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メルレールの英雄-クオン編-前編  作者: 朱漓 翼
3部 永久の歌姫編
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ひとときの休息3

 互いに認識を変える必要はある、というのがシャルの気持ちだ。


「英雄王と傭兵を見ていて思ったが、守る守られるではなく、互いに背を預けるがいいのかもしれない」


 一時だったが、アクアのサポートで戦ったあのとき、正直なところ悪くないと思ってしまった。ただ攻めるだけの戦い方ができたのも、彼女の力あってのこと。


 もちろん、事前にイェルクから聞いていたからできたことでもあるのだが。


「強かったわね、アクア様」


「俺達が思っていた以上にな。あれなら、護衛なんていらないと言い張るはずだ」


 同時に、接近戦はできないのだから、やはり護衛は必要だとも思ったのだが、それは触れないでおく。本人もわかっているようだから。


「お前がしたいのは、アクア様の力になることだろ。なら、一方的に守る関係でなくてもいいんじゃないか」


「…そうなのかな」


 俯く姿に、頭が固いと納得する。納得する反面、人のことは言えないという自覚もあった。


(俺も固いとよく言われるしな)


 これはどうにかなるものなのだろうか。一瞬考えてしまった。


「これを手にしてしまった以上、俺は行かないといけないのだろう。でもな、だからソニアが必要ない、ではないぞ」


 聖槍を手にしたことから、彼女について行くことは確定事項だ。


 しかし、とも思っている。これを手にしてしまったからこそ、常にいられるわけでもないのではないか。状況によっては離れることも出てくるはずだ。


 そのとき、傍にいることができるのはソニアしかいない。


「私は、アクア様の傍にいていいの?」


「あぁ」


「そっか…」


 傍にいられるのかと小さく呟く。彼女の中でアクアがどれだけ大きな意味を持つのか、改めて知ったような気分になり、シャルは視線を逸らした。


 恋人としては特別かもしれないが、生涯越えられない壁があるとしたらアクアなのだろう。


(人生を救われたわけだから、仕方ないことだな)


 どう頑張っても、これを越えることなどできない。


「気が向いたら、俺の背中も守ってもらいたいものだな」


「気が向いたらね」


 いつもの調子を取り戻したソニアに、やはりこうでないと、とシャルは笑みを浮かべた。




 夕暮れの空を背に、グレンとシュレを見送るために集まる一同。特に、このあと会う機会があるかわからないセネシオは、引き留めたそうな勢いだ。


 実は軽く手合わせと、剣を交えることまでしていた。ここまでくると、アクアは感心していたほどだ。


「イリティスに森海の加護に関しては言っておく。早急に対応してもらった方がいいだろ」


「うん、お願いグレン君」


 自分から連絡を入れるつもりではいたが、イェルク達と会ったことも話すだろうから、そのときに伝えるつもりなのだろう。


「あたしもすぐ戻るようにするよ」


 帰りはのんびり旅、などというわけにはいかなくなった。城へ繋がっている道を使わせてもらうと言えば、わかったとグレンが頷く。


 確実に同行者がいるだけに、その準備もしておくという意味だ。


「シャル・フィアラント、必ず使いこなせ」


「わかっています。知識だけならあるので、色々と考えてみますよ」


 どうすれば自分のものにできるのか。とんでもない課題を出されたものだと、思いながらシャルは頷いた。


 一通り視線を送れば、グレンの見る先はソニアで止まった。


「必ず来い。このお転婆を見るのが必要だし、興味がある」


 簡単に紹介しただけだが、セイレーンの二刀流が気になるとアクアに言っていたのだ。


 純粋に手合わせがしたいという意味だったが、そんなことを言われると思わなかったソニアは、驚いたようにグレンを見る。


「え、ソニアが行かないとかあるの?」


 キョトンとした表情を浮かべるアクアに、悪かったとグレンが笑う。


「行かないという選択肢はなかったか」


「ないよー! いてくれないと困るじゃん!」


「だそうだ」


 笑いながらグレンが言えば、必死に感情を抑え込むソニアが頷く。


 目の前にいる英雄王にもバレていたのかと思うと恥ずかしくなるが、なによりもアクアが行くと疑ってもいなかったことが嬉しかった。


 彼女が望むなら、地獄の果てまでも共に行ける。


「私はどこまでも、アクア様について行きますよ」


「えへへ、ソニア大好きー!」


 無邪気な笑みで抱きつく姿を微笑ましそうに見れば、グレンが呪文を唱えだす。


 いつまでも話していたらきりがない。黒い穴がぽっかりと開けば、軽く手を振って戻っていくグレン。


 そのあとをついて行くシュレを見送ると、集まっていた全員が寂しいなという雰囲気に変わる。


「さぁて、星視の準備しようかな。ソニアとシャルは塔の前で待ってもらうことになると思うんだけど」


 あのときは聖槍の関係もあって入れてしまったが、本来なら許可がない者を入れるわけにはいかない。


 今回ばかりは外で待ってもらうことになるのだ。


「わかっています。外でお待ちしていますよ」


 少し柔らかい笑みを浮かべるソニアに、よろしくとアクアが言った。


「セネシオは……ばらしちゃうことになるね」


「構いませんよ。星視の見学許可が下りた時点で、ばらして構わないってことですから」


「それもそうだね」


 じゃあ、暗くなる前に食事と禊だと元気に言ってアクアは神殿に戻る。


 やることやって帰るぞ、と言っているようで可愛いな、と誰もが見ていたのには、当然ながら気付いていなかった。







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