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メルレールの英雄-クオン編-前編  作者: 朱漓 翼
4部 女神の末裔編
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護るべき地2

 シュスト国に関しては仕方ないと考えることをやめる。


 国がどうなるかに関して、イリティス達は関わらないと決めていた。自分達を神と思ってはいないが、長い時を生きることは事実。


 普通よりも強い力を持っていることも、また事実である。だからこそ、人々の生活には関与しないと決めているのだ。


「魔物の流れがよくわかるわ。これはすごいわね」


 精霊の情報を元に記録されているのは、今現在の魔物に関するものまである。


「イリティスお姉様はわかっていらっしゃると思いますが、あの件に関わった者の家系は連絡を取り合っています。私が主に連絡を入れるのは北ですが」


 連絡のやり取りに関しては、多少なりとも偏りがある。精霊の巫女が直接やり取りをするのは一人だけなのだ。


「精霊達から魔物の増加なども報告して頂き、それを北に回してます」


「なるほどね。増加したら討伐部隊を出すというわけなのね」


「はい。場合によりますが、北に関しては西と合同でやることもあります」


 東はエルフやハーフエルフ達が自主的に討伐してくれることもあって、そこまで困ることはない。南側がエルフ、北側がハーフエルフ達の里になる。


 傭兵組合もあることから、国がなくても問題なく安定していた。


 いざというときは、北が東のために動くだろう。なにせ傭兵組合を立ち上げたのは、北の英雄王であるのだから。


「うまく繋がっているのね。ここにある連絡用の魔力装置は、オーヴァチュア家と繋がっていたはずだけれど」


 今でもそうなのかとイリティスは問いかける。さすがに長い月日が経っているだけに、変わっているかもしれない。


「オーヴァチュア家ではないですよ。これは……いえ、イリティスお姉様なら問題はないですね」


 精霊の巫女とは、太陽神と虹の女神の息子夫婦の娘から始まった。二人の息子がいることは有名だし、その家系が精霊の巫女になったことは一部では知られている。


 あくまでも一部であり、世間的に知られていることではない。


「レアラ・アルヴァースは巫女となった際にレアラ・シーゼルと名を変えました。名が重いというのもあったと思うのですが」


「そうでしょうね。世間的には英雄の名だから」


 精霊の巫女として村人以外とも会うのを考えれば、英雄の名は厄介ごとにも巻き込まれると判断したのだろう。


 それを見て動いた人物がいた。


 シディ・アルヴァース――レアラ・アルヴァースの弟で、北へ渡ってしまったハーフエルフだ。


「あら、北へ渡ったのがいるの。初耳だわ。一々報告しろとは言っていないしね」


 孫がもう一人いることは知っていたが、会ったのは数えるほど。気付いたときには村からいなくなっていたので、独立したと気にしていなかったのだ。


「レインがディア達を気にしていたからかしら」


「そうかもしれませんね。理由はあちら側なら知っていると思うけれど」


 もしくはレアラなら知っていたのかもしれないが、巫女へ伝えられてはいない。


 北へ渡ったシディはアルヴァースとは名乗らずに、シーゼルと名乗っている。


「今、北にいるのはセルティ・シーゼルという名の者です。どうやら、色々と巻き込まれて表に引っ張り出されているようですが」


「ん?」


 苦笑いを浮かべるリーシュに、どういうことかと問いかけるようにイリティスは首を傾げた。


 あちらに渡って生活をしているなら、主だった家系とは友好的なはず。一体なにへ巻き込まれたというのか、イリティスには不思議だった。


「今のバルスデ王国は、史上初の女王が即位しているのです」


 北へ渡ったシディは、決して表に出ることはなかった。王家の裏にひっそりといるだけに徹していたのだ。


「知っているのは、シュトラウス家のみだということです。当時ならそれぞれの当主ぐらいは知っていたでしょうが」


 レインの友人となる仲間達はおそらく知っている。だが、他は誰も知らない。情報操作しているのだ。


 意図的にシディを隠した。裏で動けるようにという意味だったのかもしれない。それぐらいのことを考えそうだと、イリティスは思う。


「これは、クレドの仕業ね」


 間違いなくそうだろうと思った。王家の裏で動いてもらうために、役立つかはわからないが。


「ずっと裏で活動していたのですが、女王への反発が酷くて」


 おそらくその関係で表に出てきたのだろうとリーシュは言う。


 今の女王は歳も同じで幼馴染みであることから、引っ張り出された可能性が高い。


「なるほどね。それはありえそう」


 けれど、とイリティスは思う。


 彼女は自分の息子に関しては、マイペースでどことなく頼りないというのが本音。決して知識があるわけでもなく、頭の回転もそこまで早くない。


 わかっているからこそ、どうしても孫が優秀とは思えないのだ。


「クレドの元で鍛えられているなら、優秀になるのかしら……」


「あの、そんなに不安なのですか?」


 考え込むイリティスを見ながら、リーシュは苦笑いを浮かべている。どうしてこうも不安げなのか、とても不思議というのが彼女の気持ち。


 自分の血族だからこそ、安心していると思っていたのだ。


「そうねぇ……レインはマイペースな子だったから」


 しっかりした息子に育つのか、という部分が気になっているのだと言う。


「レアラはしっかりした子だったし、下の子はマイペースという可能性の方が高いのかなって」


 勝手に思っただけだから気にしなくていいとイリティスは言った。


(そうよね。全員がマイペースになっても困るわ。シオンだけで十分よ)


 夫のマイペースをよく知る妻としては、血族だからとみんな同じになっても困る。


「セルティは一度だけ、会ったことがあります。神殿を通してですが」


 巫女となったあとだが、彼は百年以上生きているハーフエルフ。今も姿は変わらないだろうし、あの印象なら問題ないと思っていた。


「とてもしっかりした方でしたよ」


「信じられないわ。レインの元を離れたからかしら」


 面白いわね、と呟くイリティスは、本気で楽しみだしたようだ。


 実際に会わせたらどうなるのだろうか。そんな風に思ったが、いつか会う日がやってくる。今が外と戦う日々ならば。


「長生きすると楽しいこともあるのね」


「イリティスお姉様が楽しいなら、私は構いませんが」


 どのような息子だったのだろうか、と思わずにはいられない。母親にこうまで言われるのだから、それほどにマイペースな息子だったのか。


 さすがのリーシュも気になるというもの。


(いつか機会があったら、聞いてみようかな)


 彼女からではなく、セルティからでもなにかしらの話は聞けるだろう。


 楽しみができたと笑うと、精霊達がなにを楽しんでいるのだろうかと不思議そうにしていた。







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