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第5話 赤い髪の少女

「おい! 本当に危険だ! 皆修練場から全員でろ!」


 先輩の言葉を聞き、我先にと新人達が修練場から飛び出そうと皆走り出す。

 このままでは2階も危ないか。


「王、ここも危険です。逃げましょう」

「ああ。しかしあの女の子はどうなる?」

「魔力が暴走しております。ああなっては、あの子が放出しているモノより強力な闇魔法で押さえ込むか、気絶させて魔力切れを待つしかありませんが……」

「どうした?」

「いえ、おそらく今の状態では気絶しても無意識に、魔力を放出しようとするでしょう。その状態が続けば身体は持ちこたえきれずに死に至るかと」

「なんだと! じゃあ、あの子は魔力を押さえ込まないと死ぬというのか?」

「おそらくは。しかも、あの強大な魔力量を押さえ込める人間はほとんどいないでしょうから」


 俺は押し黙ってしまう。あの子はもう助からないだろう。残念だが、自分の強力すぎる力が仇となってしまった。


「さあ、王。こちらへ」


 俺が避難経路へと誘導しようとすると、王は何故だか前へと進んでいく。


「ダイン様、何をしているのでか!」

「いや、私の属性は闇と光。どちらも闇属性の精神干渉の影響を受けづらい。もしかしたら、救えてやれるかもしれないだろう」

「何を言っているのですか! もし、その身に何かあったらどうするのですか!」

「そこまで無茶はしないさ。だが、彼女をこのまま何もせず見過ごしたまま、逃げ帰っては夢見が良くないだろう。それに、国民を何とかして助けたいと願い、行動するのが王の役目だ。そうだろう?」


 王は楽しそうにウインクをしてくる。

 俺は今日何度目か分からない溜息を付いてしまう。全く。俺の心労も考えてくれ。だから、眉間の皺が濃くなるんだよ。


「分かりました。しかし、まずは私が何とかして彼女を気絶させて見ましょう。もしかしたら、暴走が治まるかもしれませんし、治まらなくても力が弱まるかもしれません」

「よし、じゃあそれで! 何とかなるといいな」

「本当ですよ」


 俺達が女の子が残された舞台上へと向かう。全員が逃げ出して修練場には彼女以外誰もいないはずだった。しかし、実は彼女のほかにもう2人残っていた。


☆☆☆


 全員修練場から逃げ出してしまった。

 誰か助けでも呼んできてくれるかな? それは望み薄かな。

 軍の上の人たちには、この子を止めれる人もいるんだろうけど、都合よく側にいるとは限らないよな。それに、さっきからずっとこの量の魔力放出しているから、この子自体そんな長い時間持たないよな。


「ああああああああ」


 いまだに魔力を放出し、行き場を失った魔力は、彼女の周囲を包み込む。

 しかし、なんて魔力量だ。さっきの試合、結果だけ見れば俺の勝ちだけど、俺の方が魔法の操作が上手かっただけで、魔力量はこの子の方が多い。

 ただ、これは俺が原因で起ったことだ。軽いいたずらの気持ちで、過去のトラウマに触れたりしなければ、こんなことにはならなかった。

 さすがに、逃げれないよな。ロリーに怒られてしまう。


「さて、どうすればいいのか」

「本当、どうすればいいんだろうねー」


 急に背後から声を掛けられて、驚いて後ろを振り向く。

 そこには、見覚えのある真っ赤な髪の女の子が立っていた。少し日焼けした肌とショートカットが、活発な子なんだろうなと思わせる。

 皆、逃げたと思ったのに。俺は忠告する。


「ここは危ないから逃げたほうがいいと思うけど」

「君だって残ってるじゃん。それに、あの子を置いて逃げる位なら死んだほうがマシだよ」


 思い出した。

 この子、火属性で優勝してた女の子だ。あの時は、無邪気な顔してたのに、今は真剣な顔で黒髪少女の方を向いている。

 しかし、死んだほうがマシとは。


「あの子の知り合い?」

「ううん。今日はじめて見た」


 なんだ? 死んだほうがなんて言うもんだから、友達かと思ったのに違うのか。

 すると、こちらに黒い靄が飛んでくる。俺は、自分にぶつかりそうな靄に闇魔法を飛ばし、相殺するが、別の靄が俺の後ろにいる赤毛少女を襲う。


「危ない!」


 俺は声を掛けて、そちらも相殺しようとする。

 しかし、彼女は炎を自分の周囲に浮かび上がらせて、靄を消し去ってしまった。


「この位の距離なら、特に私に影響は無いよ。これ以上近寄れば無傷って訳にはいかないけど」


 驚くほどに圧倒的な火力だ。

 しかし、いきなり炎が上がるからビックリした。でも、この子なら……。


「この状況をその炎で何とかできない?」

「うーん、無理かなぁ。あの子を倒すとかなら出来なくもないかもしれないけど。それは彼女を消し炭にしちゃうってことだし」


 怖。


「残念だけどあの子を救うことは私には出来ないみたい」


 そうか、それじゃあ。


「俺がやるしかないのか」

「そうだねー。頑張ってー」

「随分軽いね」

「だって、近くに君位しか何とかできる人いなさそうだし。今回はヒーローになる権利を君に譲ってあげよう」


 そう言って、赤髪少女は俺の背中を押す。


「おっと」


 押し出される形ではあるがしょうがない。

 俺は黒髪少女との距離を縮めようと一歩ずつ進んでいくが、黒い靄が俺に牙を向いて襲ってくる。俺が闇魔法を放出して対抗しようとすると、俺の目の前に火の壁ができて、襲ってきた靄を吹き飛ばす。


「私がギリギリまで、援護するから頑張って」


 赤髪少女がこちらに手を振りながら、叫んでいる。

 ありがたい。これで力を温存できる。

 俺は襲い掛かる黒い靄をなるべくかわしながら、先へと進む。かわしきれないものは、赤髪少女が炎で飛ばす。

 しかし、黒髪少女に近づくにつれ、闇魔法の濃度が濃くなってきた。赤髪少女の援護もここいらが限界だろう。これ以上はコントロールを誤れば本当にあの子も俺も消し炭になってしまう。

 俺は赤髪少女に、もう大丈夫と手で合図を送る。

 これより先は援護は無い。気合を入れなおす。

 次々に襲ってくる黒い靄に、俺は闇魔法を放出して防ぐ。1発2発3発と途切れることなく彼女から放出され、俺を拒絶するように的確に狙ってくる。

 あと、彼女まで5メートルといったところで、靄の形状が変わった。さっきまでは、空気のような感覚に近かったが、粘着質になり、俺にまとわりつこうとする。


「くそ、邪魔だ」


 振り払おうとすればするほど、身体に黒い塊が覆ってくる。


「このままじゃまずい」


 俺は全身から魔法を放ち、まとわり着く闇魔法を一瞬跳ね除ける。そして、魔力を放出と同時に彼女へ向かってダッシュし、距離を詰める。

 あと、数10センチ。俺は手を伸ばす。

 よし、届く。

 その僅かな気の緩み。慢心。俺は言葉通り足元を掬われる。

 届くと思った途端に足が動かせなくなる。

 何故?

 目線を下へと移すと、靄が足に絡みつき、まるで泥の沼にいるかのように微動だにしない。

 しまった!

 その瞬間、彼女の闇魔法が俺の中へと侵入してくる。

 くそ! 最初に戦った時よりも魔力量が多い。彼女に戻せない。

 俺の精神を侵してくる。


「うわああああ」

「君! 大丈夫?」


 遠くから聞こえる赤髪少女の心配している声が段々と聞こえなくなる。自分の脳や意識が誰かにのっとられていく。

 気持ちが悪い。頭が痛い。身体の力が抜けていく。

 そして、代わりに聞こえてくる男性の怒号。


『逃げろ! パームの奴らが奇襲してきたそうだ!」


 この声は聞き覚えがあった。そして、女性の声も聞こえる。


『嘘? 何でこんな田舎町に?』


俺は闇に堕ちていった。


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