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幼馴染におもちゃにされた俺はボッチを目指す いじられキャラは卒業です  作者: 野良うさぎ(うさこ)
一章

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13/37

危険には自ら近付くな

 俺はクラス一番のリア充でイケメンの鮫島だ。

 今日も俺の周りには扱いやすいバカ共が集まる。


「なあ、鮫〜、カラオケ行こうぜ! 茜たちも誘ってさ〜」


「……わりぃ、今日は姉ちゃんに呼ばれてんだ! 明日にすっか!」


「そっか……じゃあ仕方ねえな! しかし鮫の姉ちゃんって超美人だよな〜」


「あん? あいつはがさつで男っ気なくて全然だぜ」


 俺は適当に会話を流して教室を観察する。一番後ろの席を陣取っているから教室の全体が把握しやすい。

 クラスメイトたちが賑わっている昼休み。

 殆どの生徒はこの教室で昼飯を食べていた。……一部を除いてな。


 祐希と……地味な女子がいない。……地味な女子って名前なんだっけ? まあいいか。


 一見普通な光景に見えるけど、祐希に対する愚痴と、あいつをどうやってクラスから追い出そう、って楽しそうに話してやがる。

 クラスのおもちゃが復活した。次は壊してもいい。何してもいい。

 でも怒らせると怖いからみんなで協力してやろう。

 あいつの暴力がそんな免罪符を与えてしまった。


 ――バカ共が。裏でしかコソコソできない奴らが。祐希の本当の怖さを知らんだろ? まあ、こいつらは俺にとって単純で動かしやすい駒だ。


 祐希の目を見ろ。あいつの目はこの状況を微塵も辛いと思ってなかったぞ。

 俺に机を投げた時も、全く感情が感じられなかった。……あれは本気で相手にしちゃまずい。


 祐希の事を考えると、胸の奥底がチクチクと疼く。わけもわからない不安に駆られる。

 かっこいいのは元から知ってる。あいつは気弱なだけで、かなりハイスペックなやつだ。


 俺は姉貴を見習って、人を見る目と集団の空気感を操る事が得意であった。俺は入学して、真っ先に祐希と仲良くなって、利用することにした。

 幸い、祐希に惚れてる茜もいたからな。これでクラスの俺の地位は鉄板になった。


 祐希は、おとなしくて、文句も言わなくて、それでいて人を好きにさせる魅力があった。

 ……いじられキャラにはピッタリであった。

 あいつがいることによってクラスの空気が最高の状態になっていたのに……。

 そして、あいつがいたから茜グループが、俺たちのグループと仲良くなれたんだ。


 くそっ、勝手に抜けやがって……。


 どうにかこっち側に引き戻してやろうと試みたが、無駄足に終わった。


 ――ふん、あいつが勝手に切れてくれたおかげで、味方がたくさん増えたぜ。


 今や祐希はクラス全体で排除の対象となっていた。

 いじめよりも残酷な状態だ。俺が直接手を下さなくてもあいつは勝手に落ちていくはずだ……多分……きっと……。まあ、俺がこの状況を作ったんだがな。リア充の俺が、カースト底辺に話しかけるとしっぽを振って喜ぶ。はんっ。



 脳裏に祐希とファミレスで話した思い出が蘇る。その中の祐希は楽しそうに俺と喋っていた。

 ……わかってんだよ。俺たちがやりすぎたって。

 でもな、俺もこのクラスでの立場があるんだ。俺は……そっちのほうが大事だ。


 

 俺は自分を頂点として、クラスが自分の思い通りに平穏に回ればそれでいい。そこに祐希がいてもいなくても。



 さて、不安定な茜のご機嫌でも取ってくるか。

 ……なんで俺は茜の事が好きだったのかもうわからん。


 今の茜は……嫉妬に狂った醜い豚にしか見えん。

 拗らせてんだよ、こいつは。もっと素直になればよかったのに。

 はぁ〜。


 姉貴と会うの嫌だな。あいつ……俺の事をいじりすぎるから……。

 気晴らしすっか。


「よしゃー、山田! 田淵と一緒にうほれよ! ――茜っ! 山田が遊びたいってさ!」


 欺瞞に満ちた日常を楽しもうぜ! 






 ***********






「可憐ちゃん、お仕事お疲れ様! 今日も素敵だったわよん!」


「はい、ありがとうございます。……また来週お願いします」


 私、高橋可憐はスタジオから出て、お家に戻ることにした。

 お仕事中の私は、全然緊張しない。大人の人と喋るのはとても楽しかった。


 今日も忙しかったよ〜、ふう、夕方から仕事で良かった。学校行けたもんね。


 頭の中で、祐希君の姿が思い浮かぶ。


 私は頭をブンブンと振った。

 勘違いしちゃだめ! 私はボッチでオタクで陰キャなんだから! 祐希君みたいにリア充じゃないのよ!?


 ――妄想の祐希君と私は、手を繫ぎながら本屋さんデートをしていた。

 背が高くて、意外と腕がたくましい祐希君はイケメンさん。

 私は……いつものダサい格好じゃなくて、仕事着を着てお化粧をしておしゃれさんになっていた――


 ――ぷすーっ!? 違うわ! わ、私は祐希君の事……弟みたいに、可愛いなって……。


 うん、これは恋とか愛じゃないはず。

 ……でも祐希君は私の大切な……友達? かな。


 私は自分の見た目が嫌いだった。男子から見られるイヤらしい視線。それが大嫌いだった。

 人に見られても大丈夫になるために、違う自分を作る事にした。

 この仕事の時の私は、私であって、私じゃない。……ブサイクな自分ときらびやかな自分。どっちが本当の自分か……もうよくわからない。




 ――祐希君は違った。


 私の気持ち悪い所を見ても、嫌悪感を感じられない。

 すっごく自然体で接してくれる。彼から温かい好意の感情を感じるけど、それは人への敬意だ。

 恋愛的な好きとかじゃない。人を大事にする心……。


 ……祐希君がボッチでいじめられるなんて嫌だな。


 だって……祐希君、これ以上壊れたら……。


 祐希君の事を考えると、私の胸がトゥクンと高鳴る。

 大丈夫、これは恋じゃない……。……それに私はそんなにチョロくないの。


「うん、祐希君、私……守るよ……」


 普段は言わない名前を呼ぶ。






 そんな事を考えていたら、隣から祐希君みたいな良い匂いがしてきた。


「ねえ、高橋さん? 俺がどうしたの? 名前で呼ばれるの初めてですね」


「ぷしゅーーーー!? た、田中君!? な、なんでここにーー?」


 学生服を着た祐希君は朝と一緒でとても素敵であった。

 無表情だけど、たまに見せてくれる笑顔がとても可愛い……。

 怖そうに見えるけど、雰囲気がとても柔らかい。ぷすっ、胸がドキドキする。


 うぅ……き、聞かれちゃったかな? ……あっ、そんな事より私仕事着だよ、今!

 眼鏡じゃなくてコンタクト!? 全然いつもと格好が違うよ!? どうしよう? あわわ……。


 ああ、もしかして……光の罠?

 私は祐希君に聞いてみた。


「ね、ねえ田中君、なんでここにいるの?」


「ああ、光から聞いたんです。なんか高橋さんがバイト帰りで一人だから、家まで送れって」


「ひ、光!! ――はぁはぁ……あれ、わ、私いつもと全然違う姿だけど、なんで分かったの? 光からなにか聞いたのかな?」


「え? 聞いてませんよ。――高橋さんは高橋さんです。高橋さん以外ありえないでしょ? だってそれが高橋さんですし」


 ――ちょっと、頭が混乱しすぎるから高橋さん連呼しないで〜!?


「た、田中君!」


「は、はい」


「わ、私の姿、変じゃない?」


「うーん、コンタクトで、モデル系の服を着てて、髪が綺麗なストレートになってる位かな? ――可愛いですよ? あ、いつもの格好も愛らしくて好きですよ」


「――ぷすーっ、ぷすーっ!!!」


「は、鼻息ですか!?」


 い、い、い、いつもの私が好き!? ちょちょちょ、待ってください! 今の私は綺麗だと自負してます! でも、普段の私が可愛いって、でゅふふ、ふふ、ふふっ……。


 私は浮かれてフラフラとよろめいてしまう。

 あっ!?

 足がもつれて、バランスを崩してしまった!?


 転んじゃう!? 


「――大丈夫ですか」


 祐希君の力強い手が……私の手を掴む。


「あ、ありがとう……きゅぅ」


 しっかりと私の手を握りしめてくれた。

 心地よい力で私の手を包み込んでくれる。


「ここは人ごみですから、あっちまで手を繋ぎましょう! ほら、行きますよ」


「ふぇ!? う、う、うん……そうね……人混みじゃ仕方ないね……」


「ふふ、本屋寄ってきますか?」


「……いいの? ちょうど今日、『宿屋の息子は眼鏡女子と死に戻り』が発売なんだよ! 行こ!」


「はいっ!」


 祐希君は私にめったに見せない笑顔をくれた。

 その笑顔は私の胸の何かを撃ち抜く。


 ……祐希君……あなたを一人ぼっちにはさせないよ。




 私は歩きながらスマホを取り出して、ささっとグループメッセージを送る!



 ――私達が……祐希君の居場所を作るの!!




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