星視と予言の力
結局のところ、フィフィリスがティア・マリヤーナの転生者である、ということしかわからないままだ。
とはいっても、これは特に問題ないこと。昔など気にしていては仕方ない。
(北に……ディアの星! ディアの聖剣を持つ者がいる!)
突然光りだした星に、アクアが驚いたように見入る。これは間違えようがない。どこからどう見ても、彼女の知っているディアンシ・ノヴァ・オーヴァチュアの星だ。
すでに動いているとは聞いていたが、ここにいるとは思っていなかった。
問題はこれが誰かなのだが、今の段階ではわからない。それとも、動いているが得られていないのか、と思い直す。
(ひとまず、北で動いてることはわかった。次は…)
フェーナを確認しようと思ったとき、以前も視た三つの星に変化が起きていると気付く。
(あった、あれが月神の転生者! もう兆しが出てる!)
つまり、覚醒が始まっているということ。月神が目覚めれば、この状況は変わるかもしれない。変わってくれと願いたくなる。
隣に寄り添う群青色の輝き。そちらに変化はないが、月神の加護を感じ取ることはできる。
「月神の覚醒が始まった……」
「星の女神はどうでしょうか?」
想定内の出来事であり、そちらよりも星の女神が気になるはずだと言われれば、そうだねと頷く。
「想定している人物に変化はないけど、あれは……たぶん聖鳥」
微かにだが、深い緑の星周辺にそれらしい輝きをちらつかせている。おそらく、聖鳥の輝きだろうとアクアは思っていた。
エリルが連れていた聖鳥はどこかへ飛び去っていったが、その後どうなっているのかを誰も知らない。シオンですらわからないのだ。
消えてしまった可能性もあるが、月神の聖獣が残っているのを考えれば、消えていない可能性もある。どちらなのかは、そのときになってみなければわからないだろう。
「どのように視えますか?」
「まだ小さい光。欠片みたいな感じかな」
それがいくつもあるような状態だと言えば、さすがにセネシオでもわからない。予測はつかないというのが正解だ。
「触れてもいいですか?」
「えっ…」
急にどうしたのかと思ったが、セネシオの言うことなら意味があるはずだ。
頷くと肩に触れる手。夫ほどではないが、それでも剣を握ってきた手だとわかる。争いとは無縁である神官の手ではない。
(視え方が変わった…)
どんな考えだったのか、星を視て気付く。先を視る力が加わることで、星が先を示しだしている。
この変化が起きるかもしれないと狙ってのこと。さすがだとアクアは笑う。
「欠片が集まって聖鳥になる……でも、これはエリルちゃんの聖鳥とは少し違う」
「なら、新しい聖鳥ということですね。エリル様の転生者ではないですし、新しい女神のための聖鳥となるのかもしれません」
それは正しいかもしれない、と思えた。月神はリオンの転生だが、星の女神はそうではない。新しい女神に合わせた聖鳥となるのだろう。
「これで……んー」
「まだなにか?」
ひとつの星を視ながら悩む姿に、なにかあるのだろうかとセネシオも視てみる。
けれど、さすがになにかを感じることはなかった。セネシオでは手助けができても、視ることはできないようだ。
「えっと……あれが、グレン君に似てるんだよね」
どうしてだろうかと悩む姿に、情報が足りないなとセネシオが求める。
「星は表すのに、前世も含まれますよね」
いない、ということを読み解けたのだから、前世の人格が存在すれば読めるのかという確認。
もしもそうなら、それは前世を表すのではないか。
「グレン君と繋がる前世かぁ、そんな、の……」
いるわけないと言おうとしたアクアが固まった。彼は死んでいないので、グレンという転生者は現れない。
けれど、彼の元になっている人物がいる。ほぼ同じ存在と言える人物がだ。
「フォーラン・シリウスがこの時代に転生してる……」
まさかと言いたそうに星を視るが、間違いなくその星は輝いている。どこかにいることを示しているが、本人が隠しているのか、自覚していないのか。
どこにいるかまではわからなかった。
「偶然じゃ、ないよね」
「そうでしょうね。おそらく、月神の近くにいるのではないでしょうか」
近くと言われ、フィフィリスにも言われていたと思いだす。近くにいるかもしれないと、彼女は気付いていた。
情報だけ持っていけば、グレンの方が気付いてくれるだろう。
「次は……星が……」
「アクア様」
驚いたように星を視る姿に、どうしたのかと問いかける。
「空が闇に覆われていく。これ、セネシオの予言と同じ…」
星がなにかを訴えているのだ。それが予言と同じ内容だと思えた。
空を覆う闇。星々が消えていく中、希望の光が輝いていく。けれど輝きが足りないと、今のアクアにはわかる。イェルク達と話していたことで、このままだと消えると知ってしまったからだ。
この輝きではダメなのだ。もっと強い輝きが必要なのだが、どうしたらいいのかわからない。
(あれは……外からの来訪者を表すのかな)
見慣れない輝きがひとつ。希望の光と似た輝きを放っていた。
(お願い…それを視せて)
願ってみたが、輝き以上を視ることはできない。おそらく外から来た者だからだろう。この世界とは異なるところから来たのだから、星に表れただけでも十分だ。
(希望ってことは、シリンが言う通りだね)
ただ、悪いものではないと確認できたのはよかったことだろう。あとはイリティスが動くのを待つだけ。
最後にダメ元でシオンを視ることにしてみた。外へ行ってしまったことで、視ることはできないかもしれない。
そう思っていたが、セネシオがいる影響だろうか。シオンを表す星の輝きが視られた。
(とりあえず、シオン君は無事みたいだけど……わかるのはそれだけ)
いいことだけど、知りたいのはもっと深いところなだけに、素直に喜ぶことはできない。
「シオン君は無事みたい」
「そうですか。まずはよかったと思うことにしましょう」
「うん…」
わかっているのだが、それでも複雑な気持ちになってしまう。星を視るだけしかできないことが歯痒い。
「アクア様! あれ!」
ふと星空を見上げたセネシオは、彼でもわかるほどの闇が膨れ上がるのを見つける。
自分でもわかるということは、普通ではないということ。
「闇の星……あれが、外から攻撃してきてるのかも」
長時間視ていたら、影響を受けてしまうかもしれない。すぐに視るのをやめれば、身体がざわつくのを感じる。
おそらく、闇を表す星が原因だ。もっと視たいが、なにかあってはいけない。セネシオも巻き込んでしまうかもしれないのだ。
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