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話を聞かない相手は厄介だ


 帰りのHRも終わり放課後になる。

 以前だったら茜グループに無理やり遊びに連れて行かれたり……この学校の生徒会長に仕事を押し付けられて夜遅くまで残る毎日であった。


 チャイムが鳴ると同時に、佐藤さんの姿が消えていた……早!? 

 俺も早く帰るか……


「あ、祐希! カラオケ……」


 鮫島が茜を遮った。


「あいつはいらねえべ? 祐希のくせに調子乗ってんだよ。茜が構うから調子のるんだぜ。しばらく距離置いて様子見ろよ」


「で、でも……他の女子が放っておかな」

「ほら行くべ! きっとしばらくしたら孤独なボッチが寂しくて戻ってくるぜ!」


 リア充グループは女王である茜を盛り上げながら教室を出ていった。





 俺は心の中で溜息を吐いて、帰り支度をし始めた。

 ――HRが終わったら速攻帰る必要があるな。……よし、明日から実行だ!


 俺は席を立つ。

 突然人影が現れて俺は驚いてしまった!?


「おふ!?」


 全然気配しなかったんだけど!?


 俺の目の前に立っていたのは……ボッチ男子の高橋光たかはしひかり君であった。

 女子みたいに小柄な彼は、ボサボサな髪で顔が認識出来ない……。天パかな?

 でも……よく見ると……肌キレイだな。


「ど、どうした? 俺、何かした?」


 彼は小さく呟いた。


「……お姉ちゃんの落とし物を届けてくれたらしいな。ふん、ありがとう」


 偉そうな言葉とは裏腹にとても優しげな声であった。ていうか初めて声聞いた。

 ……しかしお姉ちゃんって? 落とし物……まさか……なんで俺ってわかったの??


「僕のお姉ちゃん、高橋可憐たかはしかれんは三つ編みメガネボッチだ。……あいつはまだまだ修行が足りん。……ところで、田中は何か運動してるのか?」


 高橋君の天パの奥にある目が光った。


「い、いや、運動はしてないけど……」


 プロレス技の実験台やゲームやアニメの技を一杯受けてたからな。身体は丈夫な方だ。


 高橋君は俺をジロジロ見て『ふむふむ……』『これは……悪くない』と呟きながら頬をピンクに染めていた。


「よく見えん……どれ」


 高橋君が前髪を少しだけ上げた。

 俺は衝撃を受けてしまった。

 キュートなくりくりな瞳が……可愛い……だと!? 恐ろしく整った顔をしているじゃないか!

 目と目が合ってしまった。


「「あ」」


 俺たちは同時に声を漏らす。

 沈黙が広がる。高橋君から良い匂いが漂って来る……女子みたいな匂いだな。





 俺が何か言おうとした時、教室に生徒会長の鮫島薫子さめじまかおるこが飛び込んで来た。

 ……生徒会長であり、リア充イケメンの鮫島の姉である。


「祐希ーー! 今日も仕事一杯あるよ!! ……ビッチ馴染みはいないわね……よし!」


 あれっ?

 高橋くんが一瞬で教室から消えてしまった。

 ……凄い。これがボッチの極み。


「祐希!! 何か反抗期なんだってな! そんなもの私がどうにかしてやる!! 二人っきりの生徒会室で……むふふ……」


 鮫島姉はボインボインである。

『美魔女』というあだ名の持ち主で、むっちりとした身体は生徒から絶大な人気を誇っていた。

 週に数回、俺を雑用としてこき使う。

 しかも分けわからん仕事が多かった……手伝う日は大抵夜遅くになってしまう。


 こいつは人の話を聞かない。自分の都合の良いように話をすり替える。可愛ければ何でも許してもらえると思っている。世界は自分中心で回っていると勘違いしているお嬢様だ。


 ――正直、茜よりも強敵だな。


 話が通じない奴の相手は難しい……相手のペースに引きずり込まれて、結局自分が一番損をする。


 何よりもこいつの俺に対するいじりはひどかった。

 ……全校生徒の前で俺を笑いものにした過去がある。


 もう俺はこいつの言うことを聞きたくない。だが、こいつは合気道をやってるから超強い。

 ……こいつは俺が何か言っても無駄だろう。正面突破も不可能だ。


 そういう奴は……


 俺は手提げカバンをリュックのように背負って、窓に足をかけた。


「ちょ、ちょ!? じ、自殺だめ!! 私の祐希が!!」


 ――うるさい、俺は逃げる。


 ここは二階だ。死ぬわけじゃない。

 俺は校舎の出っ張りとパイプを上手く使って、ヌルヌルと地上を目指す。

 そして、半階分の高さから飛び降りた。

 俺は漫画で学んだ五点着地を駆使して、花壇に転がり落ちる。


「きーー!! 待ちなさい!! 私の手から逃げるなんて!!」


 頭上からわめき声が聞こえる……以前だったらあいつが怖くて、命令は絶対だったけど……今は全然怖くない。

 着地と同時に俺は全速力で学校を脱出した。








 俺はコンビニのトイレで制服に着いたドロを落とす。

 ――ふう、今日も早く帰れそうだな。


 メガネを拭きながら思い出した事があった。


「本買わなきゃな」


 俺は商店街にある本屋さんを目指した。



 本屋さんに着くと、ちらほらとうちの生徒が確認できた。

 ……意外と少ないな。みんな本屋さんに行かないんだな。


 電子書籍もいいけど、やっぱり本は本屋さんで買って、紙触りや表紙を愛でながら楽しみたい。

 俺は奥のコーナーを目指す。

 普通の一般文芸も好きだけど、今朝三つ編みっ子が落としたラノベを見て閃いた。

 ……ボッチを題材にしてるラノベって結構あるよな。


 どうせだったら今の自分の状況にあった本を読みたい。

 俺はラノベコーナーにたどり着いた。





 そこには……今朝会った三つ編みっ子が、上の方の棚の本を取ろうとして頑張っている姿があった。


「うー、も、も少し。頑張れ、私!」


 小さな声で自分を鼓舞している。可愛らしい姿じゃないか……

 長いスカートが彼女の後方を鉄壁に守っている。安心して見てられる。


「ほっ、よっ、う〜、椅子借りるの恥ずかしいし……あ、きゃっ!?」


 三つ編みっ子がバランスを崩して後ろに倒れそうになってしまった!

 俺は考える前に動いた。


 片手で背中を支えてあげる。

 腕に三つ編みっ子の重さが伝わって来た。


 三つ編みっ子は目を閉じている……きっと衝撃に備えていたんだろうな。


「……あれれ? 痛くない? ……なんでだろ?? ……ふえ!?」


 やっと俺の存在に気がついた。

 俺はこれ以上女子の身体を触っているのはまずいと思って、ゆっくりと彼女の身体を起こしてあげた。


「ぷしゅ……ぷしゅ……顔が……近……あわわ……抱きしめられて……」


 いや、抱きしめてないぞ? 支えただけだぞ?


「大丈夫ですか? 怪我は無いですか?」


 壊れた振り子のように首をこくこくと振る三つ編みっ子。


「大丈夫でしゅ……あ、ありがとうございましゅ……あ、今朝の?」


「ええ、また会いましたね。……この本を取りたかったんですか?」


 俺は三つ編みっ子が取ろうとした本を取ってあげることにした。


「ほいっと……この『真性ボッチの聖女は婚約破棄返しを発動する』で大丈夫ですか?」


「は、恥ずかしいです……タ、タイトルは……読まないで……、合ってましゅ……」


「ええっと、俺もラノベ買おうと思っていたから、タイトルそんなに気にならないですよ。……あ、俺、同じ高校の田中って言います。よろしくです」


 三つ編みっ子は背筋をピンと伸ばした。


「ひゃい!? わ、私は高橋可憐です! 花の高校二年生! 好きなラノベは追放物です! いもう……弟も同じ学校に通ってましゅ!」


「ああ、俺と同じクラスの高橋君ですよね? あ、そうだ。俺あんまりラノベ詳しくないから、おすすめの作品教えてくれませんか?」


「ひぃ……リア充のコミュ力の高さ……恐るべきでしゅ……う、うゔん、ごほん、そ、それでは僭越ながら私が田中さんにオススメのラノベを……」


 高橋さんは段々饒舌になってきた。


「この作品のヒロインはすっごく可愛くて……」

「……ミステリー風のファンタジーで」

「恋愛物だったらこれが鉄板……、あっ……私……喋りすぎて……ごめんなさい」



 ふと、高橋さんの表情が暗くなる。

 好きな事を楽しそうに語る高橋さんはとても素敵だと思ったのに?


「気にしなくていいですよ。聞いてて楽しいですから!」


 高橋さんはポカンと口を開けていた。


「……キモくないんですか? わ、私オタクですよ? み、見た目もブサイクですし……みんなから……」


「え、キモい? ……そんな事を言う奴のほうが悪いんですよ。またラノベの事教えて下さいね!」


「え……あ……うん……。……っす……ねえ、田中くん、私……まだここにいるから……ぐすっ……先に帰っていいよ……」


 高橋さんはカバンからハンカチを取り出す。

 俺は高橋さんの雰囲気を見て、先に帰る事にした。


「高橋さん、じゃあ()()()!」


「〜〜〜〜!?」


 最後に見た高橋さんは嬉しそうに顔をくしゃくしゃにして、小さく手を振ってくれた。






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