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メルレールの英雄-クオン編-前編  作者: 朱漓 翼
3部 永久の歌姫編
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大蛇の襲撃

 魔物が活発になりだした。それは、エトワール神殿の上空を覆う力が薄れるほどに、酷くなっていく。


「まるで、ここの力が結界の役割をしているみたいですね」


「うん」


 ソニアの言葉に、アクアも同意するように頷く。薄れるほどに活発になるということは、やはりこの力は神の力となる。


 星視を妨害されるはずだと思う反面、星視の能力は神からの授かりものということになるのか。その辺りが気になった。


 もしもそうなら予言者も同様の力ということになり、ソル神殿にもなにかあるのかと思う。


 しかし、それが必要にならない限りは関係ないこと。


「そのうち、神殿にも来るかもしれないね」


「シャルが神官騎士と見回っております。地下に避難所もあるとのことなので、ある程度は耐えられると思うのですが」


 それでも絶対ではない。地下に魔物が来ないというわけでもないだけに、侵入を許さないのが最善だ。


 わかっているからこそ、シャルが見回りに出ているのが現状。


「幸いなのは、普通の魔物ってことですかね」


 のんびりと言うセネシオだが、その姿を見て二人とも引きつった笑みを浮かべている。


 予言者という高位の神官であるセネシオは、動きやすい服装で剣を研いでいたのだ。


 いつでも魔物討伐に行くぞ、と言われているようで、もはや言葉が出ない。もしかすると、今が一番楽しんでいるのではないかと思ったほどだ。


「セネシオ様……」


 どう言ったらいいのかわからず、ソニアの言葉は続かない。


「うん? あぁ、戦闘になったら僕は気にしなくていいからね。勝手に暴れるからさ」


 どことなくウキウキしているセネシオは、どうやら素が出ているようだ。一人称まで変わっている。


(もしかして、似た者同士なのかな?)


 シルベルトと気が合うのは、この辺りなのかもしれないとアクアは思う。猫被り神官であることが同じだとは、さすがに思わない。


(でも、あたしも人のこと言えないからな)


 同じく、猫被り神官をしていたアクア。こればかりはなにも言えないと思う。お前もだと、仲間からは突っ込まれること間違いない。


 とりあえず、いざというときはソニアとシャルが動くだろうと思うことにした。


 どうにかしようにも、戦闘は専門外なのだからなにもできない。


 そろそろシャルが戻ってくるだろう。そんなことを思いながら、竪琴に手をかけたときのこと。空気が震えたような錯覚に陥る。


 どことなく覚えのある感覚で、咄嗟に飛び出していたアクア。


「アクア様!」


 慌てたように追いかけるソニアに、一度外を見るセネシオ。彼もアクアと同じものを感じ取っていたのだ。


(……夜になるまでに終わらせる必要があるか)


 日が暮れだしているだけに、難しいとわかりながらも、そうしなければいけないことを感じ取る。夜になると状況は悪化するだろう。


(魔物は夜行性の方が強いからな)


 外から来るものが同じかはわからないが、この世界の魔物と外からのを相手にするとなれば、夜は避けたいところだ。


 神官騎士がどれだけできるのか、実はあまり期待していない。セネシオだからこそわかっていたが、神官騎士は最低限の戦闘訓練しか行わないのだ。


 魔物から守れる程度の戦闘訓練しかせず、どちらかというと後方支援用の魔法を主流にしている。


(前に出るか)


 なにか言われるかもしれないが、勝手に動こうと決めた辺りで表に向かう。


 外へ出れば、神殿の入り口近くに魔物が集まっている。もしかしたら、この場に集まっている力に惹かれているのかもしれない。


 外から来た魔物が邪魔だと思っている可能性もある。可能性は考えればいくらでも出てくるだろうが、考えるだけ無駄だとも思う。


 どちらにしてもとる行動は同じ。魔物を受け入れることなどないのだから。


「僕の援護も頼むよ」


 剣を抜くと、神官騎士へ声をかけて駆け抜ける。神官騎士の間を抜けるなり、翼を広げて飛ぶ姿は神官に見えない。


 穏やかな笑みはどこへいったのか。鋭い目付きで魔物を睨みつけると、騎士顔負けの斬撃を見せた。


「セネシオ様、後ろにいる気はなさそうですね」


「もちろん」


 当然だと言う姿を見て、シャルがどことなく諦めたようにため息をつく。彼も護衛対象なだけに、どうしたものかと思っているのかもしれない。


 その反面、護衛など必要としないほど強いということも理解している。一撃で実力は十分にわかったのだ。


「ここは、肩書きを一回置いておこうか」


「わかりました」


 この場だけはそうしよう、とシャルは魔物を見据えた。


 今の段階ではさほど強くない魔物。至って普通と言うのもおかしいのかもしれないが、普段通りの魔物だと誰もが認識していた。


 ただ、このように群れて襲ってくることは珍しく、事態としては普通ではない。


 わかっているからか、神官騎士ですら辺りを警戒していた。


「セネシオ様、なにかを感じていますか?」


「少し、やばそうな気はしてる。夜までに終わらせないといけないような感じかな」


 凄まじい勢いで魔物を斬り捨てていくセネシオに、ソニアがなにを感じているのかと問いかける。


 アクアといる関係で、なんとなく感じることが出来るもの。それをセネシオに感じていたのだ。


「ならば、終わらせましょう」


 少し攻めの体制にしてもいいかとソニアが視線を向ければ、シャルが構わないと頷く。


 この場の主導権を握るのは、ソニアではなくシャルのようだ。


「俺も日が沈む前になんとかしたいと思ってた。勘でしかないが、やばそうなのが近づいてる気がする」


 おそらく外から来た魔物だろうと思うだけに、まずはこれを蹴散らそうと言う。


 ある程度倒したところで、空は紫紺になっていた。ここから夜行性の魔物が動き出す時間。


 なにかに惹かれて集まっている以上、このままでは終わらないだろう。そう思っていた矢先だった。


「来る!」


 アクアが言うのと同時に、空を星が流れる。誰が見てもきれいに見える流れ星だが、アクアには影がまとわりついて見えた。


 完全に外から来た魔物だとわかる。


「シャル、ひとまず残った魔物を神官騎士と倒してもらえるかな」


 両方を相手にすることはできない。シャルを欠くのも問題だが、彼が一番任せられる。


 神官騎士をまとめて戦うとなれば、自分にはできないことだ。


(ソニアはアクア様から離れないだろう。適任か)


 理解した上でセネシオも提案してきている。了承したと頷くと、シャルはすぐさま神官騎士の元へ向かう。


 早く終わらせ、下がらせる必要がある。外からの魔物が来るなら、彼らは遠ざける必要があると思えたのだ。最悪は逃げることとなるのだから。


(逃げる気はないが……)


 時間はかかっても、倒す手立てはあるはずだ。戦う前から諦めるようなことはしない。








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