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メルレールの英雄-クオン編-前編  作者: 朱漓 翼
3部 永久の歌姫編
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転生者

 一枚の鏡を前にして、アクアはこれがそうなのかと思う。全身を映し出す鏡は、一見おかしなところはない。


 一昔前ならば、全身を映せる鏡は高価な代物だった。北の大国では一部の貴族が持っていたが、西では王家しか持っていなかったほどだ。


 当時の女王が提供したのだろうか。それとも、北の鏡を使っているのだろうか、などと思わず考えてしまう。


「見たことなかったのですか?」


 不思議そうにジロジロと見ている姿に、意外だと言うようにシャルは問いかける。


 彼女なら見たこともあると思っていたのだ。


「グレン君は使ってたと思うけど、あたしは使ってなかったしね。ディアとレインが交流するためがメインだったから」


 自分が使うことはなかったと言えば、それこそ不思議だと思った。


 当時の女王が、アクアを娘のように可愛がっていたとシャルは知っている。だからこそ、その後も交流があると思っていたのだ。


 実際には、国としての交流だけで個人的な交流はしていなかった。会おうと思えばいつでも会えると思っていたから。


 鏡自体も城には置いていない。今の時代では城にあるのだが、アクアが王妃だった頃はオーヴァチュア家に置かれていたのも、使わなかった理由のひとつだ。


「お姉様がいらっしゃったと聞いていますが」


「うん、お姉ちゃんがいた。セレンで暮らすようになったら、移住してきたよ」


 だから困らなかったのかも、とアクアは笑いながら言う。姉が西から動かなかったら違ったかもしれないが、そうではなかったのだ。


 北への使者によく混ざっていたし、退位してからは西でしばらく過ごしていた。


 定期的に会えていたからこそ、姿を見ての連絡を必要とはしなかったのかもしれない。なにかあればシオンが移動に手を貸すとも言っていた。


 いつでも会えると思えば、自然と気にならなかったのだ。


「一緒に過ごす時間があったのですね」


「ずっと離れてたからね。お姉ちゃんから希望してきた」


 それで、と鏡を見る。これはどうやって使うのかとアクアは見た。


 簡単に使える物ではないだろう。魔力で簡単に使えるような造りにするわけがない。造っているのがクレドなら。


「今の状態では普通の鏡です。上にくぼみがあり、そちらに専用の魔力装置を取り付けるのです」


 鏡も特殊に加工されているのだが、それだけでは使えない。使えるようにするための魔力装置が別にある。


 また、繋げる鏡によって取り付ける魔力装置が違うのだ。


 量産できない理由はここにあった。鏡の数だけ取り付ける魔力装置も造らなければいけない。当時の技術では多く造れなかったのだ。


 今ならできるのかもしれないが、造り方は秘匿されてしまった為、どの技術者達も作ることができない。


(これも操作されているのかもしれない…)


 クレド・シュトラウスという人物を知れば知るほどに、ソニアはそう思えてきた。


 これ以上、同じようなものを造らないように情報が操作されている。しなくてはいけない理由があるのかもしれないが、それは当事者でなければわからないことだろう。


 もしも知っているとしたら、関わっているシオン・アルヴァースのみだ。問いかけて答えるかはわからないが。


 目の前でシャルが赤い魔力装置を取り付ける。鏡の枠へ赤い光が灯ると、それまでは普通の鏡だった物が魔力装置へと変わった。


 映し出されたのは一人の女性。肩で切り揃えられた金色の髪に、エルフの血を引く証でもある尖った耳。特に目を引くのは真っ赤な瞳だろう。


「待たせたね、フィフィリス」


 穏やかな笑みを浮かべながらシャルが言えば、フィフィリスと呼ばれた女性も微笑む。


(ルフ君の家系……には見えないかなぁ)


 失礼かなと思いつつも、そのようなことを考えてしまう。これならグレンともうまくやれるだろうとまで思ったほどだ。


『英雄王の奥様にお会いできるのだから、これぐらいは待つわ』


 言葉の裏に、アクアがいなければ怒っていたと言われていることを知り、シャルは苦笑いを浮かべる。笑顔のまま罵詈雑言を言うのが彼女だと知っているから。


 見た目はきれいなハーフエルフだが、微笑みを浮かべながら毒を吐くのがフィフィリス・ぺドランという女性だと、彼は誰よりも知っている。


『改めまして、フィフィリス・ぺドランと申します。お会いできて光栄ですわ、アクア・フォーラン様』


 鏡に映る女性は優雅な動きをすると思った。しかし、アクアにもわかる。


(この人……強い)


 騎士ではない自分でもわかるほどに、この女性は強いとわかった。自分が知っているルフと比べても雲泥の差が出るほどに。


 この強さはどこからやってくるのだろうか。


「あたしのことを知ってるんだね」


『知っています。私は、このときを待っていたのですから』


 思わぬ言葉を言われ、アクアはどういう意味かと見る。このときを待っていたとは、まるでなにかが起きることを知っていたかのようではないか。


『アクア様、私は転生者です。あなたの大切な者に関わる、転生者なのです』


「あたしの大切な……」


 言われて真っ先に思いついたのは、自分の夫であるグレン。彼に関係のある人物で転生者と言われても、そこに関しては思いつかない。


 一体誰がいただろうかと思ったほどだ。


『英雄王だけではなく、太陽神とも関わりはあります』


 それは、一体どういうことなのか。知りたいと思っていた以上の情報に、アクアは言葉が出ない。







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