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メルレールの英雄-クオン編-前編  作者: 朱漓 翼
3部 永久の歌姫編
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イェルクとシリン3

 強い祈りは奇跡を引き起こす。それがこの世界だと二人が言えば、もはや信じるしかない。この力自体が奇跡のようなものなのだから。


「お前達は、シオンがどうなっているのか知ってるか?」


 太陽神の存在を欠いて目を覚ましたなら、知らない可能性の方が高い。さほど期待はできないな、と思いながら問いかける。


『残念ながら、どうなっているのかは知りません。ですが、外へ行っただけでこうなったとも思ってはいません』


 長期不在にしたことで多少の影響は受けるのだろうが、だからといって自分達が動き出す要因だとは思わないと言う。


 世界を守るための力として目覚めているなら、太陽神自体になんらかの脅威が起きているということ。そうでもなければ、簡単に危機が訪れる世界ではないと思っていたのだ。


 なにせ、女神を欠いても存続してきた世界なのだから、神の力など必要としないだろう。


「つまり、外でなにかあった。もしくは、誘き出されたのか……」


 しっくりこないな、と自分の考えに苦笑いを浮かべるグレン。やはり太陽神のことを知るには情報がない。


 これ以上はどうにもならないか、とグレンはため息をつく。


 誰か聞きたいことはあるか、と問いかけるように他のメンバーを見れば、動いたのはセネシオだ。


「受け継げるかどうかを見ていたということは、目を覚ましてからこの世界を見ていたということでいいのでしょうか」


 認識としてこれが正しいのかと言えば、二人は顔を見合わせたあとに頷く。


『概ね間違っていない認識だ。見ていたというよりは、感じ取っていたという感じだが』


 ある程度のことが把握できていることは間違いではない。けれど全部というわけでもなかった。


 それでよければ、知りたいことを聞けと言われれば十分だと思う。


「予言に出てきた森海が気になっててね。精霊はなにか手にしてるのか、それともまだなのか……」


 ハッとしたようにアクアが見れば、イェルクは考える素振りを見せた。


 これは無理かと思われたが、シリンには心当たりがあるようだ。


『もしかして、あれのことですの?』


 外からなにかが入って来た。それは脅威になるものではなかったので、特に気にしていなかったと言う。


 シュレが聖弓を継いだ少し前、なにかが入って来たのだと言う。害があるものではなく、目を覚ましたばかりということもあってスルーしてしまった。


「どういうものですか」


『ものというか、外からの訪問者というものかしら。悪いものには感じられなかったですわ』


 だから今までほっといていたのだが、それがどうしたのかと首を傾げる。


「予言では精霊の元とでてたよね。その訪問者」


「はい。この時期に外からの訪問。意味があると思うべきです」


「でも精霊だしなぁ。イリティスちゃんしかいないよね」


 自分達で精霊と接触することはできない。結局のところ、イリティスに任せることは変わりないだろう。


「シリンがそう感じていることも含めて、イリティスに伝えておけばいいだろ」


 彼女は月神の娘である。感じていることは信憑性が高いと思えた。害がないのなら、話を聞くだけでも損はない。


 外は別の文明だ。違う知識や、思わぬ情報が手に入る可能性もある。この先、外と戦うなら手助けになるだろう。


『俺もその意見には賛同します。大地の女神が関わっている可能性もありますし、訪ねるだけでもしてみてください』


 大地の女神という言葉に、グレンも確かになと呟く。彼女は前回も助けてくれた女神だ。


 女神として譲れないところもあるようだが、それを除けば味方してくれた唯一の存在。それも見守る者がいるからという理由だけで。


 世界など関係なく、生きるすべての者を慈しんでくれたのも彼女。だからこそ、シオンは手助けするように時折出ていた。


「大地の女神が関わってるのか……なら、そいつはそこから助けを求めてきたかなにかじゃないのか。観光で来るわけないだろ」


 太陽神が出たまま戻ってこない場所から来たなら、観光などという呑気なものではない。シュレが言えば、グレンの視線も鋭くなる。


「やっぱお前を連れてるのは間違いじゃないな」


「試したなら怒るぞ」


「試してはいない。考えないようにはしたがな」


 それが大地の女神の世界から来たなら、間違いなくシオンになにか起きていることになるのだが、海を示す方ならと思えば考えたくない。


 別の世界から救援が来たとしたら、それに対応する力はこの世界にない。要となるシオンがいないのだから。


「考えたくない」


『考えたくないですわね』


 とりあえず棚上げしたいと言えば、シュレが苦笑いを浮かべる。


 こうは言うが、目の前にいる英雄王が考えないわけがない。今頃はフル回転で考えていることだろう。


『陛下、随分と理解力のある相棒をみつけてきたのですね』


「……お前、ヴァルスより面倒だ」


『今頃気付かれたのですか』


 さらっと言う姿に、吹き出したのはアクアだ。現役のときにはこのようなことがなかっただけに、楽しいと思っている。


 焼き付いている意識は、力を開放した当時のままではあるのだが、当人であって当人ではないからか容赦がない物言いをするようになったようだ。


「ヴェスにはこうしてたわけか」


『正確に言うとディアはこうでした。殿下はそのあとで、ですかね』


 呼び方は焼き付いたときのままなのかと、不思議な気分になりながら笑うグレン。息子は苦労しただろうな、と思ったのだ。


『そろそろ時間ですわ』


 まだ空は明るくない。それでも感じるものがあるのか、シリンがこれ以上は無理だと言う。


『そうだな。俺達はまだ消えるわけにはいかない。自力で使えるようになるまで、少なくとも維持しないといけないからな』


 こうやって接触することも、消えることに繋がるのだ。それでも今回接触したのは、この場なら可能と思ったから。


『妃様、明日には星視が行えると思います』


「わかった」


 つまり、この場の力は二人が接触する際に利用したのだろう。お陰ですべて消え去ったならありがたいことだ。


 あと数日は待つと思っていたが、すぐに星視が出来る。今の状況としては助かることだった。


『正直なところ、フェーナが動いていないのも気になっています。あいつだけは、どうして得たかわからないので』


 継ぐ者が現れるか、その辺りは厳しいかもしれない。


 最後に残された言葉を聞いて、グレンとアクアもそうかもしれないと思った。当時のことを知っているだけに、彼女だけは読めない。


 動いていないという部分からしても、共通するような人物がいないと言われているようで、これは一番の問題になりそうだと思ったほどだ。


 ひとまず、休息だとその場は解散した。








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