4話-重なる不幸の連鎖-
あれ、何で僕は机に向かって座っているの?・・・それにここは僕が育った家・・・うぐっ!・・・頭が響く・・・ノイズが・・・走り回る・・・。
『ミイラ、今日のご飯は何がいい?』
黙・・・れ。
『ほら、ハンバーグよぉ?いっぱい食べなさいね』
黙れ黙れ・・・消えろッ!!
『・・・酷いじゃないミイラ。お皿が落ちちゃったわ。美味しいハンバーグが台無しね』
もうあんたはいないッ!!ハンバーグなんて無いッ!!全部無くなったんだッ!!無くなった無くなった無くなった無くなった無くなった無くなった無くなった無くなった無くなったッ!!
『無くならないわよ。貴方への怨み』
「ママッ!!」
点灯していたノイズ紛れの映像は"ママ"という彼女の叫びを引き金にスッと途絶えた。単なる脳内バグによる幻覚作用だったのか、あるいは現実だったのか。
「あっれ~?美味しそうな匂いがしたと思ったら何で僕はここに居るのだ~?グフフ…懐かしいなぁー!楽しいなぁー!僕の家なのだぁーッ!!ギャハハハ!」
どちらにせよ、今の壊れた彼女にはそれを考える余地など存在しなかった。
「お腹空いたぁー!・・・お腹空いたぁー!・・・お腹空いたぁー!・・・お腹空いたぁー!・・・お腹空いたぁー!・・・お腹空いたぁー!・・・お腹空いたぁー!・・・お腹空いたぁー!・・・。うるさいよ僕!黙らないとスパっといっちゃうぞぉ~?いや~ん今日の僕も野蛮だねぇ~。笑顔を見せて!うんっ!ニコォーッ!!ニャハハハ」
カチンッ…ゴトンッ!・・・ゴロゴロゴロ…
「ニャハハハ…っふえ・・・?」
ドゴォォォォオオオオッ!!!!!!
古高ミイラ。廃墟同然に成り果てた自身の元自宅にて、ぼっち演劇を激しく披露していたところ隠し持っていた武装の一つであり強力な破壊ウェポンでもある『手榴弾』をピンが抜けたまま地面へと落下させてしまい、建物ごと爆散。
同時期に元の世界線では。
「うぐっ…か、身体が痛い…飯に何か盛られたのか?いや、有り得ん…それなら臭いで気付く筈だ・・・クソ…全身が砕けそうだ・・・!」
何が原因か、アナミは体の痛みを激しく訴えベッドの上にて完全にダウン。はた又ミイラが通う学校では。
「テメェーら騒ぐんじゃねぇーッ!!殺しちまうぞッ!」
「私物は全てこちらに渡せ!妙な真似しやがったらただじゃすまねぇぞッ!自分の席から動くなよ!」
パラレルワールド全てを股に掛けるテロリスト『ファングス・ゴッデ』の襲撃によりミイラを含めた全生徒が人質に取られていた。偶然か必然か。この日、全ての世界線で古高ミイラという人物達に妙な不幸が訪れた。
「おい、そこのガキ。粒子端末は私物だろ。こちらに渡せ」
「・・・・っ」
「無視してんじゃねぇ!ドタマぶち抜くぞッ!!」
「黙れオールドヒューマンズ。こちとら課金してイベント周回中なんだよ。平均年齢40代のおっさんどもがはしゃいでんじゃないよみっともない」
「なにワケの分からん事を抜かしてんだ!いいからよこせ!」
「なぁぁあッ!!引っ張んじゃない!やめろ!ウチの努力の結晶がぁーッ!」
「糞ガキがなんて力だ…!」
「ぐぬぬ…渡してたまるかぁー・・・イベキャラがもう少しで完凸なんだぁ・・・!」
「いい加減にしろこのガキがぁーッ!!」
ゴツンッ!!
「あばにゃッ!!!・・・ぐへっ…」
ウチは落とされた。闇というもっとも底知れない怪物の中へと。意識が保てない程の脱力感。全身の力が抜け落ちていく感覚が鮮明に感じとれる。でも何故だか眩しいんだ。一筋の光が眠りの邪魔をするんだよ。
『こんにちは、お嬢ちゃん。お一人様ですか?』
真っ逆さまに落ちていた筈の体がしっかりと大地を踏み締め立っている。目の前に確認できるのは受付窓口だろうか。見渡す限りここは美術館か何かだ。でもこんな夢を見る程芸術に長けてもいないしさほど興味も無い。不思議事もあるものだ。
『お嬢ちゃんどうしたのかな?顔色が悪いようですよ』
何も浮かばない。言葉が出てこない。口が開かない。
『では、チケットを発行させて頂きますね。少々お待ちを』
更には体の自由が制限されて思った通りに動かせない。受付をしている奴が人間なのか異星人なのかも定かではない不気味過ぎる空間だ。しかしこんな世の中である以上夢で何が起きようとも不思議では無いのかもしれない。
『お待たせしました。良い経験の旅路へとご案内』
何がそんなに可笑しい。何を笑っている。ここは何処なんだ。そんな質問でさえ口に出来なかった。やはり余計な発言は許されていないようだ。ただ自然のままに今を受け入れ進むのみだと強制されている。不安だ。とても嫌な感じだ。ギギギ…と音を立てゆっくりと開いてゆく扉の向こう側にどんな世界が存在するのかは知らないが、誘われてしまう体にブレーキが効かないという現状、その足を踏み入れるしかなかった。反響する自身の足音が廊下を進むにつれて大きく高鳴り始める。しばらく廊下らしき道を進んで行くと、今まで視界にとらえていた景色が突如として変化。まさにそこは絵画達が我先に目立とうと火花を散らす戦場の風景だった。
「あー、あー、喋れる・・・」
意識的に言葉を発言できるようになったミイラは次に、今立っている場所、というよりもまるでホールを思わせる広い空間、その全貌を見渡し周囲を確認した。
「ん?この絵画って…『悪魔と契約せし惨めな少女』『この世にしがみついた殺人鬼』『全てを塞ぎ全てを見ない優しきお姫様』『世界に抗うたった一つの沈んだ太陽』…これってまさか・・・」
中でも特別目を惹いたのは五つの絵画だった。ウチの予感はおそらく当たっている。『悪魔と契約せし惨めな女』悪魔らしき異形のモノを食している女性の絵。『この世にしがみついた殺人鬼』何らかの遺骨へ祈りを捧げる女性の絵。『全てを塞ぎ全てを見ない優しきお姫様』民衆に囲まれ、目、耳、口、全てを塞がれている少女の絵。『世界に抗うたった一つの沈んだ太陽』天を歩く人々を地から見上げる少女の絵。最初の絵画と最後の絵画。それがアナミとウチにそっくりだったんだ。故に彼女達は全て古高ミイラ、ウチ自身。
「そこのお嬢さん、お若いのに随分と熱心に観賞してますわね」
「誰だっ!?」
「フフ、私はナヴィン・ローラルテ。ナヴィンとお呼びになさってけっこう。どうぞお見知りおきを」
「き、綺麗な人だ・・・」
「あら、素直なお嬢さんだこと。フフフ」
「いやいやいや・・・そんな事よりも、この絵についてお姉さんは何か知ってんの?」
「ええ、知ってるわよ?私の趣味ですもの」
「どういう事さ・・・」
そう問うた瞬間だ。沈黙が二人の間合いを支配し、刹那。ナヴィンと名乗る女の表情が一変した。口角をグッと引き上げ瞳を見開いた彼女の衝撃の一言。
「唯一私が干渉できなかったお嬢さん達ですもの。飾っている意味、分かるわよね?古高ミイラちゃん」
ミイラは思い出した。
『何者かが私達を片っ端から殺しまくってる。全ての世界線でだ』というアナミの言葉を。
「お前…だったのか。アナミから聞いた"何者か"って・・・!」
「私の存在を認めたわね?」
「く、来るなっ!!」
『夢から覚めなさいッ!!』
「今度は誰ッ?!!」
瞬間、ミイラの姿は渦を捲く様にしてナヴィンの前から姿を消した。
「あら残念。ランヴィーナの仕業ね。まったく、昔っから私を困らせるんだから。まぁいいわ」
夢から目覚めた。
「ぬおあぁぁッ!!…はぁ…はぁ…はぁ…」
「うるせんだよそこのガキッ!!!勝手に立ち上がるな!」
「お、おう…まだ居たのね・・・」
あれは一体何だったのか。今となっては美しい女性がいた事だけしか思い出せない。あの不気味に笑った表情が脳裏に焼き付いて離れなかった。
「大丈夫?古高さん・・・」
「ああ、お前こそ無事か・・・?」
「大丈夫…アイツは今いないから」
こいつは親友の黒部夜美香。写真の中で生きる珍人だ。どういう事だと思った諸君はウチの記憶をたどってね。
「てか親友よ、何故こんなにうるさいのだ?警察でも来たんか?」
「ううん。私聞いちゃったんだけどさ…どうやら突然現れた人形?が古高さんの名前を叫びながら暴れ回ってるらしいの」
「・・・リ、really?…」
「古高ミイラァァァァアアアアアアッ!!!!!
出てこいやぁぁぁぁぁああああッ!!!!!」
「・・・よし、拙者ドロンします」