたのか、トレセスはアシルへ問いかける。


 言いたいことはあったが、まずはこちらだとヴェルトも思ったようだ。トレセスへ物言いたげな視線を向けつつも話へ戻る。


「俺達は南の情勢を調べるため、定期的に情報屋と共に来てた。定期的というが、それほど頻繁でもないとは言っておく」


 一度にかかる期間が長いため、さすがに何度も来られるわけではない。支部があればこのようなこともしなくていいのだが、と半ばぼやくように言うアシル。


 なぜか歴代の王から許可が下りない。王が変わる頃になると、情勢を調べるついでに交渉してきていたのだ。


「お前とここで会ったのも、ちょうどシュスト国へ行くためだった」


 まさか抜け出した王子だとは思わなかった。わかっていたら、彼を引き留めていたかもしれないと思っていたほどだ。


「別れたあとに行ってきてな。情報を集めていたときに、城下でお前が使っていた偽名を聞いた」


 当然のことだが、民達はヴェルトが王子だとは気付いていない。


 ただ、見かけなくなったという話を聞いただけだと言う。


「けど、同時期に王子がいなくなってれば予測はできるだろ。さすがに、それがここで会った人間だとは思わなかったけどな」


 偽名だけ知らせていたことから、記帳を見た店員は彼を呼びに行った。呼ばれて向かった先にいたのがヴェルトで、アシルも酷く驚いたのだ。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ