8話-人も歩けば災難にあたる-
昼を前にしてショッピングモールに響き渡った爆発音。
「アホかサツミッ!!射的でロケランぶっ放す奴がどこにいんだよッ!!!」
「えぇ~?だって全部欲しいんだもん」
「欲しいってお前!・・・見る影も形も何もかもが消し飛んで跡形も無いわ!」
「ありゃ~」
「"ありゃ~"じゃねぇよ!!」
今日は私を合わせて、アナミ、サツミ、ママの4人でのお出掛けだ。このショッピングモールでは日々絶え間なくいろいろなイベントショーや出店が幅広く展開されている。ママもサツミが喜ぶと思い連れて来たのだろうけど・・・完全にハメを外させ過ぎだ。万が一の事を考え家を出る前にサツミのコートからはありったけの武装を没収してやったつもりだったが、どうやら効果は薄かったようだ。
「おい貴様、何をそんなマヌケ面をしている」
「黙りやがらねぇとその財布返してもらうぞアナミ」
アナミはアナミで私から取り上げた財布を好き勝手に使い歩き食いをしてる始末だ。
「ああ、返してやってもいいぞ?必要なのは中身だけだからな」
「こんちくしょーが…食い意地の張った奴め。少しは気を使えよな・・・」
「なんで私が貴様などに気を使わなければならないんだ。そもそも貴様の物は私の物であり私の物は…っ」
「同じ人間でも個人個人として生きている以上それは通じないし!」
「そうか、そこまで言うなら力ずくで奪い取ってみるか?口だけの常識がいかに無力で意味の無いクソか一瞬で理解できるぞ」
「このやろー・・・」
本当、コイツの態度は出会った時から変わらず大きく傲慢だ。一体どんな教育を受けてきたのか親の顔が見てみたいものだ。
「ところで貴様」
「んだよ…」
「サツミが玉入れゲームで然り気無くダイナマイトを放り込んでるが、アレは止めなくていいのか?」
「・・・っ!?サツミィィィイイッ!!!ストォォオップッ!!!」
「ふん、落ち着きの無い奴め。はむっ…」
ボゴォォォォォオンッ!!!!!
やはり、その光景を組織は気付かれぬよう監視していた。
「どうだ?対象の様子は」
「はい、これといって問題は・・・っ」
サツミ:『けほッ…ペッ!歯が二つ無くなちゃった。んがぁ~…口の中コゲたぁ~』
ミイラ:『命が無くなりかけたわッ!!ママも止めてよ!』
ママ:『あら?これ何かの演出じゃないの?』
「問題・・・だらけのようだな・・・」
モニターを見つめる監視員たちにスーツをきっちりと着こなす男の存在。そう、ここは『ワイルド・サーガ』総本部。莫大な予算を掛け、現代科学の結晶とも言える技術力を取り入れた施設だ。極秘事情が大半を締めている為か、世間一般的に知られている活動内容は"対テロリスト部隊"だという事だけなのだが、噂では相手が一般人にも関わらずデモ隊を過剰なやり方で鎮圧したなど、異世界を裏から操り汚い手口で莫大な予算を此方へ流しているなど、いろいろな悪い話しが飛び交っているのが現状だ。
「ところでヤブキ指揮官。そろそろリェクスが帰還するそうですよ?リウェナからの報告を受け取りました」
「なに!?与えた別世界でのミッションはどうした!?」
「もう済ませたとの事です」
「っんなバカな!少なくとも200年は続いていた戦争だぞ!まさか、それをたった2週間で終わらせたのか・・・」
「そのようですね。報告書を見る限りでは、解決したというよりも強引に終焉させたとの事ですが・・・やはり序列一位の座は伊達ではありませんでしたね」
「うっ…総本部にまたあの傍若無人な女王様が居座る事になるのか…胃が痛くなるよホント・・・」
「指揮官もパシりに逆戻りですか」
「はぁ、厄介払い先をまた考えねばな…後は任せる。目標の監視を怠るなよ」
「了解です」
「あっ、それとだな。なにかあれば待機させてあるクウを出動させろ。どうせゲームばかりしてまともに働いてないだろアイツは」
「彼女なら三日間のオールの末、爆睡中ですが」
「叩き起こせ…なんなら炸裂アラームを使っても構わん」
「いえ、それは難しいかと。クウの今寝ている部屋、ディンキャーの居る真隣の部屋なんですよね。炸裂アラームなんて使ったらせっかく寝付いた彼女もろとも起こしてしまいますが」
「それは絶対にダメだ!!クウの奴…考えたな・・・」
「まぁ、その時になったら直接出向いて起こしますので御安心を」
「ああ、頼むよ。念押しするが間違っても絶対にディンキャーだけは起こさないようにな。アイツの機嫌を取るのにこれ以上の隊員は犠牲に出来ん」
「大袈裟ですよ。たかが遊び相手にされて『なでしこ異療部隊』送りになっただけじゃないですか」
「遊び相手というか…木っ端微塵の粉にされてたけどな・・・」
「でしたっけ?なら、それを元通りに治せるエタナ隊長の伝説も本当だったりするんですかね?」
「なんだ知らないのか?あれは本当だぞ?」
「んな!?・・・マジですか」
「まあいい、後は任せる」
ヤブキ指揮官と呼ばれるこの男。のし掛かる不安と苦労、自らの立場に悪戦苦闘を強いられていた。なにせ常識的範疇に収まる人間が殆ど居ない事に加えそんな彼ら達を巧みに操り仕事をこなさなければならないのだ。まさに、外れくじを引いた指令幹部補佐だ。特に序列一位でもあるリェクスに彼は最も手を焼いており、何かにつけて彼女を厄介払いしたがっている。
「くしゅっ!!」
「ん?リェクス様、体調でも崩されましたか?」
そんな彼女は今、焼け野はらと化した大地へと腰を下ろす。
「あぁ~…かもな。バカみてぇに力を無駄遣いしすぎたか?」
「まったく、はしゃぎ過ぎは身体に毒ですよ。帰還したら一度エタナ様に見てもらっては?」
「冗談言うなよリウェナ。アイツに頼んだら何されるか分かったもんじゃねぇ」
「クスッ…やはり怖いのですね。トラウマというヤツですか?」
「・・・あぁん?」
「いえ、エタナ様に挑んでは叩きのめされていたあの頃の貴方様がつい懐かしくて」
「チッ…いつの話ししてんだテメェ」
「まぁ、それはそれとして。任務も大幅時間余りしてしまいましたし、本当にしばらくは身体を休ませた方がよろしいですよ。只でさへ貴方様の力は異質で未知数な部分が大半を締めています。暴走されてはもう私の力で止める事はできませんよ」
「わーってるよ!だが、表のスケジュール次第ってところだな。あっちの仕事は何があっても休めねぇんだよ」
「ダメです。『グローリー滅殺部隊』の隊長である貴方様がそのような自分勝手では他のメンバーに示しがつきません」
「他のメンバーってお前…俺らの部隊はそもそも少数精鋭だろうが。在籍してんのは俺にお前、狂風乱戦兄妹の二人だけだろ」
「その二人にきっちりとしたリーダー像を見せてあげて下さい、そう言っているのです。言動から行動、その他まで貴方様に似てきています。私の苦労も考えろとまでは言いませんが少しは…」
「あぁ、もういい帰るぞ!ここに居たらお前の説教が永遠に続く気がするわ」
「むっ…」
「・・・そんないじけるなよ…ほら、早く帰るぞ」
一方で、二人の帰還を待つ本部では。
「総本部での大事な会議なんて全くの嘘じゃない!早く帰るわよ!!いや、昼からでも学校に連れて行きます!!」
「引っ張るんじゃねぇよママ~!」
「オレたちにはリェクスの姉御を待つという大事な任務があんだバカヤローっ!」
「親に向かって・・・っ!ダメなものはダメです!羽子!蓮大!言う事を聞きなさい!」
「オレは蓮大じゃない!ここでは狂風乱戦の『デッドガン』だ!」
「私だって羽子じゃねぇもん!狂風乱戦の『ミラートレス』だもん!」
「いいえ!ママの前では羽子と連大です!」
リェクスの帰還を心待にしている狂風乱戦兄妹が母親相手に親子の攻防戦を繰り広げていた。そこには苦笑いを浮かべるヤブキの姿もあった。
「ま、まぁまぁリコハ先輩…もうその辺で」
「貴方は黙ってなさいヤブキ!ていうか、貴方も手伝いなさい」
「えっ…」
「何?私がもうワイルド・サーガをやめたからってあの恩を忘れた訳でもないでしょ~?早く手伝いなさい!」
「は、はい…」
ヤブキに休まる暇などこれっぽっちも無かった。
時を同じくして。
「油断した…」
ミイラは不運にも最悪な状況に陥ってしまっていた。辺りを見渡す限りでは先程までと変わらぬショッピングモールの風景が広がっているのだが、明らかに違うのは周囲の人々による言動やその他の行動だ。阿鼻叫喚の嵐がこれでもかと店内にて轟いている。
「こんな時についてねぇ・・・」
この空間、言うなれば裏世界と呼ばれる異空間世界の一種で、人間に潜む裏の顔や性格を忠実に映し出し再現ている。欲の全てが噴水の如く吹き出している空間故に囚われてしまえば最悪、精神をやられかねないとまで言われている真っ黒に染まる闇の世界だ。向こう側からは裏世界の人間を認識すら出来ず、しかも表世界では"ミイラが居た"という事実すら無くなっている始末だ。
「そして迷子のウチ…情けないったらありゃしないやね・・・」
ミイラは虚しく裏世界をさ迷う事しか出来なかった。激しく響き渡る罵倒が耳を不愉快にし、返り血が頬へと付着する。そんな現状にも彼女は周囲の狂いに一切の感心を持たず気にする素振りすら見せないまま歩くのだった。だが、そんな状況化で出会った運命的再会がミイラを更なる最悪へと落としにかかる。
「はっ?…」
「えっ?…」
見覚えのあるチビッこい容姿がミイラの記憶を掘り返してゆく。うねったカール型の金髪にクリっとした瞳。色鮮やかなドレスを身に纏う全体像はアイツだと認識するのに十分な情報量であった。
「糞ドールッ!!?」「糞ガキッ!!?」
不運にも最悪な場所で、しかも最悪な殺人鬼との再会を果たしてしまったのだ。
「何でお前がここに!?ここ裏世界だぞ!?」
「あんたこそ何でここにいんのよ!!ここ裏世界よ!?」
「・・・あっ、まさかお前も迷子?なんだ奇遇じゃん」
「んな訳ないじゃない!って、あんた迷子なの?プププ…ダサっ」
「ぐぬ…腹立つなぁ。ところでお前、迷子じゃないって事はま~た変な事企んでんな?」
「だとしても言わねぇし!取り敢えずガキはここで死んどきな!!」
ペンダントを取り出した貴婦人ドールはその力の矛先をミイラへと差し向けた。歪んだ異次元ホールを作り出し、漆黒の奥底から呼び寄せるは異様な姿を模した怪神。
「え~…マジですか・・・」
「ァ"ァ"ァ"ア"ア"ア"ア"ア"ッ!!!!」
「アイツを喰らいなさい!落虜呪十ノ天使ガノプエルヴ!!」
それは、天使というにはあまりにも悪魔的で、怪人というよりは黒くおぞましい怨念そのものだった。業火のように吹き荒れる長髪からチラチラと覗かせる鬼の形相に禍々しい全体造形。這いずり出てくる様子がいっそう恐怖感や薄気味悪さを演出する。まるでホラー映画でよく見るアレだ。
「うげ!キモッ!!」
「くふふ…捕らえた天使をベースに複数の悪魔や人間、更には怨念や苦しみといった感情と欲全てをぐちゃぐちゃにブチ込んで融合させたハイブリッド神種『ガノプエルヴ』…見た目に難有りといったところでしょうが、恐怖を与えるには都合がいいわね」
「キャウァ"ァ"ァ"ア"ア"ア"ーッ!!!!」
「こ、この野郎~…か弱い女の子一人にそこまでするか哀れな糞人形め。これだからお前という奴は・・・所詮お前なんだよ」
「・・・毎度毎度一言多いんだよ糞ガキがぁぁぁあああッ!!!!殺れガノプエルヴッ!!!」
「お前こそ!毎度毎度キレ方が単調なんだよッ!!逃げろウチィィィイッ!!!」
「キ"エ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ア"ア"ッ!!!」
「キモいキモいキモいキモいキモいッ!!!マジ来んなってッ!!」
「キヒヒ!力の無いアンタじゃ自力でこの世界からの脱出は不可能!袋のネズミだわ!!」
「何!?袋の何だって!?聞こえないからその化け物何処かにやってくんないッ!!?」
「お黙り!ウジ虫がッ!!」
「何!?ウジ虫が何だって!?全然聞こえませーんッ!!」
「むきーッ!!!バカにしやがってー!!」
障害物があちらこちらに肩身を寄せあっている関係上、ミイラは逃げる事に対してそこまで難を強いられる事はなかった。人混みの多さも相まって逆に片っ端から邪魔になるモノを払いのけながら追い掛けなければならない貴婦人ドールとガノプエルヴの方こそが苦難と言えるだろう。吹き飛ばされる人々、崩れる商品の棚、そしてオブジェクト。全てがミイラの味方をしているのだ。
「(小さい頃からママに連れて来られてたんだ!建物の構造は把握してる!地形戦なら…ウチが有利!)」
「ガノプエルヴ!そこの左角を曲がれ!奴が逃げるのを確認した!」
「だぁーもぅっ!しっつこいなぁ!」
その時。
「うぐわぁッ!」
余所見をしていたせいでミイラは何かに躓き転倒しまう。
「いってぇ~…何なんだよこんな時に!!」
苛立ちと共に躓いた原因ともいえる足元へ彼女は目線を向けた。
『キャハハハハハハハッ!!』
「・・・っなにやってんの、コイツ」
そこには仰向けに倒れ大いに笑いはしゃぐサツミの姿が。まぶたを見開き両腕は地面に叩き付けていたせいか大量の血液が真っ赤に腕を染め上げている。
「なに、怖い怖い怖い!…どういう闇抱えてんのコイツ」
いや、悠長にサツミを眺めている場合ではない。すぐそこまで奴らは来ているのだ。しかし、どう考えてもこのままではミイラの方がじり貧になってしまうのは明白だった。この裏世界から出られない以上、逃げる為の体力が底をついてしまえばそれこそゲームオーバーなのだから。
「んん~、どうしたものか。せめて太打ち出来る何かがあればなぁ・・・んっ?太刀?・・・それだよ!ここにあんじゃんっ!!」
それから少し遅れて貴婦人ドールを乗せたガノプエルヴがミイラの元へと到着した。
「みーつけた!って、それはどういうつもりかしらね?」
「嫌な思い出が過るだろ?糞ドールさんよー!」
そこには逃げる事無く堂々と通路に立ちはだかってニヤけるミイラの姿があった。先程までとうって変わって雰囲気が違う。いや、雰囲気というよりも容姿そのものが変わっているというべきか。
「キヒヒ…全く迫力がないね。私がそんなもので怖がるとでも?」
そう、サツミから脱がせたフードコートを身に纏い自信げに仁王立ちする彼女がそには居たのだ。
「ここからは鬼ごっこじゃない。鬼同士のシバき合いじゃぁぁああいッ!!!」
「キャオラア"ア"ア"ア"ア"ア"ッ!!!」
「こいや化け物がぁーッ!!」
覚えている限りの記憶を呼び起こし、見様見真似でコート内をまさぐったミイラが手にした化け物への対抗手段。
「(重っ…!)」
あの魔改造を施されたサツミお手製のロケットランチャーである。
「くたばれFire」
引き金を引いた瞬間、あまりの威力にミイラ自身もその強すぎる反動に耐えきれずその場から吹き飛んでしまった。
「ガノプエルヴ交わせッ!!」
方やそれを華麗に回避したガノプエルヴは飛んだ先の壁を踏み台に直ぐ様攻撃に転じようとするが、ミイラの姿が無い事に一瞬戸惑いつつも冷静に嗅覚を効かせて獲物の位置を探り当てる。一方でミイラは吹き飛んだ先の衣料品店内にて自らが突き破ってしまった窓ガラスの破片に埋もれていた。
「ハっ!ここは何処!ワッチュアネーム!」
だが、あれ程までの勢いで窓ガラスに衝突したにも関わらず不思議な事に痛みもさほど感じなければ大した傷も負ってはいなかった。
「あら、あんまし痛くない。まさかこのコートのおかげなのでは?」
「ギャオラァァアア!!」
「あ、やっべ!」
そこに猛烈なスピードで迫り来る悪意の流星。それが着地と同時に衝撃波を巻き起こさせ棚や衣服を宙へと舞い上がらせた。
「あら、中々いい服が揃ってるじゃない。でも、薄汚い糞ガキのあんたじゃあ大人の美しさは豚に真珠よ」
「けっ!元から趣味じゃないっての・・・!」
掴んだ衣服をガノプエルヴの顔に投げ付けたミイラは咄嗟にそれらを目眩ましに逃走を計ろうとすひが、抵抗虚しく暴れ狂うガノプエルヴの重い振り払い攻撃によって全身を強打してしまい再び窓ガラスを突き破って五階から一直線に三階の地面へと叩き付けられてしまった。
「うぐっ…!」
「そのままぺしゃんこになるがいいわ!!ガノプエルヴ踏み潰せ!!」
あの高さから、しかもあの巨体を生かしたのし掛かりなどまともに食らおうものなら例えサツミの特殊なコートを着ていても生身が何の訓練も受けていない少女であれば一発でアウト。
「こ、このぉ…ナメるなよクソヤローが・・・」
痛みがギシギシとまるで拘束具を付けられているかのような感覚で身体から自由を奪っていく中で彼女が何とか取り出したモノは手の平に収まる程度の極々普通の手榴弾であった。これをダイブしてくる相手目掛けて投げ付ける気なのか、はた又は確実に仕留められるよう衝突する寸前に起爆させ自分もろとも爆発させる気なのか。否、自身と相手との距離があと数十メートルまで近づいた瞬間、彼女はピンを口で引き抜き自身の側へと軽く放り投げたのだ。そして、爆発したそれはミイラをその場から横へと吹き飛ばしガノプエルヴの一撃を寸でのところで回避させたのだ。
「はぁっ!?」
これには貴婦人ドールも驚きの表情を隠せなかった。そして、当の本人はというと、爆風の影響で回転する身体に制御が掛けれずその身体を地に弾かれながらも何度か宙を舞ったところでようやく静止。おぼつかない足取りで何とか立ち上がろうとするミイラの目はまだ諦めてはいなかった。
「ハァ…ハァ…ハァ…あっぶねぇ・・・こんなところで死んだら洒落になんねぇよマジで・・・」
「本当にしぶとい奴ねあんたわ!無力のクセに無駄な抵抗しないの!見苦しいわよ!」
「存在自体が見苦しいお前にだけは言われたくないんだよ・・・」
「何ですってぇッ!?存在云々だったらマジでお前にだけは言われたくないわ生きた化石めが!太古の異物!原始人女!ミイラの名に相応しくお前はさっさと博物館にでも帰って大人しく見世物やってろバーカァ!」
「・・・カッチーン…とうとう言いやがったなてめぇ・・・悪口でも言っていい事と悪い事が・・・っ」
「はぁ!?何ぃ!?ひょっとして気にしてたのぉ!?アハハハハハ!!そりゃそうよね!そんな気色悪い名前付けられたら誰だって気にするでしょうね!ナハハハハ!!」
「・・・ぐぐっ…絶殺すッ!!」
一本に繋がる糸がミイラの中でブチッと引きちぎれた瞬間だった。思い出したくもない嫌な過去の出来事と共に噴火する怒りの感情は未だかつてない程に大きくそして荒々しい憤怒の高波を目覚めさせる。言うなれば、貴婦人ドールは彼女の最も触れてはならない地雷を思い切り踏んでしまったという事だ。頭に血が上ったミイラは感情任せに取り出したガトリングガンを真っ正面に構えそのトリガーを躊躇なく引いた。それによって円を描くように束ねられた無数の銃身がスピンアップと呼ばれる規定の回転数まで回転力を上げる準備動作を行い0.5秒後、高速回転に達したそれは凄まじく轟く銃声と共に光を帯びた鉛弾を猛スピードで弾き飛ばし貴婦人ドール目掛けて怒りの鉄槌を放出させたのだ。手動式とは比べ物にならない程の発射レートを生み出す電動モーター式の射的間隔はさながら一筋に伸びるレーザービームのようであった。
「ウチはそっちのミイラじゃねぇぇえッ!!古高美唯来じゃいボケェぇえッ!!!」
「んなのどんだけ撃っても当たんねぇよッ!キャキャキャキャ!!」
「逃げてんじゃねぇぞゴラァッ!!」
ひたすらに無我夢中で撃ちまくるミイラの足元には空になった薬莢が山の様に積み上げられ、その頃には摩擦熱と火薬の燃焼による高熱によって銃身は真っ赤な色を帯び異質に変形、武器としてはあまりにも不十分な性能にまで低下していた。その間に放たれた弾丸の数おおよそ6000発以上。それでもミイラの怒りは収まるどころか興奮状態で分泌されるエンドルフィンの影響も相まって更なる感情の昂りを露にする。
「チッ…クソがッ!!」
使い物にならなくなったガトリングガンを地面に叩き付ける彼女の姿に貴婦人ドールはニヤケ面を浮かべながら中指を立て「殺れ」の一言でガノプエルヴは野性的な機動力で壁を伝い柱やオブジェクトに至るまでを軽快な身のこなしで飛び回り着地と同時に全速力でミイラに襲い掛かった。
「お前との因縁もここまでのようだなミイラァァアッ!!」
「やってみろやクソヤローがぁぁあッ!!!」
それに合わせて彼女も又、一歩も怯む事なく相手に立ち向かっていった。その手には折れて尚鋭い威圧感を放つあの太刀が握られているが、どう転んでもこの力の差がひっくり返る事はないだろう。そもそもなにもかもが生物的にかけ離れ過ぎている両者なのだ、ただの人間であるミイラに勝ち目などあるはずもない。そんな現実が彼女に突き付けられようとしたその時、間一髪のところで見知らぬ何者かの鉄拳制裁がミイラの背後からガノプエルヴの顔面ど真ん中を見事に捉え重量感ある巨体をいとも簡単に吹き飛ばしてしまったのだ。そのままミイラを抱き抱えひとっ飛びで一旦敵との距離を取った謎の人物は彼女を安全な後方まで運ぶと自身は再び戦場へと降り立った。
「ぐぬぉ~…早くどけガノプエルヴ!私がつぶれる~!」
「お前は確か、報告書にあった呪いの人形か?」
「クハっ…誰だてめぇッ!!」
それは遡る事数十分前・・・。
指令室に繋がるテレポータルからフラフラとした足取りで姿を現す全身黒いスエット姿の少女。その少女は寝癖の付いた髪の毛を靡かせながら中央の指揮官専用であろう椅子を陣取り大きなあくびをする。
「クウ、丁度良いところに!あなたを呼びに行くところだったの!」
赤いランプが騒然と鳴り響く司令室。なにやら各監視員たちが慌てた様子でモニターに向かい合いピアノを弾くが如く手捌きで状況把握を行っていた。
「なんよ。随分と騒がしいじゃんか」
「監視対象の一人が消失。おそらくは裏世界に迷い込んだものかと」
「裏世界?メモリーシステムでリスト保存されとる隊員ならまだしも、一般人の消失によく気付いたもんじゃな」
「ええ、万が一の事を考えて古高ミイラが不振な動きをしていないかを録画映像で見直しては厳しくチェックしていたの。そしたら不自然にもスキップされたフレームが気になって、よくよく調べてみたら・・・」
「なるほどね。その部分におったはずの一人がおらんくなっとったと」
「今すぐ出れるわね?クウ」
そして現在に至る。
「ワイルド・サーガ所属。序列十八位、転生幽鬼クウ。相手になっちゃるよ、ガラクタ」