初めてのデート
春休みなのに、今日の天気予報は雪であった。まるで真冬並の寒さ……。
俺は賑わっている駅前に一人立っていた。
「あち……」
凍えるような寒さの中だけど、俺は緊張で汗ばんでいた。
全然寒さを感じられない。むしろ暑い……。
俺は何度もスマホのメッセージを見る。
……特に返信は無い。
当たり前だ。待ち合わせは一時間後である。
それでも、彼女からのスマホのやり取りを見ているだけで心が和む。
「――終業式から会えなかったもんな。やっと今日……」
俺と佐藤さんは今日初めてのデートだ。
……以前は友達として、二人っきりでカフェに行ったりしていたけど……つ、つ、付き合ってからは初めてであった。
休みに入ると、佐藤さんは家の用事が忙しくて中々会うことが出来なかった。
それでも、今日は一週間前から約束していたデートの日。
……春休みの後半に、妹の岬とみんなで遊園地に行く予定で、今日はそれ用の洋服を見たり、一緒にカフェに行く予定である。
楽しみ過ぎて昨日の夜は眠れなかった――
俺はため息を吐きながら一人呟く。
「佐藤さん……今日からなんて呼べばいいのだろうか……。る、瑠香っと呼んだ方がいいのか?」
「……恥ずかし。……ゆ、ゆ……田中。お待たせ」
「え、佐藤さん!? 全然気が付かなかった!?」
佐藤さんは俺の横に突然現れた。
全く気配を感じなかった……相変わらず、すごい技術だ――
佐藤さんは俺の手を取る前に……「んっ……」と言いながら、俺に向き直った。
この服は――
俺と初めて駅前で待ち合わせした時の服であった。
ショートボブが似合う超絶美少女に驚いたもんな……。
あの時は、ただ可愛らしさに圧倒されていたけど、今は佐藤さんに対する愛おしさが込み上げてくる。
「佐藤さん、すごく可愛い――」
俺はほんのりと顔を赤くして……小声で俺に囁く。
「うん……手繋いで」
俺はその言葉に胸が高鳴る。
いつもとは違う、俺から繋ぐ手。ちょっとの事だけど……大きな違い。
「ああ、行こう!」
佐藤さんの手を優しく取って、俺達は歩き出した。佐藤さんの手はいつもよりも温かかった――
****************
この日のために俺はデートについて猛勉強した!
デート特集の本を読んだり、妹に相談したり……。
そして、俺は肩肘を張らずに普段通りの俺のままでいいんだ、という結論に至った。
無理して高級店に行く必要は無い。
慣れない場所に行く必要は無い。
背伸びする必要は無い。
俺たちは高校生だ。
いつもよりも、少しだけオシャレをして――二人が楽しめる場所に行けばいい。
――デートは順調であった。
俺たちはデパートの洋服売り場を回ったり――
「うーん、佐藤さんはスタイルがいいから……このワンピースなんてどう?」
「……悪くない、でも……ちょっと露出が……田中えっちぃ」
「あ!? そ、そ、そんなつもりはないから!」
「ふふ、冗談。それくらいは許容範囲内。……これにする」
カフェをはしごしたり――
「ここのパティスリーは食べローグ一位だって。佐藤さん的にはどう?」
「……あれは……店舗情報しか見ない。だって……お店はそんな数字では測れない。――もぐもぐ――もぐもぐ――美味しい」
「なるほど。何事も経験しなければわからないしな……うん、経験か……さ、佐藤さん……俺のムースも食べてみな!」
「……た、田中、た、食べさせてもらうのはレベルが高い」
「ほら、あーんして〜」
「うぅ……ぱくっ……もぐ、もぐ……お、美味しい……もぐ……んぐっ。……次は田中の番、あーん――」
「あ、いや、心の準備が!? さ、佐藤さん? ちょっと待って!!」
映画がデートの最後の締めくくりであった。
時間があったから街をゆっくりと歩いていた。
たまたまゲームセンターに通りかかった時、佐藤さんの動きが一瞬だけ止まったんだ。
視線の先には――UFOキャッチャーの中に、チンチラさんのぬいぐるみがいたのであった。
俺は立ち止まって佐藤さんに聞いてみた。
「ちょっと挑戦してみようか」
「……う、うん、でも……」
佐藤さんは足をもじもじさせている。
欲しいけどわがまま言えない子供みたいであった。
――俺の告白の時もそうだったけど……佐藤さんは何事も自分を抑えて、我慢をしすぎる性格だと思う。……いや、結構積極的だったけどさ、やっぱりギャル子に対しての罪悪感が――
優しすぎる性格……。
ボッチになってしまったのと関係あるのか?
……いつか聞かなきゃいけない。
――よし。
俺はすぐさま行動に移した。
佐藤さんの手を力強く引く。
「あっ――」
抵抗は全く無かった。俺たちはUFOキャッチャーの前にたどり着く。
そして――
「はい、やっと取れたね……」
長い戦いであった。
俺と佐藤さんは交代でクレーンを動かし続けた。
お目当ては大きくて真っ白なチンチラのぬいぐるみ。
佐藤さんは「むむっ」「あーーっ」とか珍しい声をあげながら楽しんでいた。
俺もそんな佐藤さんの姿が見れて嬉しい。
二人の協力のよって取れたチンチラぬいぐるみは佐藤さんの腕の中で抱かれていた。
佐藤さんはホクホク顔であった。
やっぱり、本当に欲しかったんだな――
俺は佐藤さんに聞いてみた。
「名前どうするの?」
「――?」
佐藤さんは首をコテンと傾げる。
全く意味を理解していない様子であった。
「そのぬいぐるみの名前。それは佐藤さんのだよ」
「……違う、二人で取ったぬいぐるみ……。これは二人のもの」
「そっか……じゃあ、佐藤さん、預かってもらえるか? 名前は二人で考えようか?」
佐藤さんはコクコクと頷く。
「――名前……ユーキ」
「ごほっ、ごほっ!?」
思わず咳き込んでしまった。
「そ、それは俺の名前だって!?」
「……む、練習必要」
「あ、ああ、わ、わかった……。あっ! え、映画の時間が――」
「――急ぐ」
佐藤さんは俺に体当たりするように腕にしがみついて来た。
ぬいぐるみは大事そうにもう片方の手で抱えている。
「……ユーキ。へへっ……」
佐藤さんはぬいぐるみに語りかけているのか、俺に言っているのか分からなかった。
俺は、そんな佐藤さんを見るだけで――俺は幸せであった。
少しずつみんな登場します!
新作です。
「ツンデレ幼馴染の後悔を無くすために、俺は三ヶ月前に戻った!」
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